超密集地帯
32、〜体育の授業?〜
空から見た景色が、まるで肉の密集地帯だ。
そう言いたくなるほど、太り過ぎ……以上の太り過ぎ。
肉塊竜たちがひしめきあう世界。
そんな中、この地方で最も痩せている子竜の生徒・レナスは
配信されているライブ映像を見ていた。
ちなみに、体重が500万tを超える彼が痩せているか、というのは
この地の”平均から”そう言えるとしか言いようがない。
自分の肉で周囲がほぼ見えない為、
基本的に視界は眼前に表示される映像頼りになる。
『え〜〜〜、それではぁ、はぁ、はぁ、
本日の、授業を、はじめようと、ふぅ、ふぅう、思います』
ぷふぅふぅと荒い息でなんとか喋るのは、
身体を動かすことが得意な黒竜の体育教師
ワグナス=アバロン先生だ。
現状、実技のできる稀有な存在である。
『ん、ん゛ん゛!
ごほん、では、今日の、内容は、前に言ってた通り、ふぅ、
”姿勢転換”をやりたいと、思う……ふぅーーー……
各自、サポーターの、補助レベルを、1段階以上、落とした状態で、やってもらう』
現在の世界で、機械や陣術の助けなしに動ける竜は、ほぼ存在しない。
歩行はおろか、自立はおろか、まともな生活すらままならない彼らにとっての、生命線。
その補助レベルを落とす、というのは
全身に強化ギブス(彼らの贅肉は弱体化ギブスだが)をつけたまま、
動いてみる、という重労働に等しかった。
『それじゃあ、ひぃ、ひぃ、私が、ふぅ、まずは、はぁ、
最初に、ふんっ、ぐぅっ、少し、手本を、ぜぇ、見せるのでぇ、ふぅ、
しっかり、みて、できるだけ、真似するように、ふぅ』
連続で喋り続けるだけで疲労困憊の肉塊竜。
彼を映すカメラが遠ざかり、だいたいの全景が映し出される。
肉の山に、不自然に丸みを帯びたお腹。
彼にとってその状態は、まるでスポーツマンのように引き締まっている、つもりなのだ。
最も、それは授業の配信前に、無理やり高密度の圧縮食糧を詰め込み
パンパンに膨らませただけの、過食状態であり
それゆえに普段にまして息苦しそうなのだ。
生徒も彼自身も自覚しているのだが、
体育教師としての最後のプライドなのかもしれず、
無粋なツッコミは誰も入れないようにしている。
ズズ、ズズズ……!!!
地面に足がついてるのかすら判別不能な巨大な肉の塊が、
音を立てながらゆっくりと向きを変えていく。
「すげー」「あれで補助3段階抑えてるって、ワグナス先生マジ半端ねぇ」
実際、そこまで動ける竜となると、もうなんらかの競技で活躍できるレベルだ。
歩行競争とか。
姿勢を……というかやっとの思いで”向きを変えた”彼は、
今にも倒れそうな表情で告げた。
『ぜへぇーーーーーー、ぐひゅぅうううううううーーーーー!
ひぃい、はぁあ、ぶふぅう、はぁ、ぜぇええ、んぐっ、っぶは、っはぁ、はぁ!!!!!
そ、それ、じゃあ、みんなも、それぞれ、やれるはんいで、設定を、んぷっ、かえて、ひぃ、やって、みでぐれぇ、ぜぇええーーー……!!』
『せ、先生は、す、すこし、休憩、するので、それぞれ、姿勢転換を、録画して、ふぅう、のちに、ちぇっく、するので……ふぅう……!!』
そのまま、配信の映像は途切れ、先ほどのワグナス先生が”向きを変える”参考のビデオが繰り返し表示された。
「ふぅっ、ふぅ、は、腹が減って、だ、駄目だ、用意していた、食事を……!
ふぅっ、はふっ、んぐ、むぐ!!!」
バクバク、ガツガツ、
というよりはごぶごぶ、どぶどぶと飲むような勢いで
好物のジャンバラヤを
米だけで数百キロあるそれを、どんどん平らげていく。
通常の材料にくわえ、メートルアグやテオブロマデーツもふんだんに盛り込んだ、
カロリーの暴力だ。
すぐさま体型が維持できなくなり
どぶん!!!ぶよん!!! と肉が溢れ、腹も、全身も、肥満スライムのごとく波打ちながら、原型を失っていく。
「ぶはっ!!っは、っはぁ!!!ふぅーーーー……!!!!」
巨体を維持する為、エネルギー消費後は特に食欲が強まるし
”消化吸収率”も高まる。
たった1日でも肥え続ける彼……
いいや、この世界の竜達は、 その体重を更新し続ける。
1700万tの体育教師が2000万tを越える日も、そう遠くない。
その大台を通り越してなお肥えている他の教師竜は
もっと多くいるからとんでもない。
ちなみにまともに補助レベルを落として授業をクリアできた生徒は、
レナスを含めて、数えるほどしかいなかったという……
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