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カーザ・ミーア

13、私の家

それから、随分と月日が過ぎてしまっていた。

いつしか、良い案が思い浮かばない中で、自暴自棄になって暴食を続けてしまっていたらしい…
常にエラー音を響かせる、陣術の体重表記を見て、私は乾いた笑みを漏らす。

いや…きっとエラー表示が出てしまっているのは、私だけではないだろう。
周囲のベクタの竜…いや、他の大陸の竜だって、もう自分の体重をしる術を無くしてしまっている筈なのだから。

私達の身体は…もう…互いの肉が触れ合わない場所がないと言う程に太り切ってしまっていた。
積み上がった肉は、高い山脈も顔負けな程に盛り上がり、体高数千メートルを越えている竜は珍しくなく、太り方の特に酷い竜ならば、大気圏間近と言う者も、ちらほら表れているという始末。

最早、ドラゴルーナの表面は、そんな積み重なった竜達の脂肪によって埋め尽くされていた。
もう…全ての竜の体重を合わせずとも…僅かな数の竜だけで、ルーナ自体の質量だって越えているかもしれない。
それ程までに、この世界の竜は太り切っていた。

それでも…私は…考え続けた。
そうして、数え切れないほどの試行錯誤を繰り返した結果、私は、一つの結果を生み出す事が出来たのだった。

それは、陣術の新しい法則と言っても良い程の物。
最早、部分的でなら、陣術の域を越え、理術にすら迫るであろう自信があった。

この新たな陣術の機能は、大雑把に言ってしまえば、そう遠くない未来、星で暮らせなくなった竜達を宇宙で生活可能にする物である。

まず、陣術の重力制御を解き放ち、無重力圏内まで身体を浮き上がらせる。
出力は高いが、回路の接続が悪いのか、本来の性能を発揮できなかった、この世界線の陣術に元の世界線の技術を応用した結果、この世界の竜の質量でさえ、性能上では浮かばせることが出来る。

そして、宇宙の過酷な環境に耐えられるように、私が昔、アドレ君に使って貰っていた防御壁の膜で全身を包み込む。
呼吸器系の生成回路も同時に詰め込めば、そのコロニーとも言える場所で生きていることは充分に可能な筈。

そんな竜一人用のコロニーの中では、現在も竜達の身体の上で行われている農業や漁業を始めた食料の生成を行い続けるのだ。
それで、惑星ドラゴアースの軌道を漂いながら、満足な生活を営める。

そうなると、問題となるのは、陣術の消費エネルギーになるのだが、魔力だけで足りない分は、恒星コロニアから常に届いている光から供給する事にした。

しかし、日々身体を巨大にさせ続ける竜にそれだけでは、エネルギーが足りないだけでなく、陣術もいつかは負荷に耐えられなくなってしまうだろう。

だけれど、その問題も、宇宙を漂っているデブリやダークマターを始めとした物質を分解し変換した物をエネルギーや陣術回路の拡張に当てる事によって解決するつもりだ。

宇宙の物質や、余ったエネルギーは、予め組み込まれたマクロ術式によって、陣術回路のサイズ自体を使用主に合わせて巨大化させていく。

片方の世界線の知識だけならば、机上の空論、お伽話、そんなレベルの話だと思われてしまうだろうが、両方の世界線の知識や技術を合わせた結果、無数の陣術回路を大出力で連結させ、各々の足りない部分を補い、更に成長を続ける…術式が完成したのだった。

流石に、永久機関とまで言われている理術には及ばないだろうけれど、少なくともこの術式なら、宇宙上に漂う膨大なエネルギーが尽きない限りは、実質的に無限に稼働が可能であった。

そして、何より、既存の技術を組み合わせた陣術である故に、この時代の技術力でも量産が可能なのである。
つまり、例え今後、竜達が星を潰す勢いで太り過ぎたとしても、この衛星全ての竜達が宇宙へと生活の場を移す事が出来るのだ。

「ネージュさん!ネージュさん!」
体重過多から鳴り響く、陣術のエラー音…
その日常の一部となっていた音と共に、アドレ君の声が聞こえてくる。

「あれぇ…?あどれくぅん…?ぐぇぇっぷぅ…げふっ…どうじだの…?」

「いえ…ネージュさんったら、もう数日以上、陣術の研究に熱中していて…何度か声を掛けていたのですが…」
彼の声に気が付かない程、私は集中していたみたい…

「ぐひゅぅ…ごめんねぇ…げふっ…すひゅぅ…」
それに、研究中も片時だって、サポーターによって運ばれ続けていた料理を食べ続けていたらしい…私の身体は…それはそれは…酷い有様だった。

気が付けば、私の身体の上にアドレ君の巨体を乗せられるほどの…脂肪の山…

アドレ君だって、ベクタで一緒に暮らし始めてから、随分と太っていた…筈…
アドレ君の今の体重は…2890兆t…

そんなアドレ君を乗せて…いや…彼を脂肪の隙間に挟んでしまっている私は…彼の数万…いや…数百万倍…は、大きいだろうか…

何でいつの間にこんなに大きく…とは思ったけれど、片時も傍から離れずに浮遊しているサポーターの群れ…
そんなサポーターから絶えず、何兆トンもの料理とアスターゼ草のカプセルを呑み込み続け、それこそ、寝ている間ですら私は食べ続けていたのだ。

それに…今思い出すと、あれだけ太りにくかった元の世界線の環境の中、世界一の体重を誇っていた私の体質は…元々太りやすかったのだから…
そんな私が、これだけの量を食べ続ければ、太るのもの納得だった。

体重こそ、この世界線の陣術を以てしても…もう測れないけれど…
きっと、該の桁なんてとっくの昔に越えてしまっているんだろうな…

「本当に…大丈夫ですか…?最近…本当に元気がなさそうだったので…」

「えへへぇ…ちょっど…ぐぇぇぇっぷ…研究で…ぶひゅぅう…すぅ…だぐざん…うっぷ…なやんでだ…だげだがらぁ…」
少し前は…危機的な状況に置かれいても、食べる事に夢中な、この世界の竜を少しだけ軽蔑してた所もあったけど…

私も、もう、他竜の事は…言えないわね…
だって、私の事をこんなに心配して愛してくれる竜の呼びかけにも気が付かず、食べる事と研究に夢中になっていたのだから…

「もぉ…ネージュさんのお父さん達も、何度呼びかけても答えてくれないし…日増しに太っ…いや…大きくなるネージュさんの身体が、周囲の竜達を押し出していくしで…正直、初めて会った時は、あんなにも痩せていたネージュさんが、こんな早さで太ってしまって…止めようとしても気が付いてもくれなくて…心配してたんです…」
本当に心配そうな声色…その声には僅かに涙すら滲んでいるように聞こえる…

「ぼんどうぅに…ごめんでぇ…」
そんなに…彼に心配を掛けてしまっていた自分が恥ずかしい…
いや、恥ずかしさは、それだけではない…

まさか、この世界線の竜に太りすぎで心配されるなんて…
もう、他竜の事なんて、言えないわね…

謝りながら、私は出来るだけ彼を安心させてあげたくて…
でも、私には落ち度しか無いから…陣術越しに見えるアドレ君の顔に微笑むことしか出来なかった。
尤も、両頬の肉を始めとした、ありとあらゆる部位の脂肪に圧迫された私の顔が、微笑むことが出来たとは…思えないけれど…

「あの…前から…ネージュさんに渡そうと思っていたのですが…」
微笑みを浮かべられる体型だったとしても、引き攣り、はにかんだ笑みしか浮かべられていなかっただろう私の顔を見ながら、アドレ君はサポーター越しに何やら輪のような物を送ってくれた。

「え…げふっ…ごれっで…?」
彼が私に送ってきたのは、自分の肉で顔が埋もれてしまわない様に肉を抑えておく為のフレーム。
この世界線の竜達は、指ですら肉に埋もれて見えない為、フレームは、竜達が出来る数少ないお洒落でもあった。
そして、恋人に結婚を申し込む時、首に巻けるフレームを送る習慣があると言うらしいのだけれど…

それを…アドレ君が…私に…贈ると言う事は…つまり…!?
この…フレームは…結婚指輪ならぬ…結婚首輪って事なのかしら!?

尤も、この世界線の竜の平均的な体重では、たった一つのフレームでは積み重なり続ける肉を抑え込むのは無理な話で、顔の周囲を様々な機材で補強して、大きな深いクレーターを作るかの様に顔が埋まってしまわない様にしているのだけれど…

「その…僕…ずっと前から…ネージュさんの事が…す…好きで…でも…中々渡す勇気が出なくて…受け取って…貰えますか…?」
言葉をふり絞りながら、アドレ君は私に問う。

アドレ君は、私の首周りに合うように最も大きなサイズを選んでくれたのだろう。
その、大陸の外周よりも巨大なフレームでも…私の首は覆えない…そもそも、首が何処にあるかなんてもう分からないのだから…

それでも…彼の気持ちを受け取るために私は、贈ってもらった首輪を、私の顔のある深いクレーターの中心にそっと置く。
重い首輪は、私の柔らかな脂肪へと深々沈んでいき、上から覆いかぶさる肉によって固定される。

首には…着けれられなかったけど…これで良いかしら…

「ぶひゅぅ…あどれぐぅん…ありがどうぅ…」
私は、くぐもった声をアドレ君に届けようと精一杯の声を出した。

それでも、ちゃんとした言葉にはならなかった…
こんな時にちゃんとした言葉なんて…出せるわけない…
だって、こんなに嬉しくって…涙が溢れてくるのだから…

アドレ君の気持ちを受け取った私は、その後、早速完成した新型陣術の設計をシャイア第一研究所を始めとした、世界中の研究所に送ったのである。

当初、相手にしてくれなかった彼らも、危機感を……いや、常に触れ合う互いの巨体に邪魔されて、圧迫されてしまうから満腹になれないと不満を募らせていたらしく、積極的に新型陣術の量産に着手してくれた。

「これから、宇宙で暮らしていくのですから、準備をしておかないといけませんね!」
無事に回路の量産が決まった後、そう言いながら、アドレ君は張り切っていた。

首輪を貰った後も、何故か敬語が抜けていないのだけれど、彼曰く…癖になっているものって中々抜けなくって…だそうだ。

私は、そんなアドレ君にこれから始まる長い生活の準備を任せきりにしてしまっている。
何故なら、もう…この世界の竜でも屈指の体重である私は…片時も食べる事を止められないし…その量だって、片手間に何か出来る程、少なくはない…

流石に…アドレ君には…悪いとは思っているけれど…
色々と問題が無くなって、心が晴れ晴れとしていた私は、頼りになる彼に甘えきる事にしていたのだった。

「これからは、実質自給自足ですからね…あ…これなんてどうです?」
アドレ君は、料理を貪る私の顔の傍…広大な面積と深さのクレーターの中で、陣術を弄りながら、私へと楽しそうに問いかけてくる。

彼も…太ってはいるのだ…
それはもう…この世界線に来たばかりの私が、今の彼を見たら腰を抜かしていた程には…
そんな、彼の体重は確か…やっと1該tになったといったところ。
そう、改良を続け、性能上では恒星の重さだって測れるようになった陣術には表示されている。

十分すぎる程に太っているアドレ君だけど…
そんな彼を、顔や首だった肉の上に乗せている私の体重って…
もう…この衛星ドラゴルーナの質量を超えているんじゃないかしら…

ぶよぶよと何処までも続く私の肉は、比較的痩せている竜達をその肉の間に挟み込み、私と同等に太っている竜とは、肉を重ね、積み上げ合っている。

そんな私の体高は、既に衛星の大気圏を越えてしまっていた。
きっと、宇宙から今のドラゴルーナを見れたとしたら、星の表層を覆い、肉でどこまでも体高を引き上げている竜達の身体によって、本来の大きさよりも数回り巨大になったこの星を見る事が出来るだろう。

反重力術式で体重を抑えているから、もう少しの間は、私達の質量に星が割れる事は無いけれど、そろそろルーナを離れるべき頃合いだろう。

「そろそろ…行きましょうか?」
私は、何度か調整と改良を続けた声帯補助術式越しに、アドレ君に問いかける。

「はい。何処までもネージュさんと一緒に…貴女を一人にはさせませんから」
陣術越しの画面に見えるアドレ君は、私に向かって微笑んでくれる。

当然、アドレ君の顔も肉で覆われているのだから、微笑んでいるか判断できないけれど…
私には、アドレ君が微笑んでくれている…そんな確信がある。
だって…私達は、もうお互いの気持ちが分かるくらい…一緒に居るのだから。

「ありがとう…アドレ君…これからは…私が…アドレ君と私の…家になれると良いな…」
本当ならば、心の居場所とか…そう言う意味で言いたかったのだけれど…
今の状況からしたら、本当に私の身体が私達の家になっているのだから、今一締まらないわよね…

「ふふっ…僕も、ネージュさんの家になれるように頑張ります」
でも、私の気持ちは伝わったのか、アドレ君はそんな風に返してくれた。

ありがとうって気持ちと…上手く察してくれた嬉しさで、思わず抱きしめたくなるけれど…
当然、私の巨体では、彼を抱きしめてあげられないので、我慢する…
いや…私の身体の上に、ずっとアドレ君が居てくれるのだから、常にハグしているのと変わらないのでしょうけれど…

結局、今一締まらない気持ちのまま、私は新型陣術を起動する。

ふわり…

この世界線で、ゴディヴァに乗り降りした時に感じた浮遊感と同じ感覚と共に私達の身体は浮き上がっていく。

ゆっくりと…慎重に速度と防御壁の強度を調整しながら私達は、あっと言う間に外気圏を越えて…ドラゴルーナを飛び出し宇宙へと到達した。

「ふぅ…げふっ…酸素生成、軌道修正、防御壁…全部異常は無いみたいね…あぁ…良かったぁ…」
衛星ドラゴルーナの周辺軌道をゆっくりと回りながら、私は各術式に異常が無い事を確認し終える。

「お疲れ様です、ネージュさん。じゃぁ、次は、食事にしましょうか」
食事自体は、宇宙に出てからずっと片手間に食べているのだけれど、それは、所謂軽食の様な物。
私達の胃袋を満たすには、到底足りない量。

「そうしましょうか」
そんな私達の胃袋を満たす為、私達の身体の上に敷設した農場…牧場…果ては海まで…

様々な食材を自給自足する為に作った広大な…それこそ、星並みの広さのある私の身体の上に作った食糧庫とも言える場所から、マクロ術式で作られた様々な食材をアドレ君が陣術を使って調理してくれる。

私が作っても…良いのだけれど…
生まれてこの方、研究と食べる事しかしてこなかった私より、アドレ君が作った方がずっと美味しい。

本当にアドレ君には、甘えてばっかりで悪いけれど…
料理を作るアドレ君は、嬉しそうで、そんなアドレ君が格好良くて…頼りになって…可愛らしい。

そんなアドレ君の顔を陣術越しにずっと眺めていたいな…なんて考えている間に、私の口には次々と出来立ての料理がサポーターによって運ばれてくる。

そうして、私は美味しい料理を食べながら、その身を大きくし続ける。
でも、別にこれ以上大きくなったとして、何か問題がある訳でも、誰かに迷惑を掛ける訳でもはない。
もう、体型の事なんて、私は全然気にならなかった。

「けふぅ…アドレ君も少し太ったかしら?」
日々、少しずつ私の顔周辺に感じる重さが強くなっている気がする。

「うぷっ…ネージュさんがまた太ったからじゃないですか?」
そうかしら…?
確かに…私の身体は…大きくなり続けているけど…

今の私の体重は、2230該t…
もう、私の身体は、ドラゴルーナよりも数倍近く大きくなっていた。

そろそろ、ルーナ周辺軌道を回っている自分の膨れ上がり続ける身体が、ドラゴルーナに触れてしまうだろう。

そうなれば、私の巨体に押し出されたルーナが、惑星ドラゴアースの周回軌道上を離れてしまう。
そこまで太っていない為に宇宙へ出れていない竜達がまだ沢山住んでいるルーナにそんな事があっては不味い…

私は、陣術を使用し、進路を調整しながら、惑星ドラゴルーナと衛星の軌道を邪魔しない位置に身体を動かしていく。
その結果、衛星セルリアンセレストから半周程遅れた位置に辿り着いたのだった。

計算上では、セルリアンセレストと同じ軌道を辿っているが、私とセルリアンセレストの回る速度が同じな為、この位置ならば、ドラゴアースを回る他の衛星の邪魔にはならないだろう。

「くぷぅ…おがわりぃ…げふっ…」
陣術によって表示される画面越しに、まだルーナに居る両親を始めとしたこの旅でお世話になった竜達と時折、食事会を開いては一緒に楽しんだ。

その殆どは、物を食べる咀嚼音ばかりで、会話は少ないけれど、美味しい料理を皆で食べている気がして、自然と皆の食事量は増えているように思える。

会話がなくとも、ただ食べているだけで幸せで…
いつしか、陣術による声帯の調整もおろそかになってしまっていた。
でも、言葉に出さなくても、アドレ君は色々と察してくれるし…いいかなって…

そうして、私は際限なく身を肥やしていく。
そんな、ある日の事。

ドッポーンッ!
何か、私の身体に大きくて重いものが当たるような感覚があった。

星すら大きく超えた私の脂肪越しに感覚が伝わってくるのだから、それなりに大きな何かが当たったのだろう…巨大隕石か…それとも…

何が当たったのかしらと、陣術で調べてみれば、それは、衛星セルリアンセレストだった。

あぁ…軌道計算はしていたけど…私の体重が増えていくことまでは…計算に入れてなかったのよね。
恐らく、私の身体があまりにも重くなりすぎて周回する速度が落ちていたためか、セルリアンセレストと周回遅れになって、ぶつかってしまったようだ。

そんな私の巨大に膨れたお腹によって、冷たい氷と海水で出来ているセルリアンセレストは、半月上に凹みながら、私の身体へとめり込んでいる。

本来ならば、重大事件な筈だけど…
なんだか、大きくなればなるほど、危機管理能力とか…時間の感覚がゆっくりになっていた私は、そんな事も気にせず、寧ろ、冷たい海水や氷が、私の身体にぶつかって跳ね上がるのを楽しんでいた。

だって…常に大量の食事をしている、私の身体は…胃に詰め込まれた料理を消化しようと必死で…常に身体が火照っているのだから…冷たい海水が身体に触れると、とても心地が良かった。

まるで、海水浴をしているかのような…
いや…海にしては小さすぎるから…仔竜用のプールではしゃぎ回っているような…そんな気分…

「ひゃぁ…」
身体を擦り付けるかのように、セルリアンセレストにぶつければ、宇宙空間まで飛び散る水しぶきに声をあげてしまう…
もっとも、凄いくぐもっていて、言葉にもならないのだけれど…

「ねぇ…あどれくぅん…がいずいよぐみだいでぇ…だのしいねぇ…」
私の火照った身体に触れる度、暖かい手で小さな氷を握るかの如くセルリアンセレストの氷山が溶けていく。

防御壁と、分厚過ぎる自身の脂肪で、身体に伝わる感覚は、殆どないけれど、この世界線のベクタで暮らしている内に身体が大きくなりすぎて、出来なくなってしまっていた水浴びを私は存分に楽しむことにした。

「はい…また…二人で一緒に海水浴が出来て…とても嬉しいです…」
この世界線での私が最初にゴディヴァに乗っていた時って…海水浴をしたのかしら…
もしかしたら、アドレ君と私の立場が逆だったりして…

海へと飛び込むアドレ君を心配そうに見つめる、痩せていた頃の自分の姿…
そんな光景が一瞬脳裏に思い浮かぶ。

でも、私の事だから、アドレ君の心配はしても、嬉々として海に浮かぶ巨大なアドレ君の身体に飛び乗って一緒に遊んでいた事だろう…
だからこそ、アドレ君は…また…と言っているのかしら…

そんな事を考えている内にも、身体を押し付けたセルリアンセレストの海水は少しずつ宇宙へと散り散りに飛んでいく。

「あぁ…ぎもぢよがっだぁ…」
セルリアンセレスト最後の一滴が宇宙を漂っていくのを名残惜しく思いながら、私は見つめていた。

「あぁ…ぞういえばぁ…」
惑星ドラゴルーナの周囲を回る衛星の一つである、セルリアンセレストが無くなってしまっては、他の星まで軌道がおかしくなってしまうのではないかしら…?

そんな事を不安に思ったけど、それは杞憂だったみたい。
だって…無くなった衛星の代わりを務めるかのように、そこには私より随分と痩せてはいるけれど、宇宙へと住処を移した肉塊竜が居たのだから。

それも、一人だけではなく、数え切れないくらい沢山の竜達が、新たな衛星となって、ドラゴルーナを回っている。
竜ならば、仮に軌道を外れてしまったとしても、防御壁が守ってくれるため心配は要らない。

私は安心すると、軽食ではない本格的な食事を再開する。
食べる量も…10該トン…100該トンと少しずつ増えていった。

そして、私の身体は、惑星ドラゴアースと同等のサイズへと成長していく。
恒星コロニアを回る幾つもの惑星のうちの一つになった私と、その周囲を回る数多の衛星と化したルーナの肉塊竜たち。

それを見ていた私は、ふと思う。
あぁ、私が大きくなれば…星の軌道を修正する必要もないのかしらね…と…
私の周りを肉塊竜や星々が回ればいいのだ…

そうすれば、細かい計算や心配事をせず、食べる事に集中できる…

「あどれぐぅぅん…ぐぇぇぇっぷぅ…!もっど…げふぅ…むしゃり…ごはんぅ…げぷっ」
また身体が大きくなるにつれて…少しだけ、曖昧になって…ふわふわと心地の良い思考の元、私はもっと食事を要求する。

「今、用意しますからね」
そう言うと、私の顔の上に重い身体を佇ませるアドレ君が、嬉しそうに料理を届けてくれる。

料理は…とっても…おいしくて…
食べる量も…沢山あって…私の身体が広がれば広がるだけ…作れる量も増えるから…

もっと…もっと沢山食べて…身体を大きくして…
そうすれば…もっと沢山食べれて…また身体が大きくなって…
私の大好きなアドレ君は、微笑みながら、幾らでも美味しい料理を作ってくれる。

「ねぇ…くちゃ…あどれぇぐぅぅん…ぐぇぇっふぅ…むしゃり…」

「どうしました…?」

「くちゃ…いずもぉ…げふっ…ごえぇぇっふ…はむっ…ありがどぉう…」

「こちらこそです…これからも…ずっとよろしくお願いしますね…」

美味しい食事と…最愛のアドレ君…
それがずっと続くだなんて…あぁ…何て幸せなんでしょう…

私は、恒星の周囲を回りながら、身体をどんどん大きくしていった。

そうしている内に、大きくなった身体の周辺に惑星が回り始める…
それでも…私の食欲は止まる事を知らない。
だって、幸せの味は…こんなにも美味しくて…止められるわけがないのだから。

更に大きくなった身体は、1溝tを軽く越えた私の周囲には、コロニアを始めとした様々な恒星が回り始める。

あぁ…もっと…どこまでも…大きく…この甘美な夢のような感覚に浸かっていたい…

私は…どこまでも…どこまでも…肥え続けた…
それは、間違いなく、ありとあらゆる次元を探しても、私程、巨大な存在は居ないと確信が出来ても、終わりは見えなかった。




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