カーザ・ミーア
12、大問題
私達は、ベクタ…と言うより、ベクタを覆っている竜達の一匹である、私のお父さんやお母さんの身体の上での生活を続けている。
農業を始めとした、第一次産業系で使われるマクロ術式をお父さん、アドレ君と共に改良しながら、お母さんの作った美味しい料理を鱈腹食べる毎日。
それは、私が夢で何度も何度も見た、幸せな生活そのものだった。
しかし、そんな幸せな生活がいつまでも続くと思っていた…ある日の事。
ドゴーッン…ズシッ…ミシッ…
唐突に響き渡る、今まで聞いたことのない轟音。
その音の主は、ある一人の恐ろしく巨大に太り切ったレイヴン桃竜が発したものだった。
肉塊竜の中でも更に太り切った、この世界線のベクタに住む竜の中でも、別段重い竜の陣術回路が、魔力切れで全て停止してしまったらしい。
いや…あまりにも重過ぎる、その竜の重さに回路が焼き切れてしまったのだろう。
反重力術式を使っていても、120京tを超えていたその竜が解き放った質量は凄まじく、その衝撃は、レイヴン桃竜である彼女が住んでいたアズライト諸島から、私達の住むベクタまで揺れと音が届くほどで、このドラゴルーナが歪み、凹む程の衝撃に、ドラゴルーナ中の竜の肉が大きく波打つほどだった。
幸い、極端に肥満への耐性があるので、術式が切れたところで本人の身体や、周囲の竜への被害は全くなかったのだが、寧ろ、危険だったのは、星の方だったのである。
もし、重過ぎる竜の質量から守るために大陸全土に予め張られていた陣術と理術による強力な障壁が無ければ、ただ、一人の竜が生み出した衝撃で、マントルは勿論のこと、星の中心核ですら、ひび割れ、内部から崩壊していただろう。
そんな事があった日から、私は、この世界の今後について考え始めていた。
爆発的に重量を増やす竜達。
その重さは、陣術によって軽減されているが、それが一斉に負荷に耐えきれなくなったら…
実際、陣術には限界はあるし、私を含めた竜達の太る速度に、そう近くない内に耐えきれなくなってしまうだろう。
もし、そうなった時、現在のルーナで最も痩せている竜の体重ですら、数百億トンになるのだから、その肉塊竜達の過重を一気に掛けられたとしたら…
この衛星ドラゴルーナはどうなってしまうのだろうか…?
「ぐひゅ…ぶひゅぅう…だいへん…なごどに…」
声帯を整えても、もう真面な声は発せない。
それでも、恐怖から声をあげてしまった私は、慌ててその時の事を計算する。
「なんなど…ごで…」
陣術を起動させて計算した、最悪の事態のシミュレーション。
その結果は…
ドラゴルーナのありとあらゆる方向から…無数の亀裂が入り…
「い…いやよぉ…ごんなの…」
もう…その結果を…私は怖くて見ていられなかった。
でも…このまま…この星の竜が太り続ければ…
この星に竜の居場所がなくなる事は…確実だった…
その結果を見た、私は、もう…長い間止めていなかった食事の手を止めて、理術、陣術の研究者である両親に相談しようと決める。
「ひゅぅ…だいへん…なの…ぐひゅぅ…」
声で説明するのは…もう無理だから…
息が直ぐに切れてしまうし…声のノイズも多すぎる。
何せ私の体重も…もう約60京t…それも陣術で身体を軽くしているのにも関わらず…
私は、声で説明するのを諦めて、先程計算した結果を二人に送る事にする。
「ばはっは…ねーじゅはぁ…ぶひゅぅ…おおげざだなぁ…」
必死に伝えたつもりだったのに…
お父さんも、お母さんにも…そんな事ある訳ないじゃないかと、食事の手を止める事無く、聞き流されてしまった。
その後、私はすぐさま、陣術を使った連絡網で、各大陸の顔見知りで会った研究者達に連絡を入れる。
だけれど…私が、どんなに必死に訴えても…
そんな確率は、万が一にも発生しないだろうと、陣術は完璧、ましてや、貴重な理術だって使用しているのだから、高々生き物である竜の重さで星が崩壊するなどありえないと…
相手にすらして貰えなかった…
でも…私は過去にも何度か、ある一帯の陣術の過剰使用によって、全エネルギーが枯渇し、その一帯の陣術回路が全て停止したと言う情報を知っているのだ。
しかし、そんな過去の事件を持ち出しても、周囲は言うのだ。
そんな事が二度と起きない為、永久機関つまり…理術を利用して作られたアーティファクトがサポートとして使っているのだからと…
話は、それだけかと言われ…
彼らは、話している間止まってしまっていた食事の手を再開していく。
数秒だって食事を我慢出来ない、この世界線の竜達は、それ以上陣術の連絡を取り合ってくれなかった。
久々に激しく行動をした私は、数分と言う…果てしない時間していなかった食事を再開し、空腹でねじ切れそうだった胃袋に次々と料理を詰め込んであげる。
私が、心配し過ぎなのだろうか…?
でも…理論上では…無限の出力を持つと言われる理術でも、私達は理術に関して殆ど理解できていないわけで…
もしかしたら、いつか、限界が訪れてしまうのでは…?
そんな不安が、どうしても拭えない。
何故こんなに私だけが不安なのだろう…
そう思った時、私は、ふと気が付いた。
あぁ…私は…この世界線の竜では…無いからかしら…
そう…だって、ここは、あの元居たベクタ大陸よりも、怠惰に…食事の事で頭がいっぱいな肉塊竜だけの世界線。
私も、他竜の事は言えない程に染まっているけれど…
でも、まだ…目の前の大問題すら気にせず、食べ物の事だけを考えられる程…私はマイペースになり切れなかった。
いや…本当は…ずっと美味しい料理を食べる事だけを考えては…いたいけれど…
でも、有識者達ですら、間延びした声で、食事の事しか考えられない以上、この問題に対処できるのは私だけ…
それから、私は、昼夜問わず、この問題を解決する為の研究を始めたのだった。
この星の表面に、既存の物よりも更に強力な防御壁を張れば、過重が掛かったとしても、星の形状が維持出来ないかしら…?
いや、防御壁を起動するタイミングが予測できない。
全世界の…どこの陣術がいつ切れるか何て全て管理しきれるわけがない…
ならば、全ての竜に普段使っている反重力回路に加えて、もしそれが使えなくなってしまった時の為の予備の回路を持って貰ったらどうだろうか…?
そうすれば、片方が切れても…予備の回路によって重さを維持できるはず…
いや…それは無理でしょうね…
日々、信じられない程の体重増加を続けている竜達相手に、予備の陣術を用意し続けるなんてコスト的に無理だろう…
それに…酷い言いようでしょうけれど…
この世界線の竜達の事…いや、私だって食事に夢中になっている長い間は、片方の陣術が切れて、予備の回路へと切り替わったとしても、切り替わった事すら気が付かず、もう片方の陣術のバッテリーが切れるまで気が付かないだろう…
当然、理術でもこの問題全ては解決出来ない…
永久機関とまで言われるそれでも、肝心のそれを全ての竜に届けられる程、世界各地に埋まってしまっている過去の遺産を量産するなんて事は…出来ないのだから。
この問題は…この時代の竜の技術力でも量産できる術式、つまり陣術で解決しなければならない。
ならば…その陣術をどう改良していけばいいの…?
全ての竜に行き渡る程、量産が可能で…
増え続ける竜の重さに…耐え続けられるだけの拡張性も必要ね…
考えるほど、頭は栄養を欲してくる。
私は、考えながら、お腹がはち切れそうな程の量の料理を食べ続ける。
その食事量は、この世界線のベクタの竜達から心配される程の量だった。
この世界線に来てから、私はずっと幸せで…だからこそ…
久しく感じていなかったストレスが、私を過食へと走らせたのだった。
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