超密集地帯
2、〜超密集相撲部〜他
〜彼(メルキド)〜
アウストラス黄翼竜であるメルキドは、悩みを抱えていた。
それは…
「ぐ、ぬっ、くそっ」
図書館で調べ物をしていたのだが、肩が思うように上がらず本が取れない。
「はぁ、まったく・・・竜というのは不便な体をしている」
飛べないくせに翼はあるし、ろくに走れもしない。知り合いの大半は歩くのもやっとだ。
他と同様に脂肪がつきすぎなメルキドだったが、古代竜だけあって彼の太り方はレナス同様”マシ”であった。
通常の生命体からすれば異常な、病的な肥満といえる体型ではあったが、
平均からすればおおきく下の分類であり、やはりスマートである。
仕方なくメルキドは常に浮遊して待機しているサポートメカに取らせ、胸なのか腹なのか、自分の体の上でページをなんとかめくる。
「にもかかわらず、ギーグのような体型もいる…か」
きちんと衣服を着て、”くびれ”なる希少な体型を維持している。
もっともクビレを持った者は、大陸の竜全体の1%にも満たない。彼女が特殊な存在、というのもあるが・・・
「まぁこんな体型になっていったのは、陣術と科学の発展、食糧不足の解消…といったところか」
ギーグの事が気になり様々な文献や資料を読み漁る機会が増えたが、自分たちの種族はかつてはもっと自由に空も飛べたーなんて伝説まであるが、
にわかには信じがたい話だ。
「っと、頭を使ったせいで糖分が足りなくなったか」
ぐぅぐぅと空腹を訴えてくるお腹を労わりながら、彼は今日の分の”食糧品交易”の為に再び出かけるのだった。
〜ギーグ(彼女)〜
「うーん、どうしようかな・・・」
生鮮食品を扱う店で、カートにありったけの食材を入れている女性。
やはり彼の好きなビーフシチューは、外せない。特売のお肉を50kg、カートに乗せ店を進む。
すでにカート内の総重量はとてつもないのだが、陣術によるサポートでまるでカーリングのストーンのように軽々と滑らせて買い物が出来ていた。
メルキドは、彼女と一緒に暮らすようになり維持していた体型をどんどん崩し始めた。
彼女が作る料理がおいしいのと、家事を分担する…と言うかほとんどギーグがやってくれるおかげだ。
お気に入りの首輪は何度も伸ばしているし、形見のペンダントの紐だって数十センチは伸びている。
「シチューだけじゃ物足りないだろうから、ええとカレーでしょう、それから・・・スパゲッティは麺が900gあれば足りるかしら。あとは中華丼の素と…」
ギーグは、超肥満体型の彼らが食べる量がいまいちピンときていなかった。
ので、自分の体型と比例して体のサイズ差分、数倍は食べるだろうという憶測で料理を作ってあげていた。
だが、成長と違い”脂肪の貯蔵”で大きくなった彼らは基礎代謝の消費エネルギーが増えたわけではない。
月日と共に肉をため込んで大きくなっただけで、その分量を増やされたら余計にまた太ってしまう。
そして太ったメルキドを見て彼女はまた買い物の量を増やし、作る料理のボリュームは増え、という悪循環。
だがコープやフラーたちと違って劇的に太るわけでもないので、メルキドもギーグも気付かないし気にもしていないのだった…。
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〜超密集相撲部〜
アズライト竜学で最も広い部室を与えられているのは相撲部だ。
なぜなら、部長が単独で教室1個分は軽々と使用してしまうためである。
シュメルツ「もぐもぐもぐもぐ・・・・」
部活が始まる1時間前、相撲部の部員は部活動の為のエネルギーを摂取し始める。
特別性の巨大なちゃんこ鍋、100kgは用意された具材があっという間に部員たちの胃袋におさめられていく。
リガウ「あ、部長ぉ、食べ過ぎですよっ」
鍋料理はちゃんこ鍋だけではなく、メートルアグの実や茎を煮込んだものやら、部活前なのに焼き肉まで焼き始めることがあった。
食べ過ぎでろくに動けないまま、がっぷりと組み合って相撲をするわけだが、彼らの体型ではろくにぶつかり稽古すら出来ず
あくまで体の表面積が触れた部分同士で押し合う、という変な競技になってしまっている。
だがみんながみんな超肥満体型や肉塊体型なので、それで問題なかった。
土俵は20m以上の広範囲だが、意外とすぐに勝負はついてしまう。
雄っぱいともいえる肉を揺らしながら、暴れる相撲部員。
とはいえ、巨体同士がぶつかる様は迫力があるが”技”らしい技がろくに見られない。
肉が付きすぎて転べないし膝もたぶんつかない彼らは、基本的に場外か、判定によって勝敗が決まる。
そうなってくるとやはり重量級の者ほど強く、そしてシュメルツ部長は強かった。
強いという事はつまりそれだけ太っているのだった…。
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※普通の人が食べてるのは55g〜80g
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「バリバリ、ボリボリ…」
1袋が3kgもある業務用ポテトチップスを食べ続けているのはマージベーカリーの亭主、コープの父親であるダグラス。今は燻製鳥塩味だ。
かれこれ間食だけで1時間は続けている。
しかもその場から微動だにしない。
だが食っちゃ寝をしているわけではなく、立派に仕事中だ。
ポテチをつまむ手とは反対側、手元のコントロールパネルを器用に操作している。
こうすることで、新たに設置したパン工房の機械を動かし、間接的だが手作りと同じ味と食感のパンを作り出している。
もっとも、彼らの体型ではもともと手作りは不可能なのだが。
「ばりぼりばりぼり・・・ごくごくごく・・・」
合間にメートルアグの葉肉が入ったアロエ風ドリンクを飲み干す。
ぐぐ、ぐぐぐ・・・と一回り大きくなっていく胴体。とうとうぱーんと音を出してボタンがはじけ飛ぶ。前開きになった作業服。彼の白いパッツンパツンなお腹がぶくぅっと膨らむ。
「んぬぉっ?! お、おぉ〜い、ハリア〜、”今日も”ボタンが取れてしまったぞ???」
「あらあら」
後ろの方からのっそりと、肉をひきずりながらやってきたのは妻のハリア。
「あとでまた直しておきますね」
彼女もまた裁縫は不可能な体形で、そのためダグラスと同様に手元のコンパネで裁縫もサポートメカに任せていた。
「お父さん、最近太ってきたんじゃないのー?」
そういうのは父よりも母よりも立派に肥え太り・・・肉塊竜としても更に上位に食い込む息子のコープだ。
コープはメートルアグのスープをバケツのような器でがぶ飲みし、店の賞味期限が近くなったパンも数百キロ毎日片付けてくれる。
両親の数倍の食欲に、両親の数倍の体型が身に付くのは妥当とも言えた。
「ふぅ、ふぅふぅ、だ、だぐらずさん、が、太った・・・?」
そんな会話を隣の部屋で聞いてドキリとするのは、部屋いっぱいを白い体で埋め尽くしていたカルボナール=フラー。ダグラス氏はまだ肉ひだすら無い、”ぽっちゃり”レベルだったはず・・・
彼で太ってるとするなら、自分はもしや相当肥ってるのでは・・・
そう思いながらも、サンドイッチを掴む手は決して離さなかった。
「う、むむ・・・」
だが、我慢する気は1分も持たず、ハリアさん特製の超高カロリーサンドイッチをほうばるのだった。まだ朝食を終えてから2時間ほどの、マージベーカリーの朝の出来事であった。
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