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超密集地帯

3、〜外出も一苦労〜(前編)

〜外出も一苦労〜


ワシの名前はダグラス=マージ。ファーブニル市でパン屋をやっておる。

最愛の妻ハリアと息子コープ、そして最近少し生活習慣が乱れ気味な同居竜のカルボナール殿と、仲良くやっておる。

今日は午前の分のパンをある程度作り終えたので、ハリアに留守番を頼み少し外出するつもりだ。

「それではフラーさん、ワシはちょっと出かけてくるので何かあれば連絡を」

「むしゃむしゃむしゃ、ふぁい、わふぁり、ました、がつがつがつ」

部屋いっぱいの白い肉の塊が、食べる口を休めることなく返事をする。うーむ、彼はまだまだ成長しとるようだが、あの若さのうちから…大丈夫だろうか?


とはいえワシも他人をどうこう心配できる立場ではない。眼下に見えるのは大きな大きな大きな自分のお腹。

新調した衣服もすでにボタンが弾け飛びそうで、というかほぼ日替わりでボタンは飛んでいる気がする。まぁ、ハリアに頼めばすぐに直してもらえるかな。

「ふぅ〜、どっこらせ」

重い体をなんとか動かし、昔より狭く感じる通路を進んでいく。ちなみにフラー先生は別の専用出入口からでないと、どうしようもない。

ハリアやコープも通常の玄関口からは出にくくなっておるようだし、逆にこちらがワシ専用の出入り口になりそうだなぁ。

幅十数メートルはあろうかという広い廊下を、ずしいいん!どしぃいん!と家を揺らすような重量で歩いていく。
すると、出口の前に立ち塞がる存在が…

「あれ、おとーさんでかけるのぉ?」

もりもりと、ハリア特製10cm厚切りベーコンレタスサンドと、揚げたてガーリックフライドポテトを交互に食べていたのは、息子のコープ。

ムチムチ、デブ、太り過ぎ…なんていう表現はもはや通用しない立派な巨漢、大巨漢。

「ああ、出かけてくる。何か買ってきてほしいものはあるか?」

「ん〜っと、そうだねー【らぐらんじゅ】のミックスピザ、ハイパービッグサイズを10種類5枚ずつとぉ、【べくたぁる】のメートルアグの果肉入りデザートプリンを10kg分と〜
 あとは、珍しい新商品のお菓子があったら80kg分ぐらいここに来るように指定してほしいなぁ」

「わかったわかった、だがあまり食べ過ぎんようにな?」
「はぁ〜〜い、もぐもぐもぐ」

うむむ、なんとも説得力のない返事だろうか。とはいえ、健康にスクスク育ってくれるのなら、病気がちより何倍も良い。
肉付いた顔をくしゃくしゃにして、おいしそうにサンドイッチを食べる姿は、幸せを感じさせてくれるしな。

「それじゃいってらっしゃぁ〜い」
「うむ・・・・む・・・・ぐむ・・・」

コープの脇を通り過ぎて、出口へ向かい・・・向・・・向かいたかったが全く進まんぞ。

ぶんにゅうううう!!ぐにゅ、ぶよっ、と息子のかさばったお肉がワシの体半分を飲み込むようにして、妨害(?)する。

「ぐぬぬ、ぬうう!?」

以前は、もっと楽にすれ違えていたような…。コープ、また一段と、いや2段、3段・・・?とにかく相当また太ってしまったんじゃないだろうか。

「お父さん、どうしたの〜」
「いやっ、進みたいのだがっ、むぐぅっ」

ぶよっ、ぼよんっとダグラスが奮闘するたびに彼の巨腹も面白いように揺れる。
コープは呑気なもので、おとうさん太ったね〜なんて笑う。

実際ワシも太ったんだろうな…と思うとちょっと悲しくなる。

「ふぅふぅふぅ、コープ少しお腹をひっこめてくれんか」
「ええー、どうやるかもうわかんないよぉ〜」
「そ、そうか・・・ではワシがもう少し頑張るしかないな」

ぐい、ぐいと前に進むが、まるで底なし沼に手足を取られたかのように半身の自由が利かない。
我が息子ながら、なんという重さだろうか。

ダグラスはまるでタンカーか戦車を単独で押しのけさせられているかのような、絶望感と重量感を味わっていた。

「う〜ん、こないだワグナス先生たちと一緒に”800mマラソン”をしたから、痩せてると思うんだけどなぁ」

コープも、どこうとはしてるのだろうが何しろ普段からサポートメカに頼りっきりで体は怠けてるし、ろくに動かない。
ぶよぶよと脂肪の波がゆらめくだけ。


「あら? 貴方、出かけたんじゃなかったんですか?」

「おお、ハリアか助かった!つ、つまって、抜けられないんだっ、頼む、無理やりでも押してくれ」

一見ギャグみたいな微笑ましい光景だが、ダグラスは相当疲労していた。
そして焦っていた。妻もまた、コープほどではないが相当の肥満肉塊竜であるという事実を。ベクタ竜の血を引いていると。


「う〜ん、どこをどうやって押したらいいのかしら」

後ろから、ぐにゅりとしたお肉の触感が伝わってくる。すぐさま尻尾が飲み込まれ、背中に重たい妻の一部分が乗せられた。

けっして狭くはないはずの通路で息子と妻に挟まれ、ワシはほとんど身動きが取れなくなってしまった。

「困ったわ、どうしましょう」
「こんな時こそサポートメカを、って、ぐぬ、む・・・!」

操作が、出来ない。妻や息子もお互いの肉に阻まれ、まともに動けない様子。もがくほど彼女たちの肉体に”めり込んで”飲み込まれていく。

ぶにゅ、ぶよっ・・・ビ、ビィイ!


次第に服が擦れ、破けていく。

そうだフラーさんなら、あの場から動けない。逆に、サポートメカを操作することも可能なはずだ。

「フラーさん、すまないが少し、やってもらいたい操作が」

「・・・・」

「フ、フラーさんーーー?!」

「・・・zzz」

どうやら、寝ているようだ。相当量食べていただろうから、深い眠りに落ちているだろう。
そういえば彼の休日はとことん食っちゃ寝するばかりだった。


その後、どうせ改築するなら早い方がいいかも・・・
という妻の提案により無理やり廊下の壁を壊し(コープたちが全体重を片側に乗せるだけで破壊できた)

「・・・・ぜー・・・ぜー・・・それじゃ、出かけてくる」


その疲れを取るためか、その日でかけたダグラスは普段以上に買い食いをしてしまい

新たに着なおしたはずの外出用の衣服をビリビリと破り去って一日で駄目にしてしまったのだとか。
というオチだけでは済まされず



よく使っていた頑丈な椅子の足&背もたれも破壊

床の一部も突き抜けてしまった。(肉塊竜は地面に接する部分が多いから逆に安定していた)

「・・・・これは、本格的な大幅リフォームが必要だなぁ」


個人用のサポートメカでも十分に底上げされてしまった彼らの体重。
家まで、オールサポートバリアフリー化し、今までより更に快適にすることになった。

少し不安ではあるが、身内の誰かが今回みたいな出来事で怪我でもしてはいかんからな。




だが



そのせいで、ある程度落ち着いていたコープ、そしてフラーの体重は増加の一方をたどる羽目になるのだった。

さらに10t以上、短期間で…。





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