超密集地帯
6、〜前夜祭〜
停電から一夜明け。
すでに電機は復旧したので、マージ家は寝苦しい夜を過ごすだけにとどまった。
「昨日は大変だったよねぇ、僕寝付けなくて何度もジュースお代わりしちゃったよ・・・けぷっ」
かろうじて自力行動が可能なコープは、壁に掛けられていた専用の手動アームで飲み食いをし、渇きと空腹から逃れた。
「そうね、すぐ復旧したからよかったけど…今日も一日停電だったらお店は休業だったかしら」
そう言いながら、ハリアはテーブルの上にいつもの豪勢な料理を並べていく。
朝から本格的なステーキやムニエル、飲み物はクラッシュゼリーをくわえたヨーグルト風味のドリンク。
バニラエッセンスをくわえた生チョコレートとカスタードとレアチーズの3層にわかれた超特大ジャンボシュークリームもムシャムシャと平らげていく。
本来ならデザート類は食後と相場が決まっていそうなものだが、
ここの肥満竜たちに常識は通用しない。
前菜、副菜、メインディッシュ、そしてデザートを仮に順序良く食べ終えても、まだまだ満たされない彼らはもう1巡も2巡もするのだ。
「がぶがぶ、ごふぅ、むっしゃむっしゃ、ハリアさぁん、サンドイッチの追加をぉねがいしまぁす」
間延びした声で、フラーが何度も催促する。夜食を満足に食べられなかったせいか、フラーの食欲は旺盛だ。
「ぅうん、お腹がきつくなってきたなぁ、ちょっとアスターゼ草も食べておこう」
脂肪が付きすぎて腹はちっとも膨れて見えないが、満腹になってきたらしいフラーはアスターゼ草に頼る。
消化吸収抜群、食欲増進、大食いのお供に最適な代物。
最近では市販にアスターゼ草の成分を抽出したドリンクが出回っており、お手軽感が増していた。
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少しばかり、陽の日差しが優しくなってきたころ…
「〜〜♪」
コープはやけにご機嫌だった。
どうしたのだろうかと考えて、カレンダーを確認しフラーも気づいた。
明日からは、収穫祭が始まるのだ。
市場や路地には世界中から集まった果物や食物の露店や売店が構えられる。
また既存の店も、普段は取り扱わないメニューや、ちょっとした高級食材を格安で提供してくれる。
食い意地の張った彼ら・・・無論私もだが、楽しみにしているイベントだ。
「いよいよ、明日が収穫祭か」
ひぃ、ふぅと大きなお腹をひきずりながら、ベーカリーの亭主ダグラス=マージが手元のコントロールパネルを開き器用に作業服をサポートメカに着せてもらう。
「そういえば、この店では何かする予定はあるんですか?」
「んとね、うちはパンが全品10%引きになって〜、あとはスクラッチカードがもらえるんだよ!
削って出てきたパンが貰えるんだっ」
「へぇ、それは楽しそうだ・・って私はいつもご馳走になってるからなぁ、かわりないか」
「あははは、そうだねーー
この近くのお店も、色んなイベントをやるから楽しみなんだ〜
夜からは前夜祭もあるし!」
学校に行っても、その話題で持ちきりだった。
生徒だけでなく、先生たちも今年はどこに行こうとかどこの国の出店料理を食べようか、などと休憩時間に話している。
そして学校が終わり、前夜祭。
トルナは特殊な製法に作られた肉塊でも着れる浴衣を着て・・・というより体の上に”乗せ”て祭りに参加している。
だが、誰もが花より団子、色気より食い気。
男子陣は彼女らの服装に触れる事もせず、また彼女たちもそんな事をわかってて期待していない。
合流したクラスメートたちは、出店や今日と明日限定の店舗を次々と梯子しはじめる。
「もぐもぐ、ん〜、このエビドリア、ハーブがきいてておいしいー!」
「コープ君、こっちの回鍋肉も野菜がシャキシャキしててさっぱりするよ」
「ほんとに? むしゃむしゃっ」
「おおい、コープーこっちで早食いイベントやってるぜー一緒に参加すっぞ!」
「え、すぐいくいく!」
「あ、ま、まって僕も折角だから・・・」
いつもの肉塊肥満竜たちは、のそのそと重戦車のように、だが勢いある動きで食べ物をめざし、料理を次々と貪っていく。
どっすぅん!ぼよんっ!
どずぅうううううん・・・んん・・・
やけに重たい足音が響く。
生徒たちはすぐにわかった、この辺で引きずらずに移動し、それでいてこの重量を響かせれる存在は限られているからだ。
そう、体育教師のワグナス=アバロンである。
先生たちは見回りをしているが、もちろん買い食いも自由にしている。
ワグナスも両手に何本もの巨大なフランクフルト、焼き鳥を持ちながら、サポートメカにその何倍もの露店での品を装備させていた。
さながら千手観音のようで、思わずコープたちは笑ってしまう。
「ふぅーー、ふぅうーーー、祭りだからって、あまり、遅くまでいないようにな・・・」
きっつきつのベルトで息を乱しながら、ワグナスは再び大地を闊歩していく。
超巨デブでありながら、自信の肉を引きずらずに球体を維持している彼はメカだけではなく筋肉も使って移動しているため
並ではない疲労と、消費カロリー、そしてそれを補うための暴食も必要としているのだった。
おそらく、この見回り中でも何十万、それ以上のカロリーを摂取しそのお腹をはち切れそうになるまでパンパンにさせる事だろう。
あの相当食いこんでるベルトも、もってあと2時間で千切れるだろうな、なんてリガウは笑って茶化していた。
陽がすっかり落ちてから数時間後…
名残惜しいがそろそろ解散しなくてはならない。
「ふぅふぅふぅ、けぷっ、それじゃ、みんな、また明日ね」
「ぜぇ。ぜぇ、あ、あぁ、ま、また・・・な」
「うう〜ん・・・た、たべすぎちゃったかな、胃もたれしてそう・・・コープ君、また、あし・・た」
それぞれ別れの挨拶をし、家路につく。
それでもコープは家に帰れば、祭りに合わせて多く作ったパンの余りを、何十個と食べまくるのだった。もちろん、白い肉の塊も共に。
彼らは前夜祭、そう・・・半日だけで”平均して”90kg以上太ってしまった。
総重量からすれば微々たるものかもしれない、だが、たった1日で肥えていい量でもない。
そして、収穫祭の本番が始まる。
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