超密集地帯
9、〜おかわり〜
大宇宙に漂う星々。その中の星の一つドラゴアース。
その中の衛星の一つ、ドラゴルーナ。そこが物語の舞台。
ドラゴン。知に長け、力を持ち、屈強な体を持つ万物の生命の頂点。
そんなドラゴン達が暮らす世界。
旧時代。その地は優れた文明によって繁栄していた。
星間国家インダストリア。
理術(オラトリウム)によって栄えたその文明も、今は遺産となったアーティファクトが発見されるのみ。
現代、ドラゴン達はかつての姿とは大きくかけ離れてしまった。
大空を飛んでいた背中の名残は風起こしとしても機能せず、かといって地面を素早く走り抜ける事も出来ない。
気候は次第に安定し、
かつてとは違った独自の文明が発展していった。
非常にかいつまんでいうと、衣食住が…特に食生活が酷く、『よく』なってしまった。
竜の平均体重は大幅に増え、増え続け、いつしかそれが平均体重となった。
おかげでその時代の『肥満竜』は旧時代の『地域一番のデブ』に匹敵する程になった。
そして、更に年月が過ぎ…
竜たちはみるみる肥大化していった。
筋肉よりも脂肪量の方が何倍も多くなり、
一日三食だった食生活は4食、5食が当たり前になっていく。
現在。
ドラゴルーナの竜たちの体重はここ数十年でも例を見ない程激増していた。
特に、アズライト諸島やレイヴン諸島が諸事情によって『ベクタ化』すら進んでいた。
肉塊竜が珍しくなくなり、どこもかしこも竜たちの贅肉で溢れかえる、隙間が足りない『密集地帯』となっていた。
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【マージ・ベーカリー】
ズズズ、ズズン…
家全体が揺れ動く。
無論地震ではなく、そこに住む竜が闊歩しているだけだ。
仔竜どころか古竜(長年生きているという意味で)として認識したい、巨大な躰。
マージベーカリーの一人息子はまた一段と肥え太った体を動かして2階から降りてきた。
ちなみに階段は幅が10m以上あり、そのくせ段差はほとんど無い。
何度も改築したマージ家は途方もないサイズの居住区になっていたが、
この世界は隣の家までの距離が結構あるので楽々と改築できていた。
「おはよぉおう〜〜おなかすいちゃったぁ」
ぶよっ、だぷぅんと、二の腕やあごの肉をたっぷり揺らしながらやってくるコープ。
健康状態を心配したくなるほど立派に肉塊竜な彼だが、自分が深刻な肥満状態という自覚は無い。
現在の彼は【88t】もあり、一般的な竜が乗る大型トラックを軽々と越す重さである。
その太り方は大人も顔負けでメタボやぽっちゃりしてるね、なーんて誰も言えないだろう。
もし超肥満という括りでカテゴリをわけたとしたら、同じ肥満レベルにされた竜たちは不満に思う…ぐらいに、
デブだった。
彼の母親、ハリア・マージは【32t】。手縫いの服を着ているが半月もせずにサイズを変える必要がある。
父親のダグラス・マージも【40t】の大台に乗るか乗らないか、という太り具合。
正直な話、ここまで太ってしまい、一家そろってパン作りに支障が出ている。
だが、今でも店は経営できている。その理由が、ナイル氏が考案した肥満竜専用の補助装置の数々。
陣術を利用した代物からハンドリストぐらいのサイズにも関わらず全身パワードスーツで動かしているのか、と思えるほど高性能の機器達。
そうした文明の利器が彼らの肥満化に歯止めを利かなくしていた。
同居竜でありながら、【一家の大黒柱】になりかねない程に部屋を占拠しているのはカルボナール・フラー。
彼の正体は実は調査員であり、教授であり、イケメンスマートな白竜・・・であった。
今や無残なもので、育ち盛りのコープよりも腹に盛り盛りと贅肉を蓄え続け、
パンを試食する回数の父ダグラスよりもパンを食べ、
普段の食事メニューを考案する母ハリアよりも多くの種類を、出前追加によって食べまくっていた。
おかげでその体重、なんと【97.4t】
あの超富豪・超肥満で有名なナイル・フィガロ氏に近づいていくレベルだった。
当然ながら補助を全て切れば、歩行も出来ない服も着れない、何にも出来ない、そのくせ食欲だけはベクタ竜並みの、ダメダメ竜だった。
そんなフラーも、アズライト竜学では立派な教師。
生徒や周囲の先生からも評判はいいが、太るペースだけは流石に注意や心配をされている。
「いやぁ、それにしてもハリアさんの朝食は何度食べても飽きませんね」
もしゃもしゃとサンドイッチを頬ばっていくマージ家の面々。
ハリアはお礼を言いながら、リモコン操作で作っておいた特性の12cm程ある分厚いベーコンサンドパンをみんなに配っていく。
「もぐもぐもぐ・・・けふ・・・
それにしてもハリア? ここ数日でまた具材の量が増えたんじゃ」
この家で唯一体型を気にしている(フラーも一応気にしている、らしいが)ダグラスが美味しさに比例して増えている朝食の量に疑問を持った。
「そうかしら?いつも、これぐらい食べたいな、って今朝の気分で判断してるからそんなに変わらないと思うわよ」
「うーむ、気のせい・・・か?」
料理を乗せておくためのテーブルは存在しているが、食事をする場所は各々の腹テーブルだ。
手を伸ばすだけでは届かないので補助装置をフル活用し、ビットやファン*ルのように浮かんでいる機械に器用に口に運んでもらう。
飲み物も多量で、
これまた角砂糖3、40個は入っていそうなチェリーコーラ、バニラコーラ、果汁210%(濃縮還元率)のブレンドミックスジュースを1ガロンすぅっと喉を通していく。
朝早くからだというのに、マルゲリータやチェダー・パルメザンチーズミックスのピザ。
みんな大好きな唐揚げ、フライドポテトは直径60cmの大皿に乗せているにもかかわらず脇から溢れ、転げ落ちる程に多い。
当然、ひとつ残らず彼らは食べきるしお代わりもするし、まだまだ腹八分にも遠く及ばない。
ケチャップとマスタードソースたっぷりのハンバーガーを箸休めに食べ、
マスクメロンの果肉1個分をまるごと使った本当の巨大メロンパンもペロリと2個消費。
続いて、野菜分も摂取するがチンジャオロースや、回鍋肉、ミートボール大のそぼろ肉入り麻婆豆腐など、肉もセットな代物ばかりだ。
脂っこいものばかり食って、太らぬはずがなく、
過剰に摂取したカロリーを消費する術も彼らはほとんど持っていなかった。
今では外出時には、ほぼ全自動で目的地まで行けるし
巨竜専用バスに乗って居眠りしていても、乗り過ごすことなく簡単に到着できる。
朝に山ほどの朝食を食べた彼らは、一度目の中休みにも数段重ねの弁当を平らげ
当然足りないので出前を数十竜前ほど頼む。大食いチャレンジと間違わんばかりの空容器がバンバン積み重ねられ
コープ1人だけでゴミ袋を一つ丸々消費する羽目になる。
非エコ極まりないが、環境に配慮した素材の容器なので問題ない。問題があるのはコープが更に太り食欲を増すという一点だけ。
ライバル意識を持った相撲部員のリガウは、【66t】とコープに大分差をつけられている。
ベクタ竜で太りやすい体質ではあるが、わざと太ろうと躍起になって食べ過ぎて腹を膨らませ過ぎては体調不良になって調子が伸びなかったり、
天然のコープにはなかなか追いつけない感じである。というより部活で多少は筋肉のストックがあるから、代謝もよく消費エネルギーが多いのだが彼は気づいていない。
とはいえ、数トンも体重があれば立派な肉塊竜なので、リガウもまた上位肉塊デブ竜には違いなかった。
部活中もすぐ息切れするし、腹が減ったと登下校中に買い食いはするし。
彼もまた着実にふとりつづけていたのだ。
ダイエット指導の教員が、特別補修を行わなくなったのも原因だ。
おかげで、もうひとりの同じ学年の肥満トリオ・オーエンも【40t】超えのぶよぶよぶくぶくボディを維持し続けている。
送り迎えの車もことごこと新車になっているが、甘やかされ過ぎであろう。
そんな肥満竜たちの密集地帯。
道行く竜たちは、すれ違う事すら困難な程その身に贅肉をくわえ
日々成長を続けている。
そんな、ある日のこと。
アズライト竜学で、ちょっとした問題があった。
連休明け以降、クジンシー教頭が学校に来なくなったのである。
病気に伏せったとか、行方知れずになった、というわけではない。
クジンシー本人から「大丈夫だ、問題ない」という駄目そうなメールは届いている。
暫くは有給を使って休みたいとのこと。
レナス「心配ですね、もうすぐ2週間になるんじゃ」
リガウ「太りすぎて部屋から出られなくなっただけだったりして」
オーエン「え〜、まっさかぁ・・・」
子供たちは無邪気に笑い話にする。
だが、その冗談が本当にそうだったとも知らずに。
話は2週間前に遡る。
「さてと、どうしたものか」
アズライト竜学の教頭を務めるクジンシーは、悩んでいた。
教師と生徒の肥満問題についてだ。特に近年の体重の増加が著しい。
そりゃあ他の一部の大陸と比べると皆はまだ登下校も出来ているし、学校も広くしたから教室が狭い問題も解消されている。
「だが、このまま改築を繰り返しているようでは…」
予算は十分だが、学力の低下につながりそうなのが心配だ。
現に、体育の指導内容も楽な方へ楽な方へいってるし
フラー先生の授業などは説明している時間よりも小休憩のおやつタイムの時間の方が長いときもあるという噂すらある。
「やはり、太りすぎはよくないな、うむ。
学校内の食堂のメニューは低カロリーなものを増やそう、間食可能な時間ももっと制限をかけて…」
彼は考え事をするとき、自室とは別の狭い書斎にこもる癖があった。
だが以前の彼とは違いポテチやコーラを持ち込んでいる。
指や本が汚れないよう、浮遊式のサポートメカが自動的に口に運んでくれるから問題ない。
手元のコントロールパネルを操作し、宙のウィンドウ上に表示される書類を見つめながら、
クジンシーは今後の事を考え続けた。
「ふむ、今日はこの辺にしておくか」
むんっと全身にちからをこめて、体を引き絞る。たるみ気味の体がわずかに、気持ち分小さくなり書斎の扉を潜り抜けた。
翌日も、彼は同じように書斎に入った。
予算の事、生徒の事、先生たちの事。問題は山積みだった。
ただ改築するだけでは別の施設も移動する必要があるし、敷地面積は広大とはいえ無駄に広くしては移動が大変だ。
更にストレスの要因になるのは他の先生たちの危機感の無さだった。
少しクジンシーはピリピリしすぎだという事を自覚もしていたが、それにしたって・・・
「はぁ、やれやれ・・・」
もぐもぐと口を動かしながら、そのストレスの緩和をするために好物を食らっていく。
頭をスッキリさせるためにコーヒーも飲むが、毎回砂糖とミルクを入れていた。
口の中が寂しくなればガムでも噛めばいいのに、彼らはそうはしない。噛んだ後、飲みこまねば気が済まない。
だから間食をする。別にそれほど空腹じゃないし、体は欲していない。
だが常日頃一日何食も繰り返す生活が、惰性で食べ続けるという酷い習慣を身につかせていたのだ。
「むうーーー・・・」
空になった袋や箱がどんどん積み重なり、一定量が溜まると自動的に機械が判断し捨てに行ってくれる。
朝からこもり続けて、はや6時間。悩み詰めている間クジンシーは無意識に朝飯なんだか昼飯なんだかわかっていないまま運ばれる料理を口にしていた。
ハンバーグや、チャーシューメンも、ペロリと平らげていく。
むくり、むくりと彼の【他に比べて控えめ】な胴体が丸みを帯びて膨らんでいく。
2kgのビフテキだって竜にかかれば数口で平らげてしまう。
特に考え事に没頭している時のクジンシーは、食事に意識が向いていないせいか満腹感がなかなか働かない。
ブクブクと、目に見える…というほどではないが、しっかり食べた分肥えていた。
「なるほど、来月の行事をこうして、業者に頼んでここの教室を変えて…
だんだんまとまってきたぞ」
真面目な彼は休日だろうと必死になって学校の事を考えている。
日によっては夜食を食う時間まで書斎に居続ける事だってあるぐらいだ。
「よし、今日はこの辺にしておこう」
そろそろ外に出て、食事にしたい。ベクタ料理を取り扱っている『chubby』にでも行こうか・・・
そう思いながらドアを潜り抜けようとして
「ン、ぐ…?」
おかしい。通り抜けられない。つ、つまってる?
翼を広げ過ぎたか?いや、腕の位置的に関係ないな。
両腕を体に密着させてもう一度。
「ふんぬっーー・・・!!」
やはり脇腹がつかえて進めない。
横を向こうが、駄目もとで背中側から倒れこむようにいっても、ほんの少し助走をつけてドアに向かっても…
【ミチィッ】
と見事につまってしまう。しかもすっぽりハマるわけではない、それならごり押しで通れるから。
つまり、体のもっとも太い部分を5だとすると、3か4ぐらいしか向こう側に行けてない、よってどうやっても抜けないのだ。
「な、なな・・・」
なぜこうなったのだ!? あろうことか、この、俺が・・・腹がつっかえて、こんな、ギャグみたいな展開に!
彼はプライドが高く、自分の太った体をギリギリまで認めたくなかった。
だから破れる手前まで衣装は着るし、部屋の改築も粘りに粘った。
その結果がこれである。
「ま、まぁなんとかなるだろう」
こんな出来事、この地域では日常的に起きている事でニュースにもならない。
助けを呼ぶべきか…
だが壁は壊す気なんてないし、こんな恥ずかしいエピソードを知られたら誰にも注意できなくなってしまう。
消化して腹が引っ込めば、すぐに出られるだろう。
だが狭い部屋で椅子に座りっぱなしの彼は、とっくに太っていた。消化しようが通り抜けられない程度に。
クジンシーの甘い考えが、悲劇を生むことになる。無論、彼にとってだが。
3日目。明日で今回の連休は終わってしまう。
万一の事を考え、クジンシーは学校に休むことを連絡だけしておいた。
「さて、どうしたものか」
事細かくマクロ設定している陣術によって食事や着替え、部屋以外の掃除や洗濯etcは完璧に機械やロボットがやってくれる。
今朝だってもう8人前の定食をきっちり食べたし、体もぬれタオルで綺麗に拭いてくれた。
今は板チョコレートをかじりながら、運動しようにも狭いこの室内でどうするか考えていた。
「腕立て伏せとか…」
腕の先よりも腹が先についてNG
「ふ、腹筋や背筋・・・!」
折り曲げられるような体構造になっていないのでNG。あれは『激痩せ竜』の筋力トレーニングの特権だったなそういえば。
「懸垂・・・はぶら下がれるものもないしなぁ」
というか、ぶら下がったら間違いなくへし折れるか倒れるだろうな。
ダンベル代わりになる重いものも見つからない。
現状打破出来そうなアーティファクトの知識だけなら12種類ほど簡単に思い浮かんだが、そんなもの持っているわけもなく。
「はぁ、やれやれ仕方ない」
少し空腹になるだろうが、食事の配給量を減らす設定にしておくか。
リモコンを操作し、クジンシーは昼食の配給量を8人前から3人前にしておいた
(※この1人前という表記は密集地帯ではない通常世界における量である。もしこの世界での8人前を食べようものなら瞬時に彼の体は倍近く膨張してしまうであろう)
その頃のアズライト竜学では…
アネイル「フラー先生、今日のお昼はずいぶんとお代わりなさるんですね」
フラー「えっ、そ、そうですか?コープ君の家では割とこんなものですが」
言われて気が付くフラー。注意するクジンシーがいない影響か、日に日に彼の学校で食べる量も加減が無くなってきている。
ちなみにアネイルとフラーの間にはメートル単位で距離が空いている。
お互いに贅肉が付きすぎているからだ。
「あ、フラー先生。ほっぺたに食べかすがついたままですよ」
「え、あ・・・本当だ、あはは」
だからそれを手に取ってどうこう、というシチュエーションにならない。顔の隣に浮いているサポートメカが自動的に感知して、取り除いてくれる。
食事中に動かすのは、ほとんど口だけだ。本当にフラーの動かなさと言ったら山のごとしである。
特にフラーは教師たちの中でも群を抜いて太り始めており、
この世界の場合、一部の生徒からは白饅頭や白大福という呼称はとっくに消え、『白波』とか『シロデカスドラゴン』という異名すら与えられている。
無論フラー自身は知らないことだが。
のんきに昼飯を堪能していたが、場面を戻して教頭はどうしているのか。
一緒である。
否、授業時間のない今、彼の暇つぶしは間食だけになっていた。
書斎だから本を読めばいいのだが、どれも何度も見返したものばかり。
それにこういった事情で、休日として満喫できる精神でもなかった。食事は別だが。
「むぐむぐ…ジャンクフードばかりではやはり飽きるな…
他の出前も一応頼んでおくか」
みぞれトンカツ丼や、焦がしバター醤油のラーメンをすすり
次から次へと出前を頼み始めた。
我慢、という概念が消えかけているのだろうか。
それもそのはず。以前、収穫祭の時に食いきれない程食ってしまい、アスターゼ草に何度お世話になったことか。
彼の吸収率と食欲のレベルはそれだけで相当底上げされていたのだ。
これで腹が引っ込んで出られるはずもない。
5日目も6日目も同じだった。
むしろ、どんどんせまくなっていたから同じではない。
窮屈さを覚えながらも、クジンシーは打開策を見いだせなかった。
10日目に事件は起こった。
うっかり落とした操作系パネルを踏みつぶし、変に誤作動をし始めたのだ。
長時間浮いているのは疲れるから、と床に降りた途端これである。
しかも一度体を降ろした後、再びうこうと思ったがこれがなかなか上がらない。
短期間の超肥満化によって、感覚がつかめず体力も追いつかないせいだ。
自動的に料理が運ばれ、お腹いっぱいになっても、それを検知した自動調理場がアスターゼ草を利用した料理にシフトをチェンジする。
もう食べたくない、と思った時にはだんだんと空腹が生まれ始め、ちょっと休めばもう何かを口に入れないと違和感を覚えるようになる。
「あぐっ、むぐぅっ、がぶがぶもりもりむっしゃむっしゃ」
とろとろ半熟卵のオムライス。4種のチーズをトッピングした、チキンドリア。
異国のをアレンジした極太巻寿司。
「がつがつがつぐびぐびぐび」
メロンソーダ、オレンジソーダ、濃縮果汁150%還元の葡萄ジュースを口元から溢れるほど飲んでいく。
食べかすや零れた飲食物はすぐさま周辺を浮かぶお掃除ロボットが拭き取ってくれる。
陣術のマクロはきっちり細かく設定しているから、掃除・炊事・洗濯はクジンシーが一切関与せずとも仕事は終わる。
換気から、照明の調整、快適な安眠が出来るための音楽を流したり、マッサージ機能も非常に充実していた。
「はふ、はふ、だ、だずげで・・・!」
SOSをしようにも、音声入力すら受付する暇がない。
これでもかという満腹感と、居心地の良い空間から与えられる睡魔には勝てず、
時間だけが過ぎていく。
そして、その時間が経てばたつほどクジンシーの体は肥え太り膨らみ続けるのだった。
そう・・・10日目の夜。
彼は狭い書斎いっぱいに、それこそパンパンにギチギチにみっちりと詰まる程ふとってしまった。
食べ過ぎて腹は膨れているが、そればかりではない。度重なるアスターゼ草の過剰摂取と24時間体制の食糧配給に
ベクタ竜には及ばずともアズライト竜学の肥満児や肥満教師に近づいてしまったのだ。体脂肪が。
クジンシーは他の肥満竜たちの仲間入りを果たした。
彼は部屋いっぱいに太った。
彼は部屋から出れず、ますます太った。
頼まなくても、体の空腹を感知した周囲の環境が彼に食べ物を与え続けた。
身動きが取れなくても延々と太ってしまう原因が、この整った環境と安すぎる食糧の物価だろう。
この国では普通に生活している限り、どうあがこうとも餓死することは出来ない。
仮に金欠になっていても、食糧は好きなだけ腹いっぱい食べてよいことが保障されている。
クジンシーはぶくぶくと肥え太っていく実感を覚えながらも、抗うことが出来なかった。
そして2週間後に至るわけである。
書斎は自分の躰でとっくに壁が壊されたが、まともに動けないのは変わらない。
ダイエットしようにも動けないわ食事制限できないわで、泥沼だった。
助けを呼びたいがプライドが邪魔をする。なんとかして自力で解決せねば、誰も学校で注意するものがいなくなるからだ。
こうして、アズライト竜学の教頭…そして最後の砦は陥落した。
その日から、かの学校で体型についてどうこう言う立場の者はいなくなってしまったのである。
-----2週間後
アネイル「うーん・・・」
彼女は教室を見渡し、妙に部屋が狭くなったように感じる。
今は授業中だが、生徒たちは自由にお菓子や弁当を貪り、腹を膨らませている。
とはいえ大半の竜は膨らむほど喰うことが出来ない。それだけ外側に『肉の山』が形成されているので、10kgや20kgの弁当を平らげたところで見た目は変化しないのだ。
アネイル「きっと気のせいよね、うん」
クジンシーが恥を覚えながら学校に復旧した時、もう色々と手遅れだった。
生徒も教師も分け隔てなく、平均体重は大幅に増加。
常に手元に食べ物が無いと落ち着かず授業に集中できない、というありさまだった。
クジンシー「まったく、俺がいないとこれだから・・・ぶつぶつ・・・むしゃむしゃ・・・」
とはいえ、今の彼の体型では強く言うことが出来ない。
ワグナス先生も完全に座学がメインになっているようだし、ダンターグ先生やフラー先生は授業中だろうと生徒よりもたらふく食っている。
むしろよく教室まで行けるものだと感心できるほど太い。
陣術と補助機械が無ければおそらく家から一歩も出られないだろう。
クジンシーは不満を覚えながらも、教育が第一とわかっていた。なんとかみんなに集中力をつけさせよう。
彼は他の教師や理事達にも相談し、その結果…
学校内に超大型のフードコートが複数設置される事となった。それが更なる生徒たちの食欲の増加と肥大化を呼び寄せると、わかっていながら・・・
流れには逆らえなかったのだ。
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