超密集地帯
10、〜フードコート設立〜
僕はコープ。ええっとマージベーカリー・・・、家はパン屋で、お父さんとお母さんと、居候のフラー先生と一緒に暮らしてる。
夕方や休日はお店のお手伝いをして、普段はアズライト竜学に通ってるんだ。
好物は・・・ん〜決められないなぁ、パンはもちろん大好きだし、甘〜いお菓子もいくらでも食べれちゃう。
口の中でとろけちゃうお肉なんかは、病み付きになっちゃうよね…っとと、話がそれちゃった。
それで、今日は学校で待ちに待った新しい施設がオープンするんだ。
巨大飛空艇ゴディヴァのオーナー(ナイル)との提携企業が、80社も協力したフードコート!
学校内で出来たてのお店の料理が山ほど食べれるんだって。楽しみだなぁ・・・じゅるり・・・
うーん、考えたらお腹空いてきちゃったよ、あははよだれも…
「それじゃぁ、そろそろ、いくねぇ〜〜」
コープは間延びした声で、両親に登校を告げる。
その体は重戦車よりも重く、どっしりとしていた。あちこちの肉は垂れ下がって地面を擦り、どうやって歩いているのかはた目からはわからない。
そんな彼はまだ子竜であり、どう考えても病的に、重度に太り過ぎであった…
ただ普通の肥満竜と違い、彼は健康体だった。
確かに機械や術の手助けなしにはろくな歩行すら出来ない。
だが血圧は正常値だし、血液もサラサラ。肌だってぷにぷにとした赤ちゃんのような餅肌を維持しており、呼吸は肉が付きすぎで荒く不器用ながらも息苦しいという事はなかった。
「ん・・・しょ、おい、しょ・・・んっ・・・ぐぅ・・・ふぅふぅ」
驚異の『100トン』という巨大な体は、あらゆるサポートをつけ、術の補助があっても機敏な動きは不可能だ。
むしろ自力で移動できているのは奇跡、魔法と呼びたくなる光景だ。
科学と陣術の力って凄い。
あちこちの家も道路も、常に住民の体型に合うよう整備され拡張され続けている。
太ってしまって生活が不便になったら、痩せずに周囲の環境を変えてしまえばいいのだ。
と考えているわけではないが、横着し、楽な方へ楽な方へ進み、また実行できるがゆえに…
彼らの成長と肥大化は一切とどまる事を知らない。
今では一つの車両に一人しか乗れないが、学校へ向かう便は無数にあり以前と変わらぬ登校時間で済む。
この世界は広い。十数年前に比べて竜たちの体積が数倍膨れ上がっていようが、まだまだ空きスペースは十分にあるのだ。
最近は様々なアーティファクトが発見され、その研究のおかげか生活はますます快適になってきている。
楽に痩せる手段だけは一向に進歩しないが。
リガウ「おぉっす、コープ、おはよぉお」
学校に着くなりずず、ずず・・・と親友の相撲部員が挨拶をしてくる。
リガウってば、最近どんどん体が大きくなってるような気がする。あ、僕も同じぐらいなのかな?
昔と違って鏡とか見なくなったからわかんないや。
「あ、オーエンもきたみたい」
「ちっ、あのやろーまた送り迎えで…ますます太ってやがるし…ちきしょーー」
この時、コープは102t。リガウは96t、オーエンは97tをいったりきたりだった。
正直ここまで太っていると、もはや体型の差など無いに等しかった。
地面一杯に広がる、空間の大部分を支配する肉。とにかく、それだけだった。
呼吸するだけであちこちの肉がたゆたい、波打ち、移動するたびにぶるぶるだぶんだぶんと揺れ動く。
道路は特殊なコーティングがされており、体も、地面も決して傷つかない。
楽な時代になったなぁ、って父さんたちは言ってたっけ。
「今日からフードコートが出来るんだよな・・・へへ、全部の店のメニュー食いつくしてやるぜ」
「もーリガウってば、相変わらずだなぁ」
「コープだって、同じぐらいいつも食べてるでしょ・・・」
そんなこんなで、会話しながら校門を抜け教室へと向かう一同。
トルナ「あ、みんなおはよう」
レナス「みなさんお早うございます」
トルナにレナス、それにファクト。みんな僕の友達たち。
話題はやっぱり今日から始まるフードコートについてだった。
トルナたちは最近『ぽっちゃり(この世界基準)』してきたことを気にしており、控えめにしたいらしいけど。
勿体ないなぁ、我慢しないでいっぱい食べればいいのに。
でもレナスってば僕らの半分もないし、無理もないかもね…とっても小さく感じる。
地球という異界の競技で使う大球ころがしよりも巨大で丸いレナスだが、コープからすればまるでピンポン玉のような感覚なのだ。
…言わずもがな、非常に太りにくい体質の古代竜であるレナスも超肥満体型だ。ただ、周囲が特別に、格別に…太すぎるだけ。
レナス「おい、しょ・・・っとと」
どっずぅうん・・・と数人掛けソファのような席に音を立てながら着席するレナス。
彼ぐらいの体型なら、まだギリギリ椅子が利用できる。
逆に言うとコープたちは何かに座る、という動作を長いこと経験していない。出来ないのだ。
強いて言えば、自分のヒップ&テイルが支えになる。
恥ずかしながら、トルナも自分の胸テーブルや腹テーブルを利用する段階まで来ている。
教室内はコンサートホールか体育館か、と思いたくなるほど巨大だ。とはいっても、生徒一人が利用するスペースを考えれば仕方がないのかもしれない。
出入り口は壁一面が開くタイプになっているため、よほど太っていても通り抜けは可能になっている。
授業中も、みんなは持ち込んだ弁当や登校中に買ったピザやポテトをパクついている。
コープ「あぐ、あぐ・・・げふっ、まだお昼ならないかなぁ〜〜」
現在のアズライト竜学では1つの授業が終わるたびに、小昼食がある。だがフードコートに行ってのんびり食べる〜となるとやはり正午過ぎの大昼食時間だ。
カレー専門店やピザ専門店はよくあるけど、他にも珍しい特定の料理だけで数十種類もメニューがあるお店がいっぱいきているとうわさに聞いており、楽しみでしょうがない。
しかもまだ仮設置段階なので、これからどんどんお店は増えるんだって。
ただ待つのも長く感じるし…よぉし、集中して授業聞いていようっと。
食欲をそらす為、食いしん坊な彼らは熱心に・・・とはいえないが、授業にとりくんだ。
先生たちも時折、フードコートで何を食べようか〜なんて雑談をするもんだから大概である。
ある先生は言う
ダンターグ「そういえば、私一足先に**店のメニュー食べたんだけど、特性のソースとかがすっごいおいしくって次も食べに行こうかなぁって」
また、とある先生も言う
クジンシー「よいかね、以前設置してあった食堂に比べてはるかに多いメニューや選択できる幅、ボリュームも変わった。
だからといって、その・・・つまり・・・俺のようには・・・えー・・・な、なんでもない」
坂道は転がった方が早い、と言われていた体育教師も、今も丸いが転がるのは無理そうと思われるボリュームだ。
ワグナス「よーしそれじゃ今日の授業はここまで。来週あたり予定してた300メートル(徒歩)マラソンは…んー、またいつの機会だな」
そして、とうとうお昼休みがやってきた。
お母さんが作ってくれた特性サンドイッチ18人前
(1人前でも両手で抱える程のサイズ。普段はフロート式の浮遊メカの中に収納している)はとっくに食べきって、もーお腹ペコペコ!
コープ「よぉっし、いっぱいたべるぞぉお」
レナス「こ、コープ君あまり調子に乗らない方がいいと思いますよ・・・?
前にも、動けなくなったことあるぐらいですし」
コープ「だいじょーぶだいじょーぶ!前のサポートメカはバージョンアップさせて20t+状態でも問題ないように修正されてるんだぁ」
ナイルが日々太り続けて、様々な補助装置が開発・整備されているおかげだ。
なんでも美味しいものを食べ続けるのがやめられないんだとか。寝ている時も食べてるって聞いたけど、ほんとかなぁ・・・。
寝ぼけながら食べるのは僕もよくやるけどね、えへへ・・・。
連日連夜、フードコートは大盛況だった。
それでも生徒たちは弁当の持ち込みは止めない。小休憩時間の時におせち料理みたいな数段重ねのお弁当を食べ、お昼で本気になるのだ。
わずか1週間の間に、店舗は10件以上増え、なおとどまる事を知らない。
「あ〜しあわせぇ〜〜〜」
学校には授業を受けに来るというより、お店の料理を食べに来ているという感じになってきていた。
つらいお勉強の後に食べる料理は別格だった。
放課後には宿題をやりながら、スイーツ三昧。
あれ、向こうにいるのはトルナかな?
着ているお洋服は、ミチミチと引き延ばされてて、ちょっと破けそう。
何か悩んでるみたい。
「トルナ―どうかしたのぉ」
「あっ、コ、コープ君?!えっと、その・・・デザートどうしようかなぁって、ちょっと迷ってるの」
数十トンの、ぶよっぶよの体を揺らしながら彼女はショーケースのケーキを見て溜め息をつく。
「最近、ちょっとだけ体型が・・その、ね。どれも食べてみたいんだけど…カロリーを気にしちゃって迷ってるの」
「そっかぁトルナは女の子だから、気を付けてるんだね」
「うん・・・ねぇコープ君ならどれが美味しいと思う?」
ケーキはどれも1ホール単位で、切られたいわゆるショートケーキというのは置いてない。
最低でも10個は食べないとデザートにならないし・・・うーんどれもおいしそう。
「僕なら、そうだなぁ〜ここからここまで全部食べちゃうかな」
2段目と3段目の列を指さし、とんでもない事をサラリと言う超巨大肥満生徒。
「そ、そんなに?!」
驚きはするものの、今の彼女だってそれぐらいは食べれた。
「うーんでもコープ君がそういうなら…こっから、ここまで食べちゃおうっかな」
我慢は良くないしね、うん。なんて言いながら12万キロカロリー分のケーキを気軽に注文するトルナ。
一週間もすれば、トルナの体重は98tを超え、1店舗が扱う全ケーキを一気に食べるようになっていた。
ちなみにコープのデザートはその倍以上であり、体重もまた規格外の160t…つまり16万kgであった。
月が過ぎるごとに大型化していく超巨大フードコートはアズライト竜学の環境を大きく変えてしまった。
いつしか授業はフードコートの施設内で行われることになった。
そう、教室が飲食の施設に飲みこまれてしまったのだ。
講師も生徒も、呼吸をするぐらい自然に何かを貪り食らう。
あっという間に平均体重は100tを超えて、それでも肥大化は止まらなかった。
ぶくぶく、ぶよぶよとした肉塊が学校内を埋め尽くし、
足場は一切見えなかった。
視界に映るのは誰かの脂肪、贅肉。
フラーやワグナスもいつしか220tになり、
ダンターグやシュメルツはその倍になっていた。
そして、更に日が過ぎ…
「ふぅーーーふぅーーーーー・・・・・」
そこに居続けるだけで疲労をする青い肉塊竜。
この学校で現在《最も痩せている》生徒だ。
パネルを操作し、周囲を飛び回るサポートメカに指示を出す。
24種類の料理が運ばれ、それらをむしゃむしゃと食べながら、『117t』になったレナスは図書室で読書をしていた。
直径10m以上の横幅。
無数の肉ひだ、高く盛り上がった腹肉におされる胸肉、そしてうずもれて見えなくなった首と尻尾。
それでも彼はこの学校で一番痩せている…否、太っていないだけであり、
彼もまた重度の肥満状態ではあった。
520tの大商人が新たに開発したサポートメカは自動的に陣術による周囲の最適化を行うようになった。
今のレナスは、そのメカに助けられ自力ではろくな動作もエネルギーの消費もしないせいか、一日で数百キロ単位で太っている。
「ぞれにじでぼ、ごぉぶぐんだぢ、おぞいなぁあ・・・・」
太くくぐもった声は音声をクリアにする機械を通さないと会話も難しいレベルだ。
数日前に移動用車両が地面ごと陥没したらしいから、別のルートにしている影響で遅れているのかも。
とはいえ授業開始まであと20分以上はありそうだ。
空腹が我慢できない! とフードコートにこもったきりフラー先生たちがまだ戻ってきてないから、
おそらく…
へたしたら自習になるかもしれない。
ゆとりをもった教育方針にきりかえてるみたいだけど、試験とか大丈夫なのかなぁ…
ぐぅうううう
「あ゛・・・」
お菓子を貪っていたレナスだが、やはり特盛ハンバーグセットといったメインディッシュが恋しくなる。
先生たちが戻ってくるまで、注文して食べていようっと。
自力では一歩も動かないまま、《小柄な》生徒は手始めに72品のメニューを確認し全ての注文ボタンを押した
隣にいるファクトは100品以上頼んでいるから、僕はまだ控えめな方だよね。
「あ゛あ゛ーーーお゛な゛か゛すいだなぁ・・・」
アズライト竜学は、肉塊竜が蠢く…《ことすらできない》、完全な密集地帯となった。
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