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超密集地帯

13、〜ロックブーケ〜

「ん゛〜〜おっがじいなぁ〜〜」



アズライト竜学支部に勤めている教師、ロックブーケは違和感を覚えていた。

最近、妙に影が薄い、というか・・・目立たないというか、話題になっていないような気がするのだ。



以前はもっと、こう話しかけた生徒はドギマギした様子で「あっロックブーケ先生!おはようございますっ!」と、頬を赤らめながらうぶな反応を見せてくれていたものだ。

それが最近はどうだろう。
他の先生たちも、少しそっけないというか、普通の反応で…

「やだ、もじがじで…」


得意技である…技ではないけど、私の魅力が減っているんじゃない…よね…。

考えたくないことだが。毎日顔を合わせているうちに、耐性が出来たというか、見慣れ[られ]てしまったとか…




少し前の記憶…、夢の中の世界ではもっとモテてたし、ちやほやされてたと思う。

「はぁ〜〜自信、なぐすなぁ〜〜・・・」


理由は明白だった。
彼女は…太りすぎなのだ。

脂肪にまみれた声帯では低く野太い声しか出せず、甘い声色で囁いたりすることは出来ないし、

スレンダーなボディに不釣り合いな爆乳が持ち味だったのに、現在の環境の女性はだいたいが肉塊級の肥満ゆえ、巨乳で、目立たない。


くびれが存在しない世界で、【美しさ】をどこで競えばいいと言うのだろう。

せいぜいが髪の質感や、肌の美しさ、オシャレ具合になるのだろうが…
花より団子が大概な彼らは、そこまで細かい部分を気にしない。


「おぢごんでばかりも、いられない・・・かぁ」

左手を2回ノックするように動かし、ウィンドウのショートカットを起動させる。

「びよう、びよう・・・っと・・・んー・・・」

綺麗になる方法を検索してみたものの、どれもパッとしないものばかりだった。

別に今だってオシャレには十分気を使っているし、
お肌の手入れも全自動マッサージ器・全自動スキンクリーム塗器、全自動…ええと、とにかくいろんな機械で毎日かかさず磨いているから、ちょっと自信はある。


「あ、これ・・・」


体の美容は、内側から。美味しい、体が綺麗になる料理。
その特集ページが目についた。


(以下、会話聞き取り用機械による音質クリア補正)

「どれも、美味しそう…
ふんふん、体の中から帰る美容健康法、おいしいこれらの料理を食べるだけで誰もがあなたを振り向く美しい姿に・・・!!」


これだわ、私が待っていた美容健康方法!

早速ロックブーケは、資料を請求し【美容健康オススメメニュー】のカタログを手に入れた。

「肌の潤いをよくする、魚介スープ…
血液をサラサラにするフレンチサラダのセット…ん〜どれも気になるなぁ」

カタログには色んなお店の、色んな料理が載っていた。

徒歩で移動できる範囲でも、数十件、何十種類もの料理が紹介されていた。

「へぇ〜この豆腐ハンバーグ定食とミニラーメンチャーハンの重ねセット、たった2万3千キロカロリーなんだー!
このお店は、ヘルシーなのね…今度行ってみようっと」



料理を見ていると、途端にお腹が空いてきた。そうえいば、帰って来てからもう1時間も何も食べていない。

何かあったっけなぁ…

「ゆうごはん、準備おねがいー」

音声入力にも対応しているから、リビングから動く必要はない。
オール電化より便利な、陣術による食事の用意。

冷蔵庫や専用の食糧庫から、今ある素材の中からランダムに作れるメニューを表示してく。

「んーっとぉ、今日はこれとこれと、それからこれと・・・それも追加して、あ、あれも久々に食べたいなぁ、
うん、デザートも必要でしょ、これとこれと、こっからここまで・・・と」


これでも、ロックブーケの食欲は控えめな方だ。
同じ教師でも、ダンターグやフラーになると数倍は食べている。


アネイルは…私と違って、まだまだ人気が高い気がする。
いつの間に、こんなに差がついてしまったんだろう。

悔しいなぁ…



「アネイル先生…、美人だもんね…」



自分もどちらかというと【綺麗】だと言われる側にいるとは思っていた。
そんな体を、見た目を維持するために、色々と努力した。



彼女はライバルでもあり、憧れの対象でもあった。

ロックブーケは自分でもわかっていなかったが、彼女と同じ位置にいたかった。見上げるだけでなく、同じ高さで、肩を並べて話をしたい。
だからこそ、差をつけたくなかったのだ。


「とりあえず今日は栄養をつけて、明日から帰りにこのカタログに載ってるお店の料理、いっぱい食べるぞぉ…!」



自分を鼓舞しながら、2回目の夕食を食べ始めるロックブーケ。彼女は100tを過ぎてから体重は量っていない。
少しは増えるだろうけど、美容のためだもん、いいよね。


そう思いながら、彼女は翌日から早速【食べ歩き】をし始めた。

移動も健康にはいいし、足腰も鍛えられるはず。

…とはいえ、ぶよぶよの四肢は自力で満足に動かせず術や機械に頼って移動の補助をしてもらっているのが現状。

ベッドに寝た切りでテレビのリモコンを操作するぐらいの運動にしかなっていないのだ。



1軒、2軒、3軒目。

「けぷ・・・ちょ・・ちょっと、たべすぎぢゃっだ、がしら・・・」

ふう、ふう、体が妙に重い。美容にいいからって、何度もお代わり頼んじゃったのがまずかったかなぁ。

お腹いっぱいだけど、もう少し食べたい気持ちがある。
店の出口にアスターゼ草を粉末にして混ぜたインスタントのお茶があったから、それを飲んでおこう。

うん、だいぶすっきりしてきたかも。今日は5,6軒は回りたいと思ってたし。



そして、家に戻る頃にはとっぷりと日は暮れていた。

彼女の手には直径40cmもの巨大ミルクレープが握られており、左右に浮かぶフロートマシンはそれを5つ載せたまま浮かんでいた。

「デザートは、やっぱり別腹よね・・・ふふ」


なんだか、体がいきいきしている。
肌もつやつやしてる気がするし、効果あるのかも?

これから毎日続けていこうっと。

『脂』がますます乗って肌に艶が出てきたロックブーケは『肥大化』に気づかぬまま、悦び、効果を実感した。



2日目、3日目…


ロックブーケは、段々と以前の活気を取り戻し始めた。


ワグナス「おや、ロックブーケ先生今日はなんだかご機嫌ですね」

ロックブーケ「そうですか?・・・そうかもしれませんね、ふふ」


4日、5日…


最近は、生徒たちも頻繁に話しかけてくる回数が増えてきた気がする。

まさか自身の【横幅】が広がって目立っているとはつゆ知らず。




そして、七日目の出来事。


「あら、んしょっ、んっく、あ、あれ・・・?」


玄関から、外に出れない。
先月改築工事をしたばかりだから、まだまだ余裕があるはずなのに。


「ど、どぉ、じで・・・?」

ぶよぶよとした腕や脚を必死に動かしてもがくが、体は進まずびくともしない。



彼女の二の腕は垂れるばかりか、更についた脂肪で段差が出来ており、太ももも行き場をなくした贅肉が隆起し、険しい山脈を形成していた。



店を出る度に、アスターゼ茶葉の飲料を持ち歩き飲む癖がついていた。
ついつい、限界を超えて食事するのが癖になっていた。

どんどん体が重くなっても、肥満竜を補助する介護装置が苦労を軽減させ続けた。

綺麗になろうと、美容に良いと評判の食事を繰り返し、余分に摂りすぎた。

余った分は贅肉となり溢れかえるのはこの世の道理だ。



「う・・・ごんな、はず、じゃ・・・ぐずっ・・・」



何を間違えてしまったのだろう。

本来の目的を忘れ、自分を正当化し、甘やかし続けたせいだろうか。






その日、ロックブーケは初めて『肥満有休』を取った。


同僚の半分以上は経験済みとはいえ、流石にショックだった。


本末転倒も、いいところだったし、盲目的になっていた自分自身が情けなくて…泣いてしまった。



翌日。


ずずず、ずずぅ・・・ん、ずず・・・ずずぅ・・ん。

巨体をひきずりながら、たまに闊歩する音が聞こえる。

郵便か配達員だろうか?

すると、来客を知らせるポップが表示され、そこにはアネイルの名前が表示されていた。


「ロックブーケ先生、大丈夫?体の具合はどうですか?」

今、一番会いたくない相手なのに…

「・・・鍵は、かかってませんから・・・」


居留守を使いたいところだけど、そもそも外出が出来ないからそれも無理な話だ。


「お邪魔します…と」



彼女は部屋に入ると、まじまじとこちらの様子を見てくる。
なんだか…凄く恥ずかしかった。


彼女も確かにふくよかで、だけど・・・動作の一つ一つが愛らしくて、あぁ、本物なんだ、私とは違うんだな…って、見せつけられてしまう。


「ロックブーケ先生」

名前を呼び、彼女はこちらに歩み寄ってきた。
ぶにゅり、とどちらかの垂れ下がった腹肉が、どちらかの肉に覆いかぶさる。

「フー・・・フゥーーー…ど、どうしたの、アネイル、先生」

「みんな、待ってますから、はい、これ」


そう言って彼女は手元のボール式端末をいじると、こちらに何かのデータを送ってきた。

「これ、は・・・?」

「私や先生たち、それに生徒からのメッセージですよ、みんな待ってるんです」

「わ、わたしのこと、を?」



驚きつつ、次々とメッセージを表示していく。


そこには自分の復帰を望む声が、多数あった。

昨日は馬鹿にされてるんじゃないかと、不安な夜を過ごし眠れなかった。
太っただけの竜に、魅力なんて、ないのだからと。


けど自分の事を見てくれていた。




ロックブーケ先生は、授業中みんなの事をしっかり見てくれている、どの生徒の顔も、どんな子で、何の悩みを持っているか、把握している。
普段は自信満々で、ちょっと面倒だと思える一面もあるけれど…

なんて、色んな言葉が寄せられていた。

彼らを見ている時、向こうもちゃんとこっちの事を見てくれているんだ…


そう思うと、思わず目元が緩んでしまう。
顔にもたっぷりお肉がついてるせいで、目元の涙は流れにくいから、うかつに泣けない。


「ふふ、はやく、ダイエッドじで、もどらないど・・・ね」


「え?その心配はないですよ」

「・・・え??」

きょとんとして首を傾ける(あまり傾かない)アネイルの態度に、逆にきょとんとするロックブーケ。


「玄関口の拡張工事だけですむので、3日もあればまた復帰できるかと…
フラー先生はお店の関係上、前に1週間以上かかっちゃったみたいですけど」


み、みっか・・・
それじゃあちょっとした連休の休み明け程度じゃない。

って、みんなもその事を知ってて…?



途端にちょっと感動した自分が恥ずかしくなった。

一月や二月ならともかく、これなら別にメッセージなんていらなかったじゃない…!

けれど・・・けど・・・・うん・・・やっぱり、嬉しかった。



「あ、ありがどね、あねいるせんせ・・・」

「ふふ、どういたしまして」


全てを見透かしているように笑うけど、実際はそうでもない目の前の愛くるしい教師。
私の憧れであり、同時に追いつき、追い越したい存在。


今回はちょっと失敗したけど…


次は、別の手段で彼女の横に並ぶんだ。





ロックブーケはその思いを、膨れてはち切れそうなほど立派で大きな胸に刻みこんだ。




その時のアネイルの体重は、118t。
一方のロックブーケは133t。 数値上で見れば、それほど差があるようには見えない。

だが『十分肥りすぎた肉体』に更に『余分に』『1万4000kgもの脂肪』を蓄えているのだから、

その差は相当なものだった。
嬉しくないことだが、ロックブーケはこの時ばかりはアネイル以上の豊満な爆乳を手に入れていたのだという。



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