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超密集地帯

18、〜パンとスイーツ祭り〜

〜ベーカリーフェスティバル〜




長期休暇中、生徒も教師もハメを外しやすい。

単純に授業に咲いていた時間が全部自由になるのだから、好きな事をしまくる。

そして彼らが、彼女らが一番好きな事はもちろん食べる事だ。

美味しい料理、甘い甘いデザートたち。


コープのクラスメイトの女の子、エスタ=エイルネップもまた例に漏れなかった。

彼女はルーク龍特有の機構により体内のガスで浮遊することが出来たのだが、
かなり初期の段階からつきすぎた脂肪細胞が邪魔をし、また重量が異常に増加したことにより【浮遊】の能力は失われて久しい。


「さぁって、今日は何をしようっかな」


朝一にサポートメカの点検を終え、4社20品の出前を頼み完食しながらも、間食を続けていた。
あんみつ、きなこ大福、といった和菓子は結構糖分が使われているのだが、気にせず口の中へ運んでもらう。

厳選された拘りのローストアーモンドに、3種のブレンドした高級チョコレートコーティングした代物も
安い物価のおかげで気兼ねなく浪費可能だった。

「あーん、おいしい〜」

蛇腹は、1つの区切りが3段腹以上に複雑にしわや折り目が入っており、
いかにあり余った贅肉が試行錯誤して体内に納まっているかが伺える。というか、収まり切れていないからこうなっているのだが。

50リットルもの特濃ミルクアイスクリームをぺろりと平らげ、10ガロンものメロンクリームソーダもがぶ飲みしていく。

「そだっ、確かマージベーカリーで今週は特別割引きデーだったっけ。行かなくっちゃ」


コープの実家は、パン屋さんなんだけど。
素材からこだわってて、焼いたパンはかりっと中はふわっとしてて…
それにトッピングしている具材もすっごいおいしいんだよね。

コープのお母さん、ハリアさんが作る特性サンドイッチはやみつきになりがちで、
常連客は足しげく通うんだけど、ボリュームが多すぎて絶対に太っちゃう…でもやめられないんだよね〜って話をよく聞くなぁ。


私も、あのサンドイッチはとっても美味しいと思う。あー、思い出したらどんどん食欲が湧いてきちゃった…


エスタは残りのフルーツトッピングヨーグルト(果肉10kg使用)を急いで食べきると、
もぞもぞと肉塊の体を動かし、マクロ設定した陣術を展開していく。


歩行の補助、声帯の音質クリア補助、重量軽減、摩擦負荷の軽減、
1台ではすでにパンクする程の情報量がサポートメカに注がれてしまうため、彼女もすでに【マルチサポーター】になっている。…補助が複数必要、という意味のだが。



「ん、しょ、おいしょ・・・」

ずずっ、ずぶぅっ、と超巨大スライムがゆっくりと動くように、彼女は街へと出ていく。

家の全ての壁は同時にドアでもあるので、最近では脱出不可能という状況は少なくなった。

ことあるごとに壁を破壊する個体があまりにも多く、何とかして欲しいとデブ竜たちが訴えたおかげだろう。
まず痩せればいいのだが、その選択肢はこの国の竜に見えないのだろう。




それにしても、遠いなぁ。
乗り物がある場所に行くだけでも一苦労。

街並は肉塊竜のオンパレードで、道路は地面が見えず、だいたい誰かの下腹部だったり広がりすぎた尻尾の余った肉だったりする。

互いの肉を潰し潰されながらも、みんな慣れたもので交通は渋滞していなかった。動きは遅いし、だいたい機械に任せているからというのもある。


その気になれば家を出てから職場に着くまで完全な居眠り状態でも到着は可能なほど整備されていた。

「ふぅ、ふぅ、ふぅ、ちょっと、きゅう、けー
飲み物、おねがい」

サポートメカに頼むと、ガソリンスタンドならぬ竜の為の給水ポイントから大量のドリンクをコネクトして運んでくる。
これは市からほぼ無料で提供されており、気兼ねなくジュースが飲み放題だった。


と、ドリンクを飲みながら移動を続けていると…見慣れたピンク色をした肉塊竜の姿が見えた。


「あれ、トルナじゃんどーしたの?」

「あっエスタ、おはよう。今日はマージベーカリーに行こうと思って」

「私も行こうと思ってたんだ。一緒に行かない?」

「そうだね、行こう」

「コープに会いに行ける口実が出来て良かったねぇ」

ニヤニヤしながら意地悪を言ってみる。

「えっ、や、そんな事は………う、うん」

自分の性格をわかっているのだろう、変に否定せず素直に彼女はうなずいた。
あーあー照れちゃって可愛いなぁ。


「幼い頃一緒に遊んでて、暫く別れてまた再会…って、もー完全にフラグ立ってるもん。羨ましいなー」

「そ、そんなことないよ。昔と違ってあんまり遊びに出歩く機会は減ったし…」

「デートに誘っちゃいなよ、長期休暇中だし、チャンスはいくらでもあるでしょ?」

「う・・・うーん」

もー、じれったい。
コープはあの調子で鈍感し、トルナも積極的じゃないからなぁ…
ファクトはファクトで、空回りしてるし…
そんなお調子者に好意を寄せちゃってるヌオノも大変だわ…


あらためて脳内で現在の恋愛事情を思い浮かべる。

ヌオノ→ファクト→トルナ→コープ…うーん、見事にみんな一方通行中だわ。


みんな青春しちゃって…ちょっと羨ましいぞっと。
よっし、ここはアタシが一肌脱ぐとしましょーかね。



「とりあえず行こっか。さぁて今日は何を食べようかなぁ〜」

「焼きカラメルでコーティングしたチョココロネとか凄い美味しいんだよね」

「えっ、なにそれまだ食べたことない!楽しみだな〜」

「最近も新作がかなり増えてるみたい…
とりあえずお気に入りのは全部食べて、あとは割引だし…ちょっと大目に食べちゃおうかな」

「ふふーん、トルナもずいぶん食いしん坊になってきたよねー
体型もコープに似てきた気がするし…」

あらためて見てみると、アタシよりひとまわり、ううんもっと大きい気がする。
あちこちがこんもりとお肉が盛り上がって…首なんて回せないだろうし。ってあたしもほとんど動かないけども。

「ぅ、気にしてるのに…」

「ごめんごめん。でも今日は折角なんだから、自分の体型の事なんて忘れてパーッと食べちゃおうよ!」

「そうだね、うん…今日ぐらいは、いいよね」


今日ぐらいはいい、明日からは食べる量を減らそう。
ダイエットはいつでもできるし、そもそも自分はまだあのひとたちより太ってないし…

かつて肥満竜がよく言っていたその考えは、すっかり全住民に浸透していた。

太って、太りすぎで、【もう自力で動けない】にも拘らず。
術と機械に頼り切った彼女たちは、客観的に自分たちの体型を見られなかったのだ。



「ふぅー、やっと到着ー
わ、さすがに混んでるねぇ」

度重なる改築にマージベーカリーは広くなってるとはいえ、肉塊竜の密集地帯だ。

店内では収まりきらないので、外に特設会場を設置しており、
そこに出来たてのパンがたくさん積み上げられていた。

割引き、ということになっているが実際は少しの料金でたらふく食い放題のバイキング状態だ。


「あ、コープ君だ」

「目ざといねぇ…って、あんだけ大きかったらそりゃ視界に入るわよね」

平均的なオトナよりもデブで、立派で、肉々しい超巨体。

それがまだまだ育ち盛りの学生なのだから末恐ろしい。

「トルナにエスタも来てくれたんだ」

「こんにちは、コープ君。すっごい盛況だね」


「うん、僕もお手伝いしてたけどもうヘトヘトだよ」

そういうコープはわずかにパン配給・運搬の自動設定やペースを調整していたぐらいで
運動量は無いに等しい。

コープ自身、相当量のパンを食べたのだろう、いつにもまして胴体部分が横に広がっているような気がする。

奥の方でハリアさんも忙しなくパネルの操作をしている。


「あれ、ダグラスさんの姿が見えないんじゃない?」
「言われてみれば…」

「あーお父さんはねー、下準備でたくさん味の最終チェックとかしなくちゃダメでしょ?
それで一昨日からずっと、ずぅううーーーーっと食べ続けて…今はひっくり返る程膨らんじゃって、裏で休憩してるんだ」

「ひ、ひっくり返る程って…凄いね」

肉塊竜は、よほどの量を、それこそ大概な量を食わない限りそうはならないはず。
ダグラスさん、一回り太っちゃうだろうな…

「トルナやエスタは、今日はどれを食べていくの?」

「んーそうだなぁアタシはブルーベリーソースが入ったクレープ風の奴と…
もっちり生地のナポリタン詰めロールでしょ、それと…」

「コープ君はオススメとかある?」

「あるよー! えとねぇ、全粒粉入りのくるみパンでしょ、チーズスプレッドでしょ
オーロラソースのステーキ風サンドに、生ハムとサラダをマスタードで味付けしたトーストもおいしいんだよ〜」

それからコープはあれもこれも、とおすすめのパンを彼女の目の前にあるウィンドウへ画像表示しながらどんどん紹介していく。

「…それじゃあ、全部貰おうかな」

「コープが紹介したのならなんでもおいしく食べれるもんねぇ〜」

「そ、そんなんじゃないってば!もう…」

よく見れば、リガウやオーエンといったおなじみのメンバーももしゃもしゃと新作や人気商品を食べているようだった。
これだけの竜たちの胃袋を満足させる量をよく用意できるなと思いつつ、エスタも新作パンを堪能していく。

それから1時間後…

「…にしても今日のあんたはよっく食べるわねー」

「そ、そうかな? だってどれも美味しくって…///;」

「コープ、体だけじゃなく舌も相当肥えてるから好みの教えてくれるもんね。あ、これもおいしい」

半熟とろたまの7弾てりやきハンバーガーのチキンクリスプ10枚入りを食べ
特性ブルー&ブラックベリージャムのビッグロングパン(約1メートル)を食べ、それでもそのペースは衰えない。

「(太るわけよね…)」

10分、20分とマージベーカリー周辺の肉塊竜たちは、飽きることなくパンを食べていく。


生クリームでアクセントをつけたバケットフレンチトースト。
アップルシナモン風味のパンに、桜チップを混ぜた香りのよいもの。

どれも絶品だった。
トルナじゃないけど、アタシも食べ過ぎかな?

今日だけじゃなく、明日も明後日も来る予定だからちょっとペース配分を考えないと…

リガウ「この白黒ゴマ揚げパン、うめぇなぁガツガツガツガツ…」

オーエン「リ、リガウもっとゆっくり食べた方がいいんじゃ」

リガウ「んなに、いってだよむぐむぐ、このチャンス、のがせねぇって、うめぇうめぇ!」

アスターゼ草を常備しながら、ドリンクで腹を膨らませそこにパンを投じていく。

オーエン「休み明け、大丈夫かなぁ…僕もだけど…」


コープ「みんな沢山食べていって! あ、トルナさっきのビッグビーフカレーパンの追加いる?」

トルナ「う、うん…けぷっ。貰おうかな」


エスタ「(うーん、会話してるのはいいんだけど食べ物の話ばっかり…)」


以前から、ちっとも仲は進展しているように見えない。トルナってば、現状でも会話が出来てればいい…ぐらいだからなぁ。




結局トルナはその後ちょくちょくコープにオススメされるがまま、3時間ずっと食べっぱなしだった。

200t超えないようにしなくっちゃ、って言ってた決意はあっさり曲げちゃいそうだなぁ。
恋は盲目って言うしね。

エスタは溜息を吐き、不器用な恋をしている友達を見守るのだった…。









=その夜…=






夕方あたりから体調が回復したダグラスは、明日のイベントも成功させようと必死に下準備をしていた。


ダグラス「もぐもぐ・・・ぐっふ、これは焼き加減を少し変えんとなぁ…
ムグムグ、ムシャムシャ、このフルーツパイは砂糖を2kgほど追加しておくか」

ダグラスはここ最近の過剰な摂取、味見と調整の繰り返しでまた二回りほど太ってしまっていた。
200tを超えてからも日々増大し続け、たまに寝込むほど熱心にパン作りにいそしんだ。


おかげで今はとうとう261t(26万1000kg)にまで達していた。

これはこの肉塊竜ひしめく世界でも【立派な肥満体】であり、ベクタの出身者かな? などと思われる程だ。

その皮下脂肪・内臓脂肪たるや凄まじく、もし体内の脂肪エネルギーと水分だけで生活できるようになれば何年食わずにいてもいいか、わかったものではない。


ダグラス「ふひゅー・・・ぐひゅー・・・げぇふっ!!うぅ・・・むしゃ、むしゃ・・・」

彼がここまで短期間で増量し続けているのには理由があった。

3台以上のサポートメカがいる時に、とある条件下で発生する《スーパー・アクセルイーティング(超加速過食現象)》が原因だった。

1台はひたすらに飲食物を口に運び、
もう1台は組み込まれた陣術の作用で体内の循環・代謝を促進させ、もう1台は物理的なマッサージによって血液の循環やストレスの緩和をしてくれる。

従来の速度では不可能と思える量を、食べて、食べて食べて食べて食べ続ける事が可能となり
それを吸収し、ぶよぶよと体は太り続ける。

作業場の床は一面がダグラスだけの肉で覆いつくされ、壁際に追い込まれた脇腹の肉と思わしき部位は折り重なって段々になっている。



ハリア「あなた、あまり無理しすぎないようにね」

ダグラス「あ、あぁ、ワシも、もう、すこししたら、寝る、よ、むしゃむしゃ・・・ふぅむ、この塩バニラチョココーティングは、もう少し…ぶつぶつ…」

何度もおくびが漏れる程、食べ続けるダグラス。
パン工房はすでに【パン工場】と呼べるほどの生産ラインを獲得しており、
数百種類を超える巨大なパンをまるまる1つずつチェックしていくダグラス。朝、昼、夜ごはんすべてが食べれない程パンずくしだった。


1時間でどれだけ食べただろう。

仕事に集中しているダグラスはアスターゼドリンクを飲みながら、没頭し続ける。
とはいえ、彼も今ではすっかり大食らいだ。 予想より出来のいいものは、つい余分に2個、3個と追加で食べてしまう。

「フー…フゥウーーー・・・」

もりもりと食べ続けるその姿は、暴食そのものに見える。ぐんぐん腹部側が膨張していき、

「ごれも゛、ドマドと、レダスに合う、ドレッジングに、じないど、ぶふぅー、ぐふぅーーー!」


次第に息が荒くなり、喉元にすらパンが詰まっているぐらい食べ過ぎる頃には
サポートメカの会話補正機能が追いつかなくなり(実際にはほぼ何を言ってるか伝わらないレベル)じっとりとした冷や汗も出始める。

だが、仕事と割り切っている彼はアスターゼ草の成分に頼りすぎてしまった。次第に、もっと食べたい、もっと、もっと・・・

と貪欲なまでにパンを口に運び、サポートメカの設定を器用に変更していく。
機械には疎い彼だが、こと自分が食べる事に関しては覚えが早かった。

「ぶふぅ、んふぅ、むしゃもぐもりもりガツガツガツガツ・・・!!!!!」

コープやハリア、フラーが寝静まった後も、
ダグラスは一心不乱に食べ続ける。

ぶよっ、ぶぐぅっ!! とみるみる肥えていく体。

機材には陣術を応用した物理保護シールドを展開しているので自身の肉で破損することは無い。無い、が流石に食べ過ぎだった。

パンをまるで飲み物のように、消費していく。

「ふぅっ、はふっ、あぐぅっばくばくがふがふもぐもぐもぐむしゃむしゃむしゃもりもり!!!!!」


「おな、がが、ばんぐ、じでじまい、ぞう、だ・・・!!!」

膨張したお腹の苦しみから、慌ててぐびぐびと大量のアスターゼドリンクを飲んでしまう。

そして新たに生まれる食欲。
ちょっとした負の循環に陥っていた。 機械は無慈悲で、彼の体調を【しっかり管理】してくれる。
助かるが、ありがたくはない気遣いとも言えた。

おかげでどれだけ食べても、もっと食えたし、限界がいつまで経っても訪れない。



数時間後…



ダグラスは、半分以下の体重でなんとあのナイル=フィガロの一日の摂取カロリーと同等のパンを食べきってしまった。
逆に言えば現在のナイルの食事事情がおかしいとも言えたが。

この複数のサポートメカがいる時に発生しやすい《アクセルイーティング現象》は今後多くの竜たちに影響を与える事になる…のかもしれない。





翌朝




「あらあら、貴方ったら布団もかけないで寝て…風邪ひいちゃいますよ?」

「ぅ゛ぅ゛…げぇふ゛……」


再びひっくり返って完全に身動きが取れなくなっているダグラスに毛布をかぶせ(?)てやり、ハリアはフラーとコープを起こしに行く。


「さて、今日も一日頑張らないとね!」



こうして、その日も亭主が不在のマージベーカリーはオープンしたのだった。




エスタ「お、トルナやっぱり今日も来たんだ」

トルナ「うん!もうお腹ペコペコだよ」

エスタ「ははーん、朝ごはん抜いてきたわね?」

トルナ「え、えへへ…///」

そこまでして、コープと会話する機会を増やしたいとは…恐ろしい子っ!じゃなくって、凄いなぁ。
一食を抜きにするなんて。でもさ、トルナ…
朝ごはん抜いて昼以降ドカ食いってそれ一番太りやすいパターンだから…

しかし、ダイエットよりも恋愛事情を応援したいエスタとしては黙ってあげるのが優しさだと思っていた。


ファクト「あれっ、トルナちゃんも来てたんだ!」


声のする方を向くとミドガルズオルム緑竜のファクトが二の腕の肉を揺らしながら腕を振って挨拶をしてきた。

ずずっ、ずずぅっと肉塊竜でありながら割とスムーズな移動をして近寄って来る。
その手(自身の手では口まで持っていけないのでサポートメカから出ているアーム)には好物のハンバーガーが何十個も握られている。

クラスメイトが結構そろっている感じだ。だが、何より問題なのは…

「あー、ファクトまで来ちゃったか」

「えええ、なんだよその言いぐさ?!」

「気にしないで。こっちの話」


スポーツが得意(この体型でも一応スポーツは行われているらしい)な彼も、最近はサポートメカに頼っているせいでじわじわ太り続けている。
着ている服の色がいつもと違う…さては破いたな?

「…それより、ちょっとあんたこっち来て」

「な、なんだよいきなり。あ、それよりこの新しい服どうかな?涼しげな水色なんだけど違和感ないよな?」

トルナがいるとわかり、気になったのだろう。
彼はそのトルナに好意を寄せているわけだが…。


残念だけど、どっちを優先的に応援するかっていったらやっぱ友達なのよね。

ってなわけで、ファクトにはちょっと悪いけど妨害させてもらうわ。



エスタは積極的にトルナに話しかけようとするファクトへ、何度もちょっかいを出したり、道をふさいだりした。

肉塊竜がわんさかいる密集地帯なので、意図的に道をふさぐと迂回するのにも一苦労だった。



「(にしても、トルナはやっぱり積極性が足りないのよねー・・・)」


その日のパンフェスティバルが終わると、エスタはトルナに呼びかけた。

「もーずっと見てたけど、一日中食べてばっかりじゃん」

「だ、だって…なんだか緊張しちゃって…
それにパンも美味しいし…」

「うん、まぁそこは同意するわ。おいしかったわよね・・・」

「ね…」

「って、お互いほわーんってしてる場合じゃないの!
どーするのよ、進展しないままで。あー見えて、コープって明るいし、料理も上手だし、…ちょっと太りすぎな点を除けば、意外と同じ学年にライバル多いかもよ?」

「うっ」

「やっぱり、直接贈り物とかもしなくっちゃ。男は胃袋を掴めばオッケーって昔から言うし」

「でも、私料理そこまで上手ってわけでもないし…」

「そう? うーん、でもコープの奴、母さんも父さんも料理上手ぽいし、舌も肥えてるだろうからなー。
あ、そうだ。トルナ、あんたお菓子つくりとか得意じゃん!」

「と、得意っていうか…好きなだけで、自分でも作ったりしてるだけだよ」

「好きこそものの上手なれっていうじゃない?
それにコープだって、結構お菓子とかデザート好きみたいだし、手作りで送ったら喜ぶと思うけどなぁ〜」

「そっかな…
手作り、かぁ」

まんざらでもない様子。その後エスタは説得を続け、なんとか彼女にその気にさせた。


「うん…私、頑張ってみる。コープ君が喜ぶお菓子、挑戦する!」

「そーそー、その意気その意気!」

その後、ふたりはパンの食べ過ぎで重くなった体をずりずりと引きずりながら、
スーパーや食品コーナー、お菓子のデコレーション素材(業務用サイズ)を買い漁り自宅でお菓子つくりを始めるのだった。


「うーん、生クリームはもう少し増やした方が喜ばれるかなぁ」

「バニラエッセンスも入れると香りが良くなるよね」


数十リットルのホイップクリームが試作品だけで消費され、彼女らの胃袋に落ちていく。

200キロほどのチョコレートブロックを様々なお菓子に溶かして利用して、
それも全部平らげる。

クッキー、チョコチップビスケット、マフィン、キャラメルファッジ、チョコレートサンデー…
様々なお菓子を生み出しては、もっと質を高めようと繰り返し

「うぷっ、く、くるし・・・アタシはもーだめ、ギブアップ」

「わ、わたし、も、くるしく、なっちゃった・・・けぷ・・・
でも、もう、ちょっと、だけ・・・」


ただでさえ1日の摂取カロリーを超過しているのに、
大のオトナでさえキツイ量を食べていたのだから、息苦しいのなんの。

それでもトルナは良作品を生み出そうと必死だった。


エスタが帰った後も、ひとりでずっと…ずーーーっと…作り続けた。
そして作ったものは食べなければならない。

恋する乙女は、その身をむくむく、ぶくぶくと肥え太らせ続けていく。
まるで、はり切りすぎたコープの父親のように…。




「ぜぇ、ぜぇ、や、やっど、でぎだぁ・・・」


なんとか満足のいく、傑作が出来たのは夜が更けきった頃だった。

サポートメカに洗浄(お風呂代わり)や髪のケア、ブラッシングは任せていたおかげで、ずっとお菓子つくりに専念できた。

「でぼ、ぐるじ、がらだが、おも゛、い゛」


現在の彼女のオプション設定では対応できない程くぐもった声、重量。
それだけでも彼女がどれほど食べ続けてしまったのかがわかる。



その日以降、
トルナとコープの食生活は乱れに乱れた。

パン尽くしの生活、そこへ大量に持ち込まれたデザート・スイーツ類の数々…

流石のコープでも、もう食べれないよ…とギブアップする日もたまにあった。
それでも、おいしくてやめられない。

コープが喜ぶのが嬉しくて、トルナは調子に乗ってしまう。どんどん新作を作り
そのボリュームも日増しに増えていった。 比例して、ぶぐり、ぶぐりと肉が溢れ続けていく。


そして、パン祭りが始まってから1週間後…



エスタ「あんたら…ほんとそっくりになったわね」

コープ「むっしゃむっしゃ、えーーなにがぁー??」

トルナ「ひぃ、ふぅ、あ、コープ君、さっきの、マンゴープリン、お代わりいる?」

コープ「うん、さっぱりして、おいしい、からねーーむしゃむしゃ」


エスタ「はぁ、何か・・前より進展したっぽいのはいいんだけど…」


数十万kg以上増量し、腕や足をばたつかせる事すら厳しいふたりは、
コープが400t、トルナが300tオーバーという、相撲部の一般生徒顔負けの、肥満教師に匹敵する段階に突入していくのだった…

子供のうちは非常に太りやすいため、この増加傾向は生活レベルに支障をきたすほどに危ういほどだったが



それでも皆は食べ続ける事を選んだのだった。





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