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超密集地帯

19、〜カーウェンの仕事〜

トルナの姉、カーウェンは漁師だ。
典型的な姉御肌気質で、海の漢にだってひけをとらない、力強さと行動力を持っている。

だが、近頃の彼女はその行動力に変化があらわれているようだった。





カーウェン「はー、それにしても最近はあっついなー」

自宅で、酒とつまみを交互に口へ運びながら、ぶよぶよとした桃色の竜が愚痴を吐く。

例年と平均気温は大差ない。暑い理由は明白で、彼女が去年と比べるだけでも比較できない『暑い脂肪』を着こんでいるせいだろう。

こう暑いんじゃ出歩きたいと思わない。

「けどそろそろ漁に行かないと駄目だしさぁ。はぁ、憂鬱だわ…」

漁に出る時に乗る旧型深海漁船『シュリンツァー7式』は最近ご機嫌ななめだ。

・・・まぁ37回も改造して7式と呼ぶのはちょっと語弊があるんだけど。

彼女は気づいていないが、彼女の体重が原因だ。
何十トンもの魚類を乗せれる船だが彼女ひとりで数百トンあるのだから仕方ない。

トルナ「お姉ちゃん、昼食の用意が出来たよ」

用意と言っても手元のパネルで操作をするだけで、直接包丁を使ったり調味料を加えたり…なんてことはしない。
この室内にあるありとあらゆる物事は、陣術とサポートメカに任せた全自動だ。

リビングいっぱいに広がる肉塊の肉体の上に料理を皿ごと乗せていき、口へ運ぶのはサポートメカたち。


カーウェン「お、あんがとなー。
おいし〜〜俺にはやっぱしこの味は出せねーよ…」

「にしても、トルナってばまた一段と上達したんじゃないか?
ははぁん、さては…食わせたい奴が出来たからか」

「やっ、別に、そ、そんなんじゃないよ」

否定しながらも、コープへ送る手土産をしっかり用意してるのだから言い逃れは出来まい。

漁でとってきた海鮮料理を次々と平らげ、やっと満腹になったのは80分後だった。
竜たちの噛む回数は非常に少なく、その時間内でも食べた量とカロリーは莫大な量だった。
一般的な生物なら数カ月分はあろうかというカロリーだが、それでも彼女たちのお腹は膨らんではいない。

それほどに、彼女たちの体の上には非常に非常識な量の贅肉が盛られている・・・という事だろう。


「それより、お姉ちゃんまた太ったんじゃない?また船沈まない?」

「ま、またってなんだよ!まだ3回だけだぜ?」

ぶよぶよの腕を振り回して講義するが、垂れた二の腕の肉が体から離れない程の重度肥満だ。
むしろ今のカーウェンでもかろうじて乗れているのは奇跡としか言えない。

「3回も、でしょー」

「でも、収入減がなくなるじゃん」

「そうなんだよね…転職しようにも、お姉ちゃん他の事はからっきしだし…」

「怒るぞ!いや、実際そうなんだけどさ…」

それに海にかかわる仕事は変えたくない。
ずっと漁師としてやってきたんだし、海の天候も、魚の種類も、潮の流れも、覚えた知識は無駄にしたくない。


「…そだ、漁に出なければいいんだ」

「え?本当に転職しちゃうの?」

「ちげーって!海に出ないで漁師をやればいいんだよ!養殖さ!」

「でも、養殖って大変じゃない? その設備とかも必要だし・・・」

「なんとかなるって! 仲間連中にも協力して貰って・・・
よし、さっそく準備にとりかからねーとな!」

「大丈夫かなぁ・・・」


トルナは、ある心配をしていた。
きっと、この養殖というのは成功するのだろう。だが、それは言い換えれば姉が、変わってしまうという不安。

一言でいうなら・・・

『ますます動かなくなるのでは』という予感だった。

そして、その予感はあっさり的中してしまう。




====



トルナ「という、わけなの」


レナス「へぇー、それでカーウェンさん最近見かけなくなったんだ・・・」

パン祭りが終わってから数日後、トルナは少し呆れ気味に事の顛末を話し始めた。
姉が養殖を始めたのは、30日以上も前の話である。

トルナ「今じゃお姉ちゃんってば400tよ400t!
ハァ―・・・私でもまだ310t前後なのに・・・」

コープ「もぐもぐ、でもわかるなぁ、僕も、むぐむぐ、暑い日は遠出とかしたくないもん」

ガンガンにクーラーが効いたハンバーガーショップ内で、生徒たちは談話していた。

トルナ「そうかもしれないけど・・・ちょっと、太るペース早すぎて心配だなぁ…」

心配だなぁと言いながら、たっぷりとメートルアグの葉や果肉を使った高カロリーバーガーをパクパクと食べる妹も大概だった。
とはいえ周囲がそれ以上のデブが平然といる環境なのだから仕方ないのかもしれないが。

女生徒ひとりで31万kg。周囲も同等かそれ以上という中、それでも店内は冷房がしっかりきいており快適だった。

トルナ「お姉ちゃんも、レナス君を見習ってほしいな…」

レナス「えっ(ギクリ)あはは、そう、かな・・・僕も結構太っちゃったと思うんだけど」

リガウ「あはは、なーに言ってんだよ、お前がデブだったら他の奴らはなんだって話だっつの!」

オーエン「・・・そうだよ、そんなにお肉少なくってさ(じとぉ)」

まるで親の仇を見るかのように、皮肉な発言にも取れるレナスの控えめ(ではない)言葉にオーエンは黒いオーラを出しながら見つめた。

レナス「こ、怖いよオーエン君・・・」

コープ「あ、ポテトのエクサ盛り追加お願いします〜〜」

トルナ「私はメガ盛りでいいかな」オーエン「ぼ、僕はお腹いっぱいだからギガ盛りでいいや」

リガウ「オーエン、我慢してんじゃねーか?ニシシ」

オーエン「そ、そんな事ないよっ」


生徒たちは、会話をしながらもサポートメカにジャンクフードを運んでもらい続ける。
育ち過ぎたヒナが親鳥に餌付けされるような、シュールな光景だが、
それがこの世界の一般的な光景になりつつあった。

自分で歩き、物を取り、テーブルにつき、料理を食べる。
この面子の中で最も『太っていない』(痩せてるとは言ってない)レナスでさえ、サポートメカに頼りっきりだった。


===


トルナ「ただいまーー…
あ、この匂いは…お姉ちゃん、また台所操作したでしょ!」



カーウェン「くふぅ、んふぅ、だ、だっでぇ、おなが、ずいだんだもん…」

音声出力の設定もちゃんとやってないのだろう、カーウェンの声は酷くくぐもって、まさにその姿に相応しい、重低音の聴きづらい声質になっていた。

カーウェン「ね゛ぇ゛、どるなぁあ、はや、ぐ、ゆうごはん、づぐっでよぉーーー」

ふぅふぅ、ぜぇぜぇと、不規則なリズムで荒い呼吸をする姉は、短期間で急激に肥大化した影響で慣れてない感じが丸わかりだった。

トルナ「あー、もーしょうがないなぁ」

しかしコープ同様、どこか母性本能をくすぐる甘え上手に弱いトルナは、そんな姉にダイエットを促さない。
仕事は順調だし、ダイエットはもう少し先でもいいよね、そんなゆるい考えだ。

カーウェン「そう、いえば、ふぅ、ふぅう、ようじょぐば(養殖場)の、めんぜぎ(面積)が、がいぢぐごうじが、おわっで、ま゛た2倍に、なっだんだぁ」

トルナ「ホント?! それじゃあ、当分うちで魚介類は買う必要なさそうだね。…ちょっとだけ、食べ過ぎが心配だけど」


時期的にあまり売れない魚介類も中にはある。そういったものは旬を逃したら自分たちで食べきるしかない。

トルナ「…コープ君もよんで、今度お寿司パーティでもひらこっかな♪」

カーウェン「おぉおっ、ずじ(寿司)がぁっ、いくらでも、たべれぢゃうよなあれ・・・じゅるり」


もう何日も外出すらしていないカーウェン。養殖場の前に自宅の改築が必要になる日は目前だ。


それでも細かい事を気にせず、前向きで居続けるこの姉妹は、まだまだ体重が増え続ける事だろう…。




続く




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