超密集地帯
20、〜禁断のアーティファクト〜
〜禁断のアーティファクト〜
ドラゴアースの第四衛星ドラゴルーナ。
かつて大戦でその大地の大半は失われた…。だが、その大地に生きる竜たちは、その体を肥大させ続けている。
行き場がなくなるのでは、と思うほどの速度だったが。
無論そんな事にはならなかった。
ドラゴルーナだけで、大きく分けてもアズライト諸島。エルオーネ大陸。ジャコール帝国領土。
スカラブ諸島。セピア諸島。バルハラント諸島。ベクタ大陸。
ミドガルズオルム大陸。メルテア列島。ルーク諸島。レイヴン諸島。レキューシオン列島
と多くの大陸や島が残っており…
その中のアズライト諸島はラフィティア本島、リシティオ島、ルフェジク島、レンタラック島、ロニフィス島の5つから成り立っている。
更に更にその中のラフィティア本島にある、メガフロート・ファーブニル。
その街の高台にある商店街の一角に建っている『マージベーカリー』
その1軒だけで、数百メートル四方を占拠してしまっている。
元から隣家同士には距離があったため、増築を繰り返しても問題ない。
それでもベクタ大陸のフィードロット市のように、隣家に密接する程居住民が太ってしまったらどうするのか。
簡単な話、ずらす様に『短距離だけ』引っ越すのだ。
元々大陸があったはずの場所…今では海だが、それゆえ人工島の土台はいくらでも広げる事が出来、
『住居の拡大』どころか『島全体の増築工事』が近年の恒例になっていた。
いかに、ここの竜たちが《非常識な肥大進行》を繰り返しているかがわかる。
先ほど紹介した、『マージベーカリー』
ここに現在住むのは、店主でありマージ家の大黒柱、ダグラス=マージ。体重35万kg(350t)
その妻であり、コープの母ハリア=マージ。体重29万3千kg(293t)
その息子、コープ=マージは学生の身でありながら49万9千kg(499t)という異例の重量と肉量だ。
そして、居候の身であり、かつてはこの中で誰よりも痩せていたカルボナル=フラーは57万kg(570t)
なんと、この1軒だけで総重量約150万kg(1500t)という異常地帯なのだ。
その肉量たるや、床一面が贅肉で溢れているのは当然。
あちこちが余分な肉、どこもかしこも彼らの肉、壁際も、場所によっては天井にすら『どこか』が接している始末。
そんな彼らは移動するだけでも地響きを起こす…が、実際はサポートメカと陣術による補助でスムーズに、快適な移動が出来ているが。
ともかく、この世界は優れた科学技術と陣術、そして食糧生産、肥満に対して強靭すぎる肉体が災いし、
全員の肥満化は本当に、どこまでもとどまる事を知らなかった。
極端な急成長を遂げ、平均体重グラフはどこまでも右肩上がりに伸び続ける。
そして、更なる悲劇を引き起こす【禁断のアーティファクト】が…決して渡ってはいけない者の手に渡る事になるのだった。
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その世界には、様々な神秘的な塔がたっていた。
入口すらわからないような複雑なものから、一切壁に傷つける事も出来ない塔など。
そして、その塔には古代文明の遺産…【アーティファクト】が眠っている場合が多い。
今の時代、立ち入りが物理的に不可能な場所を除けば調査は終わっており、
目ぼしいものはあらかた見つかっている。
だが…そのアーティファクトは、普通のどこにでもあるような台座の上に、まるで突然あらわれたように見つかったという。
そのアーティファクトは不思議な性質を持っていた。
それは陣術(マティクス)というよりは、まるで理術(オラトリウム)そのもので
物質転送や、反重力に匹敵する特殊な術の『仕組み』そのものだった。
そのアーティファクトを用いて展開可能な理術は、とある事象・ないし物体がその本質としての役割を終えるまでの間、自在にサイズを変更可能だった。
例えば、巨大な建造物…それこそ【家】であっても指定可能な範囲であれば【そのままの状態で圧縮】し、移動後に【解凍】が可能だった。
様々な物理や法則を無視する、驚異のアーティファクト…
悪用するならば、大量破壊兵器を簡単に輸送…どころかコンパクトに持ち運ぶことも可能な恐るべき代物だった。
だが、そのアーティファクトの所有権を手にした、ナイル=フィガロは己の最も忠実な欲望に従った。
食べたい、もっと食べたい…もっと、もっとたくさん、満足するまで、食べ続けたい…食べきれないと思えるほど、食べまくりたい…
その願いを叶えるためだけに、その『魔法』じみた古代遺産をサポートメカに組み込んだのだった。
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10日後。
とうとうナイル=フィガロはベクタ大陸固有の『超重度上位肥満肉塊』という例外を除外した『一般的な生活をしている食べ過ぎなだけの竜』の身でありながら
100,0000kg(1000t)という大台に乗ってしまうのだった…
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ナイルはもっと世界中のおいしいものが食べたかった。
今だって満足している…が、食べたりない。
しかし口も体も一つしかなく、一日の時間も限られている。
だというのに世界では新たな料理、改良種の食材、腕を上げたコックたちの新作が日々増え続けている。
日がな一日食べ続け、道楽を続けている彼でさえ、追いつけない。だから、アーティファクトを…
『物体縮小』の理術を利用した。
ナイル「はぐがふもりもりむぐむしゃあぐむぐあぐんぐ!!!!!!!!」
ナイル「むっしゃむしゃぐびぐびごくごくむしゃむしゃはむあむ!!!!!!!!」
ナイル「ガツガツガツガツくちゃくちゃんっぐぅはっぐぅうう、むちゃむちゃ!!!!!!!」
マナーや作法など知ったことか、とばかりに食べ続けるナイル。
その行動自体は普段のものだ。
だが食べているものがまるで違う。
ぽいぽいと口に運び投げ入れられる唐揚げの1個は、実際には5倍近い大きさだし
特性ハバネロチーズハンバーガーだって、一口で食べているが実際には両手で抱えて食べる程のビッグサイズだ。
お腹に入り、消化が開始されると初めて役割を遂行した食べ物たちが本来のサイズにじわりじわりと戻りながら消化されていく。
おかげでぶよぶよの超巨大な肉塊でありながら、食べれば食べる程、そして時間が経過する程に『腹部』と思わしき箇所がグングン膨らみ、巨大化していく。
アクセルフィーディングも重なり、ナイルの成長スピードは記録的なほどに速い。
とはいえ、彼の莫大な資産が成せる業であり、流石に同じ条件でも他の竜がこれほど短期間で太る事はまず無理であろう。
1tや2tはおろか、5tや10tであっても軽々と増量していくナイル。
あまりにも短期間で肉量が増え、サポートメカでいくら負荷を軽減するといっても限度があり、彼は世界初の『肥満疲れ』に悩まされる程であった。
それでも彼は欲求に従い、食う事に没頭し続ける。
今朝から中華、フレンチ、和食、ジャンルや系統もバラバラに、ありったけの食い物を求め、食べ続ける。
ナイル「ん゛まぁ、い、あむぅっんぐ、ゴブゴブゴブ・・・」
咀嚼回数は最低限に、まともに聞き取れない『音』を漏らしながらナイルは、ただひたすら肥え続ける。
彼を止める手段も、相手も、存在していない。
朝から晩まで食し続ける生活は繰り返され…
体型に合わせて肥大し続ける食欲だけが、唯一の変化だった。
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