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超密集地帯

21、〜レナスのお出かけ〜

休日の最中…ふと、物足りなさに目が醒める。

どうしたんだろう? 


レナスはパチリと目を開き、癖で上半身を起こそうとした。

だが、現在の体型では上半身と下半身に境というものは無く、わずかに腕や頭が揺れるだけ。

同時にぶよぶよとした贅肉に全身が揺らされ、振り回されるという、いつもの感覚を覚える。


「……また、太っちゃったかなぁ」

おそらく目が醒めた理由は、空腹からくるものだ。

物足りなさは、食べたりなさ。

寝たきりのままレナスは空宙に手を伸ばし、腕をフリックさせサポートメカのアプリウィンドウを表示。

手元と目の前に表示されるパネルは連動しており、器用に操作していく。

というか、体型のせいで手元はもうまともに見られないのが現状。

全生徒中、平均かそれ以下の体重と体脂肪率の彼でもそうなっているのが今のアズライト竜学だ。



太りすぎを自覚していながら、周囲はそれ以上の猛者ばかりで感覚はすっかり麻痺している。

様々な補助機械や陣術が、行動制限や食卓問題を解決しているおかげでもある。

「ええっと、冷蔵庫に何かあるかな…」

『何か』は確実にある。それが今食べたいものかどうかの違い。
数百リットル容量の、超大型冷蔵庫も今や『個人用』としてどの家にもある。

コープ君は個人用冷蔵庫『3つ目』だって言ってたっけ…

ナイルさんや、一部の超重度肉塊までいくと専用の移動食糧庫も常備してないと追いつかないって聞いたっけ…
あ、でもナイルさん自力では移動しないから食糧庫の移動ってのは変な話かな。


「ええと、明太子風カマボコ…、あっ鰻重の残りもあるんだった。
バナナ豆乳も5リットルほど飲んておこ。ハバネロチーズのポテトも出してっと…」


その場から一切動かず、レナスは次々と食べ物やおやつを運んでもらう。

堂々たる姿は、休日にリモコンだけ操作しゴロゴロするメタボなお父さんを彷彿とさせる。

20分ほど食していると、だんだん【小腹が空いてきた】

もっと、こうガッツリしたものが食べたいな…。

「そうだピザを頼みましょう」

近場にピザ屋は数件あるし、どこも個性的なメニューが多い。

思い立つとレナスはワンタッチボタンで早速注文を開始する。
冷める間もなくものの数分で35枚のピザが各店から配達された。

1枚3万6千キロカロリーオーバーの濃厚ピッツァ。

「わぁ、おいしそう・・・」

ホカホカとした湯気と同時に漂う香ばしい匂い。
生地の表面に散らばった数々のトッピング、色鮮やかなパプリカが食欲を沸立てる。

「ゴク…」

35枚もの特大ピザは、サポートメカが普及する前ならおとなだって平らげるのに苦戦する量だ。

それが、一学生が、しかも平均的な体格の子が次々と口の中へ入れていく。

「はむっ、わぁっ、この新作のエビとカニクリームの海鮮ピザ、具がぷりぷりして、口の中が、海が満ちてるみたい」

ほふほふと熱々のピザをまた一枚、また一枚

「はふはふ、むしゃっ、モグモグ…んぐっんぐっ」

あ、そうだドリンクも飲まないと、喉が乾いちゃうからね。

全自動キャップ開け機…もとい数千もの働きが可能なサポートメカに何本ものジュースを開けて、口へ注いでもらう。

「んぐっ・・・んぐっ・・・んぐっ・・・・・・・・・・ぷはぁっ」



ピリ辛チョリソーがメインのピザの後の、このキンキンに冷えた山葡萄スカッシュのさっぱりすること。

「けぷっ、ぷふぅ、まだまだ残ってるから、読書でもしながら食べようかな」

読みかけだった小説のシリーズがある事を思い出す。
食事モードを、完全にオートに変更。
口に入れるペースや、飲み物との配給バランスはプログラムで自分好みに設定しており、疲れることなく残り20枚以上のピザを食べることが出来る。

「もぐ、あぐ、もぐ、んぐ…さてと、『とある宮廷魔術師の日常』シリーズは…と」

目の前のウィンドウに電子書籍を表示する。まだ刊行されてるファンタジーものだが、個性的なキャラクターが登場して面白い。

「でも、この小説に出てくる主人公、ちょっと食欲強すぎだよね…ムシャモグムシャモグ…
ダイエットも何回も失敗してるし、美人なのに、もったいないなぁ、もぐもぐ・・・うぷっ」

休憩がてら冷凍庫から取り出された特大バニラアイスを乗せたソーダフロートが到着し、スプーンとストローが交互に口へ入れられる。

しゅわしゅわとしたソーダは、バニラの濃いミルク感を損なわせることなく口の中をさっぱりとさせてくれる優しい甘みだ。

レナスはこのソーダフロートが気に入っており、最近では数十リットルもの業務サイズの高級バニラアイスクリームを常備している。

ぺろぺろと舐めて溶かし、柔らかくなったアイスとソーダを同時に口の中へ。
さわやかな色合いのソーダフロートを食べ終えると、お次はヘタと種無しチェリーもたっぷり乗せたメロンクリームソーダフロート。

保温パックに入っているピザはそうそう冷める事は無いので安心だ。

…というよりも、今のレナスならば冷める前に合間の間食を含めて軽々と食べきることが出来る力量…というか体型にはなっていた。

読書を進める間、再開したピザを消費していく。大きな空箱が、次々と重なっていき。
10パックごとに自動的に折りたたまれゴミ箱へ。これもサポートメカが全部やってくれる。

「あ、もうすぐなくなっちゃうのかぁ・・・ええと、追加のピザ…
それ以外にも食べたいな、ええっとカレー専門店と、ハンバーガーを扱ってる店、各店から今週のおすすめメニューを全部1セットずつお願いします」

『レナス様、了解しました』

頼んだものを復唱すると、サポートメカはこれまた自動的に、支払いと注文をなんでもやってくれる。
レナスはただ、電子書籍の文字を追い、物語を空想し、次々と運ばれる料理を口へ、胃袋へ運んでもらうだけ。

「げぇぷっ、ふぅふぅ、あー面白かった…
さてと、次の巻もどうせだし読んじゃおうかな」

2時間以上が経過し、食事もその間休まず続けている。
だが、レナスは物語に集中していたせいかそれほど強い満腹感は覚えていなかった。

全自動モードは解除せず、彼は脳内の冒険の海(ものがたり)へ潜る。




それから何時間が経過しただろう。

物語は次々と進んでいき、その間もサポートメカは休まず働き続けた。

「はぁふぅ、はっぷ、うぷっ、もぐもぐもぐ・・・」


ブヨブヨとした全身で、胴体部分が僅かに張りつめ膨れていく。

それもそのはずだ。今朝から一度もインターバルを挟んでいないのだから。



バクバク、ムシャムシャと食べ続けるレナスの姿には変化も訪れていた。
1時間ごとにぶくり、ぶくりと一回り体が肥大化し続けている。


アスターゼ草の成分を抽出した、消化促進作用のあるドリンクを大量摂取しているせいだ。
それでも、消化できる速度には限度がある。ぶよぶよの床に広がる程の肉塊の彼の胴体が、次第に張りつめ膨れ、盛り上がっていく。


ぶよぉっ、ぶく、ぶよ


脂肪を追加した背肉が更に隆起し、新たな段差を生み出す。


「むぐ、ふぅふぅ、あぐぅ・・・むしゃ、もぐもぐ、ぱりぱり・・・」

『食事』が終わり『間食』が始まる。
業務用と思える程巨大な15kgものポテトチップスを濃厚塩、わさび醤油、コンソメチキン味…と一挙に平らげていく。

物語に没頭するレナスは、今や作業よりも自然に、呼吸するのと同じく物を口に入れられていた。

「えっぷ、ふぅ、ふぅ、はぁ、はぁ」

ギチギチと膨張していく腹部。だが、一定以上膨らむ前にサポートメカが消化分解を促進させるアスターゼ草を使用していく。

「マスター・レナスの胴体膨張率が上昇しました。一部メニューを、変更します」

ゴボウやニンジンといった野菜に、薄くスライスしたアスターゼ草の葉を天ぷらにしてあげたもの。
熱々出来たてのそれをたっぷりとつゆに浸し、口の中へ…

サポートメカは現在数万種類とも言われるメニューを自動で作成できるプログラムすら入っていた。
設定さえ決めておけば、材料が無くても自動注文し揃えてくれる。

「ふぅ、はぁ、ふぅ、んぐぅ、はぁ、はぁ」

過剰なエネルギーの摂取、気道が狭くなるほどの暴食をつづけ、レナスは次第にボーっとし始めた。

だが読書が進み、物語に没頭すると現在の自分の事は後回しにし、頭の中で描く物語を追う事だけに集中した。

「ムシャムシャムシャ、あむっ、げぷっ、はぁ、はぁ、ぜぇ、むしゃむしゃ・・・」


続きが気になる…。
今読んでいるシリーズは、章ごとに区切り良く終わってはいるが複数の伏線を張り巡らせており
それが次の巻で綺麗にまとまる事が面白く、また心地よかった。

「けぷっ。もう、何時間読んでたっけ…」

少し休憩、しようかな? けど、最後まで読み進めたい…

その欲求は、アスターゼ草がもたらす食欲と混じりあい、強まっていく。

おいしい料理を食べ続ける喜び、物語を読みふける悦び。


レナスは寝る時間も減らして、その行為を続けた。

「うぅぷ、はぁ、はぁ、もう、目も、開けるのがつらい、や・・・そろそろ、寝ておこう・・・」


ぶくぶく太り続けたレナスは、全身を襲う気だるさと睡魔に逆らえず、一切の運動行為をせずにその日を終わらせた。

明日は、確かコープ君たちとお出かけする約束していたんだった。タイマーは…セットされてるから、いいか。

「ふわぁーーーぁあ・・・ぇっ・・・ぷ」

大きなあくびをし、おくびを漏らし、睡眠導入をしてくれる音楽を聴きながら、彼はゆっくりと眠りについた。
その体が、ひとまわり大きくなっている事に気づく事も無く…




翌朝。

「ん・・・んんーー・・・・」

あれ、今何時だろ。遅く寝たと思っのに、なんだかぐっすり寝れたような…

そしてハッとして時計を表示させる。う、うそっ、約束の時間ギリギリ?!

「ぅわっ、わわわ、どうして、起こしてくれなかったの、さっ」

ジタバタともがく肉塊竜。とはいえ自力でやれることは無いので、サポートメカ達に顔を洗ってもらったり、歯磨きをして貰ったりする。

確かにアラームの時刻はセットしてたのに…

気持ちは焦るが、体は全く機敏な動作が出来ない。

「んっく、はぁ、はぁ、いつもの、マフラーに、えと、ぜぇぜぇ…」

今日は気分転換にオシャレしていくつもりだったが、せいぜい身につけれるのは長さの増したマフラーや、ツバのついてない帽子だけ。

まともに羽織る事の出来る衣服は、ほとんど持ってないし時間も無いからやめておいた。

「はぁ、はぁ、それじゃ、●×▽◆店の、前まで、サポートお願い…」


息を切らしながら、ズズ、ズズズ…と全身の肉を引きずり移動する。

陣術の歩行補助が無ければ、こうして動く事すらままならない。

苦戦しながら、ほぼ波に流されるようにだがレナスは目的地までたどり着いた。

「おっ、レナス遅いぜーー何やってたんだよ」

「もう僕らお腹ペコペコだよぉ」

レナスを待っていたのは、コープ、リガウ、それにトルナ。オーエンやファクトは別の用事があるとのことで来ていない。

そして、彼らはみな、当然のように自分より太っている。



各々の重量に差はあるが、一見すれば贅肉を何重にも着込んだ姿は太り具合の差がわかりづらい。

だが、離れてみればわかる…個々の『体積』が違うからだ。

「(やっぱりというか、コープ君また一段と大きくなってないかな…)」

「んじゃ、早速行こうぜ」

今日は新装開店オープンした、バルハラント諸島の新鮮で豊富な魚介類をメインに据えたお店『フローズン』だ。

「あっ、みんな、ま、まってよぉ」

ずりずりと、慣れた?動きで移動していくリガウたちをレナスは必死に追った。
おかしいな、どんどん距離が離されていく。焦りと共に、呼吸がどんどん荒く、乱れていく。


短期間で急激に体重が増えたレナスに、現在のサポートメカの設定が完全に合ってはいなかったのだ。

「置いてくぞーー?
…ったくしょうがねぇなー」

リガウはのそのそ(と言っても、足が宙に浮く事すらない動作で)レナスに近づいた。

「ほら、おぶされよ」

「う、うん、ごめんね」

サポートメカのコントロールパネルを操作し、摩擦軽減や、障害物がある場所でも進めるアプリを起動させる。

肉塊が、さらに大きな肉塊の背中?と思わしき場所へ乗る、というより大型の肥満クジラが座礁でもしたように『乗り上げていく』

「ぐぉっ」

ずっ、しぃいいいい・・・・!!!!!!

レナスの全体がリガウに覆いかぶさると、自重も相まってサポートメカがあっても酷い超重量だった。
軟らかい地盤ならずぶずぶと沈みそう。脆いアスファルトなら、とっくに亀裂が入っているに違いない。


「ふぐっ、ぬぬ・・・レナス、おめー、重く、なってねぇか?」

「ご、ごめん、”ちょっと”太ったかも…」

しかし、それでもさすがは肉塊ボディで押し合ったりする相撲部員。レナスを乗せたまま、5分の1程の速度で目的地へと向かうのだった。


===


「ぅあーー・・・つかれた・・・
へへ、けどよ、たっぷりカロリー消費したおかげでめちゃくちゃ腹減ったぜ」


目的の店『フローズン』はオープンしたてということもあり、賑わっていた。
数多の肉塊竜がひしめきあっているが、暑苦しい視界とは違って店内はエアコンが効いており快適だ。


先に到着してたコープたちはすでに複数の空になった皿をその肩付近の浮遊ミニテーブルに積み重ねさせていた。

すでにお店には通常のカウンター席や座席、というのは存在しない。そんなスペースは無いし、それに対応した体型の竜は皆無だからだ。

「わぁー・・・どれも、おいしそう」

写真と共に乗っているメニューは、どれもさっぱりしていそうだ。

ハマグリとアサリの魚介たっぷり鍋、
巨大な海老が顔を出している、おこげ風のあんかけ麺。

「最初はシーフードミックスとサラダかな…1万キロカロリー以下でヘルシーだし…」

kg単位のメニューは、どれもこれも超高カロリーだ。だが、この世界の住民にとってその桁はどれも見慣れた数値。
数十キロの肉のステーキもペロリと平らげる竜たちにとって、まさに日常茶飯事と言えよう。

なんだか、お店に着いたらどんどん食欲が湧いてきちゃったな…

「んほぉおお、うめぇっ、あぐ、がつがつ!!!見ろよこの、大トロのコーナー、食い放題だってよがつがつあむっ」

リガウは手当たり次第の、刺身や寿司に手を伸ばしている。…手は伸ばしても届かないので、サポートメカ頼りだが。

ちゃんとよく噛んでるのかなぁ…でも、すっごくおいしそうに食べてる…

ぐきゅるるるぅ―――…

「わっ・・・・///」

は、恥ずかしい。そういえば、起きてからまだ何も食べてないんだった。
待ち時間も勿体ないし、料理が来る前からどんどん追加注文もしちゃおうっと。



『フローズン』ではビュッフェ形式の食べ放題コーナーと注文して料理を頼む形式を同時に行えるから楽だった。

メニューで気になるもの、そして実際目の前で見て、匂いを嗅いで食べたいと思ったもの



レナスはどちらも遠慮せずに食べ続けた。料金も格安なので、どれだけ食べたって平気だ。

「あむっ」

カニとカニみそ入りのパスタを食べてみる。美味しい…

1万3000キロカロリー摂取。

「はぐっ!」

Lサイズの海鮮お好み焼きは調子に乗って2枚食べちゃった。昆布の出汁とかが、凄い美味しくて…

追加で約2万キロカロリー摂取。×2

「もぐもぐもぐもぐ」

続いてお寿司。1貫で300gのご飯と100gの具が乗った代物。
じんわりとした奥深い甘みのカニ。
ぷりっぷりの甘海老に醤油をつけ、
また1貫、また1貫…

いくら食べても飽きが来ない。むしろ、まだまだ食べたりないぐらいだ。

「はむっ、あむん、もぐもぐ、げふっ、はふはふ、むしゃもしゃむぐもぐ・・・!!!!」

次第に、昨日のようにお腹付近がぐぐ、ぐぐぐ・・・と盛り上がり膨れていく。
視界は寿司にしか向いていないので、自分の体型には気付かない。

とっくにお腹は限界でパンパンだった。だが薬味代わりにアスターゼ草と山椒の粉末をかけたりして食べると、
再び食欲が内から溢れ、食べる事の幸せを感じられる。

おいしい、とっても・・・


「はぁ、はぁ、むしゃ、はぁ、むしゃ、うぷっ」

たまに、むせ返りそうなほど息苦しくなるけど、それは僅かな時間。

ピリ辛海鮮バーベキューは一人前で7万キロカロリーもある膨大な量だが、今の自分にとっては軽食ぐらいにすら感じられる。
どうして、こんなに食欲があるんだろう?


アスターゼ草の食欲増進以上のものが、今のレナスには沸いていた。
それは先日の読書時に見せた集中力と、過食が原因だった。

レナスは一度食事に没頭すると、今までの何倍も【食べる】行為に集中し周囲の情報を極力遮断するようになっていたのだ。

味覚は更に発達し、スープの隠し味すら鮮明に読み取れる。


あぁ、ご飯って、こんなに美味しかったんだ…

お寿司の合間に飲む抹茶入り玄米茶が、口の中をすっきりとさせてくれる。

「はぁ、あむ、むしゃ・・・がつがつがつ・・・げぇえっふ・・・・
ガツガツガツ…・・・」


また、たべれる


まだ、たべれる


【ぶぐっ、ぶよっ】

レナスの青と白の体が、肥大していく。

すでに、コープたちは4時間近く食べ続けていた。否、どの客も…だ。
店内に入りきれない客たちは、外で同様に食べている。


あぁ、このイクラぷちぷちで、頬っぺたから零れそうなぐらいの量で…食感も凄くいい。
どれだけ食べても飽きないなぁ。

「は ぁ  は ぁ   は、ぁ・・・うぶっ」

白く巨大な、というより広大な腹が広くなっていく。取り込んだ栄養を、炭水化物を、次々と贅肉へ変換していく。


店に来てから、なんと5時間が経過した。

「ぅううっう、ぅうううーーーーー!
お、おなか、パンク、しちゃう、うっ、ぅう、うっーーーー!!」

アスターゼ草の使用が控えめだったコープはそれでもこの時間になるまでほぼ休まず食べ続けていた。
おかげでぶよぶよの肉塊体型でありながら、胴体の前方部位にグイグイと引き延ばされており、視界は自分の盛り上がった腹部だけになっていた。

トルナはデザートは別腹…とまだ食べ続けていたが、流石に肥満生徒たちに比べると、控えめな総量だ。

今日一番食べていたのはリガウ





ではなく、彼は時点で一番はレナスだった。


「ぜぇーー・・・・はぁ、ぜぇーー・・・・はぁ」

「うぉ、おぉ〜〜いっ、レナス、そろそろ、帰ろう、ぜぇ」

「えっ、ぁ、・・・え・・・な、な゛に゛、もう゛、ぞんな、じがん、だっだ、の…?」



まぶたが半分ほどしまった状態のまま、ヒュウヒュウと声を枯らし、息を乱している。

「りがう、ぐん、だべずぎ、だよ、はぁ、はぁ、まだ、がらだ、おおきぐ、なっで・・・るよ・・・はぁ、はぁ」

「へへ、そうか? さっさとコープに追いつかねぇとな!でも今日はアスターゼ草何回か使ったから、結構太ったんだぜ、ほれほれ」

そういって体を揺さぶるとだぶんだぶん、ぶよぶよと余りに余った贅肉が四方に揺れる。
正面側しか見えないが、背中側の肉が見えている時点でその太り様は異常だと理解できる。


しかし、その一方で…レナスもまたリガウとの距離を縮めていた。
まだまだ差はあるとはいえ、今までの体型を考えると彼の肥満化速度は尋常ではなかった。

もし、彼が太りにくい古代種ではなくベクタ竜であったなら…
早い段階で肥満の肉塊教師にすら追いつくほどだったのかもしれない。





続く




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