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  4. 超密集地帯

超密集地帯

23、〜変化する日常風景(異変)〜

その世界の竜は、ことごとくが肥満状態に陥っており

それゆえに、誰も自分が肥満状態なのだと気づけない。

だが、問題はそれだけではなかった。


時が経つにつれ、その肥満竜は重度肥満竜になり、
そしていつしか【肉塊】へ変わっていった。


更なる問題が訪れた。【肉塊竜】として生活し続ける彼らは、本来なら生活が続けられず
自然と太れる量には限界があるはず…だった。


にも拘らず、その世界は肉塊という体型にすら対応した。
陣術と、アーティファクト、そして発達した機械文明、何より…

異常なまでの食糧生産率がそれを可能にしてしまった。







〜マージ家の日常〜



「んーーーー、うごけ、ないぃい」


コープは自分が肥満であるという自覚はあるものの、それがどの段階かはわかっていなかった。
自分より太っているオトナは沢山いるし、実際たまにニュースで見かける大富豪ナイルの体型は自分の何倍も肉の海が広がっていた。


すでにコープは自宅からの通信教育に完全に切り替えており、というか彼に限らず大半の学校の生徒は『登下校』しなくなっている。
移動が大変なのもあるし、超がつくほどの肉塊異常個体の教師や生徒が収まる空間を確保できないのだ。
教室移動も無理だし、校門は何度も密集地帯となり詰まって、授業どころではなかった。

だから、なるべくしてなった、ともいえた。

そのためマージベーカリーでは教師であるフラー、そして生徒であるコープが
同じ家にいながらそれぞれの自室で空中にあるウィンドウの画面越しに授業を受けるという変わった光景が見られる。



コープの体重はすでに980tを超えており、本来あるべき肥満子竜の、実に1000倍という肉量を携えている。






コープに限らず、フラーの方も大概だった。四六時中、陣術で自動的に口の中に食べ物が入り込むせいで、
抗議は、なかなか順調に進まない。
一口食べては次の言葉、一口食べては次の話題、という具合だ。
授業を受ける生徒も同様で、もごもごと口を動かし超高カロリーなベクタ料理や、高脂肪なビフテキを平日の平時にも拘らず、ムシャムシャと音を立てて平らげつづけている。


そのフラーの方は太りに太り、1380t。tで表すとたった4桁(?)だがkg換算にすると1380000kgである。どう考えても個人が蓄えていい贅肉量ではない。
あちこちがたわみ、肉同士がひしめき、盛り上がり、腕も脚も機能を果たしていない。
首や肩は面影がほとんど残っておらず、正面や側面からは尻尾の存在にすら気づく事が出来ない。

衣服は当然ながら着用する必要がなく、出来るわけも無かった。

















〜世界一の竜〜


彼らがここまで肥大化(と呼べるかわからないレベルの体重・体脂肪の増加)したのには

古代の英知の結晶・アーティファクトの存在が大きい。
それが現代の食糧供給に特化した科学・文明が様々な【肥満】【食欲】に対して様々なサポートメカを開発、生産させ生活を変化させ続けた。

その功績者……というか、主原因がナイル=フィガロという男の存在だ。



空飛ぶ商業都市の異名を持つ巨大飛空艇ゴディヴァのオーナーであり、そして誰もが認める大食漢だ。

かつては満足な食事にありつけず、苦労していた経験からの反動だろう。
彼の生まれ故郷であるスカラヴ諸島は豊かな大地とは縁遠い砂漠地帯が広がっていた。

今では彼が事業で植林を進め、オアシスも広がっているがかつては酷い有様だった。

寝ている時、ナイルはたまに夢でその時のひもじさを、飢えを思い出す。

その度に、彼は複数の陣術器を利用し、ありったけの食糧を自分の元へ運ばせていた。






「んっぐ、あぐ、むしゃ、もしゃ、あぐっ、ふぐぅ、むしゃむしゃ、ふうう、ぐぅふうぅ」


彼はもう自分で咀嚼(そしゃく)することも今では難しくなっており、生体補助プログラムをフルに活用させている。
自分の筋肉だけでは到底動かす事の叶わぬほどに肉づいた頬や顎を、補助機械ではなく周囲の空間そのものに作用し自動で動かしてもらう。


満足そうな笑みを浮かべるが、その顔には肉が付きすぎて常に微笑んでるように見えなくもない。


彼の食事の摂取量は異常を期していた。
最近、一般にも出回り始めている【圧縮食材料理】を食べ続けているおかげで、短時間で【肉塊竜20人前】なんて量もあっという間に食いきってしまう。
食べきった後は、腹の中でぐんぐん戻りぶくぶくぶよぶよと体は盛り上がる。が、アスターゼ草の消化吸収成分の抽出特濃液をドリンク代わりにがぶ飲みしてるおかげで
胃袋はすぐさま隙間が空き、お腹がパンクしてもおかしくない量を平らげつづけても、あれよあれよと太り続けるだけだ。

今こうしてる間にもリアルタイムで彼の肉塊体は巨大に広がり続けていた。


そして……もちろん彼ばかりが原因ではないが、飛空艇ゴディヴァは反重力を利用していながらも飛空艇としての機能を果たせなくなっていた。
地面から離れると、あちこちの床が突き抜けるのだ。

おかげで今はベクタ大陸の広い大地に拠点として居座り続け、そこを中心に世界中から珍味や、特産品を集め続けている。


「おぉぐぶぅ、むちゃ、んくぅ、あぁあ、む………フゥ……、フゥ………、フゥ………」


じっとりとした汗が浮かんでは、自動的に周囲に漂うサポートメカ《改(あらため)》により一粒残さず食べカスも、汗も取り除かれる。

食べ過ぎのカロリー超過で体が熱を帯びてるようにも感じる。ぶくぶく、ぶくぶく、その体は縦にも横にも広がり続ける。



今ではフィードロット市の『家屋着(かおくぎ)』達よりも酷い有様だった。


朝から晩まで食べ物の事で頭がいっぱいで、呼吸をするよりも食べる時間の方が多いかもしれない。

仕事はほとんど部下や側近に任せており、たまにメールをチェックしてOKサインを出すのみ。



一切その場から動かず、ナイル専用「部屋」に居続ける。そこにいるだけで、完璧な食事が提供され続ける。
三ツ星シェフ達の、舌がとろけそうなほどのご馳走が、次々と、休む間もなく、飽きる暇も与えず、刺激を与えてくれる。


何て、旨い料理達なんだ。と、彼は惚けた表情のまま、成すがまま食事を続ける。やめるきはないし、止めさせる気も無い。
誰にも何も文句は言わせず、彼はひたすら肥え続けていた。

その重量はとっくに世界で最も太った竜となっており……今なお、肥大化は続いている。



彼のいる空間は部屋どころか大型劇場のドームより広い。

何度も改装を繰り返しているが、3日前に改装したこの「空間」もあちこちの換気窓から肉が溢れ漏れ出ている。

すでに外側では自立型の機械たちによる工事が施工されていた。




24時間体制の超過食。さらに圧縮食材の仕様によって、現実には一日で72時間以上食べ続けている状態にも等しく、
それは『本来の体型の竜』が可能な一日3食、せいぜい2時間程度の時間を遥かに超える。

もはや肉塊という呼び方すら生ぬるい、世界一の巨大な竜(竜としての面影はどこにも見受けられないが)


そんなナイル=フィガロであったが……

彼には最近悩みが一つだけあった。


「もしゃ……むしゃ、ガツガツ………(ああ、なんだか、まだ、食べ、足りない、なぁ)」


頭の中では聞こえるはずが無い、空腹の音がたまに鳴り響く。

もっと、満足できる環境に、しなくては。


彼はアーティファクトの捜索を続けさせた。巨大商業都市の発展のためではなく、自身の、底なしの食欲を満たす為…





……






〜パン屋の一日〜






授業をしている中、コープの父と母はいつものようにマージベーカリーの運営をしていた。

とはいえ、パン粉をこねたり、竃で焼いたり…なんて作業はしない。
手元のコントロールパネルを器用に爪で操作し、器具を遠隔操作しているだけだ。とはいえ、その細かい指先の動きで丁寧な仕事をしている。

決して全部の作業を陣術でマクロ化させず、素材の混ざり具合、具材の親和性をその目で見て、チェックしながら作業をしていく。

腹がつかえて物がつかめないから…以前に作業場にすでに誰も入れないので、モニターで作業工程を見るしかない。
それでも長年仕事していたマージベーカリーの主人、ダグラスは失敗せずにいろんなパンを焼き上げていく。

もちもちとした生地にたっぷりとしたチーズをのせ、ベーコンやサラミをトッピング。
お次はふんわりと柔らかな記事に3種のチョコレートを混ぜた特別ソースを溢れんばかりに注入し、その上にこれまたたっぷりの砂糖、ハチミツをかけさせる。

1個で2万キロカロリーする特大菓子パンを次々と作り上げては、店に並べていく。

店内にとても入りきらない超肉塊系のお客さん達には、外にある食券式の販売機でどれを選ぶか決めて貰う。



今日もお店は大盛況だ。

「あなた、疲れた、でしょ? 休憩、しましょうか」

「むふぅ、ふぅ、そ、そうだなぁ」

カマドの熱と分厚い肉ですっかり汗をかいたダグラスは、ハリアからサポートメカで間接的に(直接の手渡しは不可能)渡されたドリンクを貰う。

少しばかりの酸っぱさの後に、ほんのりとした甘みが口に広がる。

「新しい、味だね、これは、何のフルーツ、かな?」

「ええとね、はちみつレモンをベースにして、すり潰したメートルアグの果肉も、入れてあるの」

「むぐ、そ、そうだったか」

妙にこってりとした飲みごたえを感じたが、なるほど納得できた。

妻は何かと創作料理や菓子を休憩時間に用意してくれるのだが…カロリーの事は微塵も考えていない。

あとから調べたら予想してた一般的な市販の何倍もの高カロリーだと気づく事が多々あった。

それでも、これぐらいならまだ軽い方だ。
一緒に渡されたパンケーキの中にはたっぷりと色とりどりのフルーツが挟まっており、とてもおいしそうだ。

じゅるり、とまるで息子のように口の脇から涎が溢れそうになる。どうも最近は食欲が増えて気がする。

ダグラスも、当然ハリアもとっくに重度の肉塊竜になっており、太れば太る程その体を維持しようと食欲が内から湧き起こる。

…で、結局必要以上に食べてしまうんだよな


とほほ、とダグラスは落ち込みながら息子並の900tに到達したことを確認し落ち込むのだった…。








〜白桃の海〜



「お姉ちゃん、ちょっとそこ通してよぉ」

「えー? これ以上動けないわよ」

「もー、また太ったんじゃないの? 
あんまり重すぎると、パーツ追加して浮力上げないとまた船沈んで養殖場に出れなくなるんだからねー」


「はいはい、わかってるって」


他愛もない、内容は異常だが普段通りの姉妹の会話。
トルナとカーウェンは、広いはずなのに狭い室内で苦戦していた。

ちょっと横を通り抜けるだけでも一苦労だ。

陣術とサポートメカの助けが中れば、そもそも身動きもとれない重度肉塊なのだから仕方ないが。


「そういえばナイルさん、新しい商売始めたみたいだよね。
場所を取らずに満腹感が十分な食品なんだって」

「あー知ってる知ってる…
っていうか、あんたが昨日食べてたフルーツケーキだって、確かその新食材が使われてたんじゃなかったっけ?」

「えっ、嘘っ…!
小さいからって、20個余分に食べちゃったのに…」

どおりで、妙に腹もちが良いと思った…

「ふふん、あんただって超大型水上バイクに長い事乗れてないよね?」

「ううっ、それは、そうだけど・・・」


そう言われてから自分の体を見ると、酷い有様だなぁとは思う。
自分の視界に映る一面の肉が、姉のものなのか自分のものなのか区別できなかった。

けど、周りのみんなは《もっと太ってる》から、酷いと思いつつダイエットしようという気は起きない。

乗り物にだって乗れなくたって、文明の利器と陣術が大体の事はなんとかしてくれる。

……おかげで太る一方だった。


でも、彼女たちも他の竜たちも、成長期に背が伸びるぐらい自然に、巨大化する肉体に対して強い意識は持っていないのだ。


「それより、お姉ちゃんももう少し頑張って避けてよぉ、もー」

ぶよっぶよっと、肉が波打つだけでビクともしない。いくら術で摩擦や重量を軽減していても、ふたりの重肉塊が交差するには、その部屋は狭く物理的に不可能だった。

それでも無理やり外出しようとトルナはサポートメカの出力をアップさせ、その超重量をぐいぐいと進めていく。

「ン…っしょ、んくっ、ふぅ、はぁ、もうすこ、し」

「ちょっとトルナ、重い、ってばぁ」

「お、重くないもんっ、私まだ今朝から6食しか…って、あっ」


バキバキと音を立てて外壁が崩れ落ちていく。これぐらいなら、日常茶飯事だ。
だが、トルナは無理に負荷をかけたせいで重機に踏まれても壊れないサポートメカを自身の肉で押しつぶし破壊してしまった。

あっ、と思った時にはもう遅い。
彼女が自分用にカスタマイズしていた様々な陣術の効果が消え失せ、急激に『肉塊』が全身に圧し掛かる。

「ぁ゛…ぐ…ぅ…っ、ハヒュゥ、うご、げ、な゛……ぃ゛」

自分で自分を押しつぶすような感覚に慌てながら、トルナは落ち着いてかろうじて動く右手を動かすと、緊急用コントロールパネルを展開する。

これは、声もまともに出せない、操作もろくに出来ない重肉塊たちの救済プログラムで、即座に周囲に存在するサポートメカがリンクを張り巡らせ、
様々な簡易補助をしてくれる、というものだった。


「ぷふぅっ、ふぅ、ふぅーー、あ゛あ゛、びっぐり゛、じだ」

「あちゃートルナってば壊しちゃったの?
発声補助も個人用じゃないから、まともに喋れてすらないじゃん…」

「ぅ゛う゛……新 じ ぃ゛機 械 がわなく、っぢゃ」

掠れた音を漏らしながら、トルナはジタバタともがく事すら出来ない。

715tという重量は女の子ひとりが背負っていい贅肉量では決してない。(無論、成竜男性ですら本来は論外な太り具合だが)


みし……みし…

「フゥッフゥウッ……? な゛ん゛のぉ、お゛、と゛……?」

床がどんどん沈んでいく。
ベクタ大陸と同様の重量向きリフォームをしたばかりの部屋がどんどん歪んでくる。

「ト、トルナ待てって、ちょっと落ち着け!体重をこっちに偏らせるなよ?
そうじゃないと……」

と言うよりも早く、彼女たちのリビング(?)は床が抜け落ちた衝撃で崩壊し、肉壁(四方が彼女たちの贅肉)が、ぶわぁっと広がり外に出ていく。



「う゛ぐ、ぅ゛ぅ゛う゛、うごげ、な゛、い゛」

「こっちも身動き取れない…」


トルナの数百トン分の肉が圧し掛かり、さすがのカーウェンもサポートメカが健在でもどうしようもなかった。


そんな状態になりながらも、彼女たちの頭にある考えは一つだけ。
この後何食べよう…である。



その姉妹が救出されたのは、2時間後の事であった。











〜新相撲〜




肉塊度が進行するに従い、様々なスポーツは形式が変化していった。

相撲は太っている方が似合うし、張り合いがあるとはいえいささか度が過ぎている。


相撲部員のリガウと、相撲部部長のシュメルツもまたその体型によって部の存続の危機となっていた。



ダンターグ「うーん、どこの学校とも練習試合が組めないわね…」

直径20cmもある『ミニドーナッツ』をパクつきながら相撲部の顧問が溜め息を吐いた。

アズライト竜学の生徒の著しい肥満化の影響で、他の地方との体格差があまりにも酷く

超大型土俵でも肉がはみ出る始末だった。

互いの重量を用いて押し合い、計測器の判定でその場から『微動』させた方が勝利となるルールになっている。



だが、この部の中でも特に体の大きい…というか肥満が進行しすぎなリガウ、シュメルツの両名は
調子に乗って太りすぎ、対戦できる同格のサイズがほぼいなくなってしまったのだ。

ボクシングではウェイト差での制限、というのはあるが……


肥満体格差上等な相撲ですら対戦不可能になる、というといかに両者が子供らしからぬ超重量肉塊かがわかる。



通信での会話を続け、シュメルツも答える。

シュメルツ「また駄目だったかー運動不足で、このままじゃ俺太っちまうよ」


どの口が言うのか、モグモグと圧縮具材入りハンバーガー(約2万kcal)をペロリと平らげる。


リガウ「先輩、前よりも顔に肉付いてません?」

「んーー、そうかぁ?」

「そういえばシュメルツって今、何トンぐらいあるの?」


「あー量ってないんだよなぁこないだ部屋の計測装置ぶっ壊しちまったし」

「先輩、家具もほとんど残ってませんしね」




彼らの体は、基本的に床は足の踏み場もないほど自分たちの肉で溢れかえっている。

よって、壁際。しかも高所に物を置くしかないのだが、
シュメルツは巨大な部屋でも悠々と埋め尽くす巨体となっているため、
自室の外に様々な道具や食料品が備蓄してあり、それをサポートメカに持ってきてもらう、という形で生活している。

もしあらゆる術と機械が停止した場合、自室に居ながら救難信号を出すほどの太りっぷりではあった。


現時点でのシュメルツの体重は250万kg(2500t)もあり、あのフラーの更に倍の体格だった。


個竜でありながら大型の重機よりも重い肉量を蓄えているため、彼らの体型に部屋の増築は追いついてないのが現状だ。


そんな極度肥満の彼らが、相撲を出来る相手など同年代でいるはずがない。


「……んー、でも部長がどの試合にも出れないんじゃ、部として存続が危ぶまれるわよね……
そうだわ」

「なんか閃いたのか、先生?」

「ええ、地元……ベクタ大陸の一部で行われてた形式なんだけどね、
完全に動けない竜たちでもスポーツが出来る、仮想空間での試合があるのよ。」

「へぇー、ゲームみたいなもんですか?」

「ただのバーチャルと違って、全身の筋肉も擬似連動させて動くから、結構運動になるのよ。
ただ、実際に消費するエネルギーは1/10程度の運動量だから、ダイエットには向かないみたいね」

とはいえ、現在この世界においてまともにダイエットをしようと思う竜はほとんどいない。

むしろ、もっと太りたいとさえ思っているこの相撲部員たちにしてみたら
運動しながら消費カロリーを抑えれるなんて願ってもいないだろう。



数日後。



ダンターグは他校との練習試合を取り付け、

10人同士で試合をし、より多く戦績をあげたチームの方が勝利、という事になった。



特殊な術と機器の応用で、肉塊竜たちは仮想現実を共有する。

その世界は広々としており、シュメルツやリガウは久々に誰の肉かもわからない密集地帯から解放された気分だった。

とはいえ、ダンターグや他十数名の相撲部員だけで、ほぼ密肉地帯と化しており

床がどのようになってるかはよくわからなかった。



「ほへー、すげぇ、この体でも意外と動けるんだなぁ」


シュメルツは、久々に『自力での場所の移動』を体感していた。

とはいえその姿は歩行と呼ぶには程遠く、ゆらゆらと蠢く肉が重心をずらすことによって

自身の重量に任せて傾いた方向にずれていくといった感じだ。


「うおー相手も体でっけぇな〜」

リガウが、半分羨ましそうな目で、相手を見つめる。

「私が昔いた学校だもの、ちょっと太り過ぎな子が多いかもね」

「えっ、てことはベクタ大陸の学校かよ!」

「そりゃそうよ、この辺の学校じゃどこも貴方達との重量差がありすぎて試合できないんだもの」

「へへ、そんなに太れたのか俺…」

嬉しそうにほほ笑むリガウ。


どの辺がちょっと、なのか聞きたい程の肉量を備えた巨漢たちが視界の先にはそびえている。

同じく部屋から満足に出れない程の超重度肉塊なので、当然ながら彼らも凄い体型だった。


手足は埋もれてはいないが、稼働できる範囲はごく僅かだろうし
顔にも肉が付きすぎて、首をまわす事はおろか曲げる事すら無理なんじゃないか…と思えた。


「あ、よく考えたら、俺らもそうなってるってわけかー」


この仮想空間内だと、重量は感じるがサポートメカや陣術の負荷軽減以上に体が軽いためうっかりしていた。

自分だって、後ろどころか横も見えないし、足元どころか十数メートル先の床だって見えやしない。


それだけ腹が前に出ている、


というか


【溢れて】いるせいだ。


「おぉ〜、まってましたよぉ〜、それじゃあ今日はよろしくおねがいします〜〜」


ひときわ巨大なおとなの黄竜がぶんぶんと可能な限りで腕を振っている…ように見える。

どうやら相手側の先生みたいだ。

その手にはジャンクフードが握られ、喋ってる口からはぽろぽろと食べかすが飛び散っている。

仮想空間内(ヴァーチャル)での食事は、現実にも反映される。

何故ならログイン中の状態でもサポートメカが感知した情報から得た食べ物を自動的に与え続けてくれるからだ。



一部の体型を気にする肥満体の竜が、仮想空間内で食べたら大丈夫なんじゃ、と調子に乗って戻って来た時には家が倒壊していた

なんて話はよくある。


「向こうの一番大きい生徒…2000t級はありそうだな」

「だな、でもこっちの部長はもっと大きい」

アズライトの竜たちだって負けてはいない。

というかシュメルツに至っては、この場で誰よりも巨大であり、太り過ぎであり、子供とは思えない存在感である。




両学校の相撲部員たちは挨拶をし、そして順番に試合が始まった。

試合の観戦中の待ち時間だって無駄にはしない。


ダンターグは用意していた弁当を食べ始めたし、

何も無いと思っていた空間からコマンドパネルを呼び出すと次々と商品(串フランクやらメートルアグの葉の天ぷらやetc...)を注文し食べ続ける。



「あ、いいなー俺も俺も」

食い意地の張っている相撲部員たちは、こぞって注文し、本来の出前より早く出現する食べ物たちに歓喜した。


現実世界では複数店からの自動配給・精算が行われ、睡眠に近い状態のままでもサポートメカが彼らに『栄養』を与え続けていた。


試合の内容は・・・・正直、面白みに欠ける。

本人たちは盛り上がるのだろうが、巨大すぎる肉と肉のせめぎ合いは、技術や駆け引きが非常に少なく


純粋な力比べ…ならぬ体重比べになってしまう。

押し出すか、押し出されるか。ベクタ側の学校が4勝で1分けリーチ。こちらは3勝で残り一回も負けられない。


「よし、それじゃあ次は俺か!ううぷ!!」

意気揚々と前に出るリガウ。だが、その動きは明らかに鈍い。

やばいな、待ち時間に食いすぎたか…? 相手は…うわ、フラー先生ぐらいデブじゃん!

相手はおそらく背も高く、そして前後と横幅が更に広い150万kg(1500t相当)の超重度肉塊。


仮想空間内でもぜぃぜぃと息を乱れさせ、それでもリガウ同様に待ち時間いっぱいの間、食べ続けていたようだ。



「それじゃあふたりとも、見合って見合ってーーー」

ま、待ってくれ、もう少し胃袋が落ち着いてから

「ふぅ、ふぅ、せ、せんせ、待っ、うぐぉおっぷ、こ、こんな、状態で、ぶつかり、あった、ら」

衝撃や振動の一部は伝わってくるのだから最悪、リバースしてしまうかもしれない。


だがもう遅い。試合開始の合図が出され、両者は一気に前に出る!
激しい衝突…!!

は、当然なかなか起こらない。わずか十数メートルの移動だって時間がかかるのだ。
もし現実ならぶよぶよぐにょぐにょ肉が揺れるだけでビクともしない巨体が、それでもじっくりと動いていく。

「う、お、ぉお、っお、ぐぷっ」

ようやく、互いの肉壁が接着…
が、まだ肉同士が重なり合うだけで互いの重量は地面に向かったまま。

この後、どう相手側にその重量を傾け、押し続ける力に変えるかが力量だ。

余ってる贅肉は確かに自身の一部だが、手足と違って自由が利くわけじゃない。


分厚い…あまりにも分厚い肉を纏った状態で動かすためにはやはり【肉塊慣れ】している必要がある。

その点、彼ら相撲部員は元から超がつくほどのデブであり、立派な肉塊であった。


「ぬお、おお」「くっ、こ、のぉ!」

ぜぇはぁぶひゅぅと息が苦しくなってくる。互いの肉同士が重なり合い、ぶよぶよと揺れる感触が伝わってくる。

ウォーターベッドのような弾力性と、柔軟性。

竜の皮下脂肪たっぷりの贅肉は、確かに見た目は暑苦しいが意外とひんやりしており、試合の熱さと丁度中和してくれる。

「ぐ、ぅ、ぐ・・・」


「リガウーふんばれぇ」「まけんなぁっ、そこだ、右足っ、いや、尻尾を、こう!」

「んな、指示、出されても、わっかん、ねぇ、よっ」

だが僅かに、押されている。

くっそー、こんなことなら事前に食べ放題の出前であと20tぐらい太っておくんだったか…!


「まけ、る、かぁあっ」「な、にっ!」

可能な範囲でリガウが屈むと、相手の下にすべらせるように肉を入れていく。

それにより、わずかに相手の前方が宙に浮かび、リガウの胴体にずしりとのしかかる。

「すぅううーーーー・・・むぅ、んんんん!!!!」


そこで、一気にリガウは力を込め…ありったけの限界まで自分の腹を膨らませた。

もちろん風船のように丸く大きくは膨れない。十数段腹は十数段腹のままに、前方にぐぐぐぅっ、と更に【溢れ】ていく。

「はぁはぁ、はっ、しま、た、くそ、ふんばれ、ねぇっ」

「このまま、いっけ、ぇええ・・・!!!!!」

リガウは自身の肉を揺さぶるように上下にブヨッブヨッと体を動かし、その暴れる肉の反動で前に、ひたすら前に突き進む。

食いすぎでしっかり腹に食べ物が溜まっていたのも幸いし、相手の巨体がゆっくりと、後退していく。


力み過ぎたのか必要以上に前かがみになっていく。それでもかまわない。

「うぉおお、げぷ、おおおおおおおっ、お…、ぐ、お、ぉっ!」


ドズゥウウウウウウウン!!!!!




巨大な質量が倒れ込む音。

本来、肉塊は体の構造上、否、肉の量による問題上、仰向けに倒れたり、うつ伏せに倒れこんだりという体勢は滅多に起こらない。


それでもリガウは、相手を打ち倒した。互いの肉が旨い具合にテコの原理のように働いたのか、はたまた彼の気迫に相手が押されたのか。


試合は、リガウの勝利に終わった。




==



「先輩、勝ってくれーーー!」「シュメルツ、おまえならやれるぞっ」

「おーう、任せてくれーげぇふっ」

「・・・なんか、シュメルツ先輩、妙に腹出てないか?いや、前からだけど」

「んー、待ってる間、『圧縮食材』のランチとかいろいろ食べてたみたいだから…
リガウの数倍はお腹に溜まってるんじゃないかしら」

「ま、マジかよ先生!」

そ、それって仮想空間内でもまともに動けなくなるパターンじゃ…

そんなリガウの不安をよそに、試合は始まった。

あっというまに…勝敗は決した。

「あれ? 俺ほとんど後退しなかったぞ」

「東側、シュメルツ選手の白星…!よって、この試合、アズライト竜学の勝利となった!!」


ワァッと歓声が上がるアズライト竜学相撲部。

試合は圧倒的だった。いざ、両者が並んでみると、相手の一番デカい奴よりもシュメルツは段違いにデブだったのだ。

いつも近くにいて、気付かなかった…。

おそらく、3000tは超えてしまっているのだろう。
よく考えたら最近、みんな部屋にこもりっぱなしなせいで、先輩の全身像は見れてないんだった。


その事を思うと、尊敬すると同時に羨ましくもなった。

「う―――…先輩ずるいよ、俺にももっと肉わけてくれよー!!」

「やめろ、はら、腹を、ゆ、揺らすなっ、はき、そっ、うぷっ」


「モグモグモグ…も〜貴方達、食べ過ぎよ?ムシャムシャ、折角少しは運動になったのに、全く…」


「そう言うダンターグ先生って、動いてないのに俺らぐらい食い続けてたんじゃ…」

「…そう、だっけ? ま、まぁ勝ったから良かったわ、うん!流石は私の生徒たち!」

「あ、話題を逸らした」

「それじゃ、アプリを終了しましょうか。今度また試合をセッティングしておくから、ただ食べて太るだけじゃなくてトレーニングもしっかりね」


「「は〜〜い」」



こうして、久々の『部活動』は終了した。ゲーム感覚の仮想空間内での出来事。

それでも、やっぱり実際に体を動かして運動するのは楽しいしやりがいがあった。


「ん・・・あー、もどっで、ぎだのかぁ」

妙に膨腹感がある。

良く見えないが、今朝よりも2、3mほど前にお腹側が出ている、ような・・・

「って事は……あ」


すでにぎゅうぎゅうで限界だった予想通り自室の壁は崩壊していた。まぁ、いつもの事ではあるんだが…

仮想空間内に居た事で、部屋がギチギチになるまで太っても気付かないという問題があるようだ。


もしかしたらシュメルツ先輩と、ダンターグ先生も……


そんな彼の予想は当たっていた。

その日、部屋で休んでいたワグナスはいきなりあふれ出た妻の肉に呑み込まれ外に押し出されたのだという。押し出し一本、流石は相撲部の顧問である…(?)






===
















〜黒竜夫妻の別居生活〜



ワグナス=アバロンとダンターグ=アバロンは共にベクタ出身のベクタ黒竜であり、

共にアズライト竜学に勤める教員だ。


かたや体育の教師、かたや相撲部の顧問。と、どちらも運動にかかわる仕事をしている。


のはずだが、そんな両者の姿は悲しいかな運動やスポーツとは非常に縁遠い体型だった。




ナイル=フィガロが起こした新革命。生活保護プログラムの陣術を施したサポートメカ、短時間で膨大なカロリーを摂取可能に出来る圧縮食材の料理。

それらの影響を彼らもモロに受け、例に漏れず肥大化し続けていたのだから…






===





最近、超重度肉塊竜たちの間で流行っている仮想現実空間へのフルダイブ授業。


そのおかげで、ワグナスは座学以外の授業を教えれることに素直に感動していた。


例えば50m”歩”競争をしたとする。

すると現実世界では、筋肉の神経へ微弱な電気信号を送り、その場でかすかに手足を動かすから運動にもなっている。


「よし、それじゃあ今日の体育の時間はここまでにしよう、みんなお疲れ様」

「うへ〜疲れた〜」「でも久々に体動かすとやっぱりスカっとするよなー」

その日は、複数のグループにわかれて球技をしていたが仮想空間という事でボールが自動的に対象者に飛んでいく、いわば接待じみた内容だ。

そうでもなければ、走る、跳ぶ、蹴る、打つ、といった全動作が不可能な生徒・教師の間でスポーツは成り立たない。…バーチャルの世界ですら、だ。


「さてと、トレーニングでもするかな」

生徒たちが体育実習ルームからログアウトし、その日の授業が終了する。

バーチャル空間に残ったワグナスは、久々にまともに動ける環境を悦び、様々な運動用具を表示させていく。

両手に【出現】させた重いダンベルを持ち上げながら、間食モードに切り替える。

現実の世界では、今近場のファストフード店から自動的に軽食が運ばれ続け、食事をしてくれるのだ。




おかげで、ワグナスの肉体と精神は乖離し始めていた。

「ゴブッゴブッ……いやぁ、仕事と運動のあとの一杯は、やはり格別だなぁ
ぐっぷ……ムシャムシャ…ひっく」

たくさん運動したおかげで食欲は倍増。だが、現実にはわずかなエネルギーしか消費していない。

その日も、ほろ酔い気分のまま晩酌を続けた。何十種類ものつまみが宙で待機状態で並び、一皿1万kcalの品は珍しくない。

「あしたも、たのしみだなぁ、ヒック…むにゃ……」

ぶよぶよとした体が、今朝と比較しても変化が起きる程に膨れていく。
それもそうだろう、授業をしたとはいえその日、起床してから夜が更けるまで自室で食い続けていたのだ。


本来であればとても消化しきれない量だが、アスターゼドリンクを定期的に飲みつづけているおかげで、何度でも空腹と満腹感を味わえていた。


「はぐっ、むぐ、あぐぅっ」

骨なしフライドチキンを豪快に貪っていく。
浮遊式のサポートメカが絶えず空腹で貪欲な竜へ酒とつまみのジャンクフード与え続ける。

食べても食べても満足感は続いていく。食べる事の幸せを噛みしめながら、自分の太り具合に目を背け、追加の注文を停止しない。


改築と増築を繰り返し続けた広大な部屋いっぱいに膨れ上がったぶよぶよとした肉体。

超巨大な太鼓腹が自慢だった肉体も、今や限界まで食って腹がパンパンになった時以外は壁一面、床一面ワグナスの贅肉で溢れかえっている。


固太り、中年太りではとても言い表せられない重度の肉塊竜。これで体育教師なのだから、世も末である。


そんな生活が続くうちに、ワグナスの体は1000tを軽々と突破し、更に増量していく。

自分の中では、おそらくかつてのように運動しているつもりなのだろう。

元筋肉質?だった体とはいえ、これだけの脂肪がつけば引き締まっている部分は探す方が難しく
大きく突き出した腹側もだらしない体としか言えない、情けない体型だった。




これだけ太った亭主が家にいてはさぞや嫁は苦労するだろう…と思いきやそんな事は無かった。


嫁、つまりダンターグの方が、もっともっともっと、病的を通り越した肥満だったのだから…









〜家庭内別居?〜




ベクタ竜であるアバロン夫妻は、共に太りやすい体質であった。

気休め程度の運動をしているワグナスと違い、ダンターグの方は運動部(相撲部)の顧問とはいえ動くわけではない。

しかも女性特有の『デザートは別腹』という法則が当てはまり、旦那とは比較にならない摂取カロリーなのだ。


そんな彼女には近頃ある悩みがあった。それは……

「あら、もう、たのんでた分、たべちゃったのね」

ウィンドウ画面では在庫が切れた事を知らすポインタが点滅している。


かなりの量の出前を頼んでいたし、家にある食材や買い置きのお菓子も余る程あると思ってたのに。

旦那はこっそりつまみ食いするような性格じゃないし…やっぱり自分で食べたのかしら。




それにしては、まだまだ食べたりない。
百万キロカロリーは余裕で摂取しているし、睡眠中でも自動設定のおかげで絶えず食べ続けてたんだけどな。

やっぱりサイズが小さいのかしら?

圧縮食材のおかげで時間内の摂取可能量は増えたが、少しペースが控えめだったかもしれない。

明日からはもう少し量を増やしましょう。




数日後


「せ、狭い……」

ワグナスの視界には自分の肉以上に妻の肉が多く広がっているように思えた。というか、実際そうなのだろう。

このまま太り続ければ、また家から物理的に追い出されるのではないか。そんな不安は数時間後、的中した。

部屋を隔てていた壁が倒壊し、それによって彼女の抑えつけられていた肉が一気に溢れ出てワグナスの超重量すらを押し出したのだ。

またか…という思いと共に、ワグナスは最愛の妻の肉海に飲まれていった。


翌日


「…部屋、というか家ごと別にしよう」

そんな提案が出されるのは仕方ない事だろう。丸一日外に放っぽり出された彼はサポートメカからの供給量が減り、空腹で泣きたい程だったようだ。


「そ、そうよね?ごめんなさい……」


昔も太り過ぎで迷惑をかけたけど、外出の必要もない今でも太り過ぎで迷惑をかけるとは思っていなかった。

即日、新たな家が建設されふたりは隣同士の別の家に住むことになった。ある意味家庭”外”別居…というかただの別居である。


それに懲りて、ダンターグはようやくダイエットを………





始めなかった。それどころか

「あら、なんだか部屋が広くてのびのび出来るわね…
なんだか、胸のつかえがとれたみたい」

「おぉ、腹が圧迫されないのは久々だ……」

アバロン夫妻はそれぞれ今までになかった開放感を覚えた。
おかげでその体型『本来』の食欲が甦り、もっと食べたい、もっと飲みたい、もっと…もっと…

一日の大半どころか大部分は食事に費やされる。授業中も、睡眠中も休む間も事無くケーキ、ビスケットといった甘味類。
パエリアやピラフといった炒め物。

「モグ…モグ…あら、マージベーカリー新作のオレンジ・ブリオッシュ、美味しいわ…」

笑顔で、5個、10個、20個と巨大なパンをおかわりしていく。

その体は時間の経過と共にぶくぶくと太り続ける。

あちこちの床が抜け落ち、下半身のだるんとした肉がその隙間を埋めていくおかげでその事にも気づかない。


ワグナスが2000tを超える頃、その妻は3000tに到達していた。

1軒が1部屋扱い。その家の上空には超巨大な浮遊式食糧倉庫が備えられている。

何千キロもの食材が備えられており、まるで戦争避難時のシェルターをも思わせる飲食物の量。

それが、わずか数日で空になり…また補給される。


その世界の竜の肥大化は留まるところを知らない。一切痩せず、肥え続け、その肉体に納まりきらない脂肪を増大させる。








〜豊満教師の飽満ライフ〜



最近肩こりが酷くって。

あぁ、わかるわかる、やっぱりそうよね。私もよく湿布貼って…


そんな会話をロックブーケとしなくなって久しい。

「前より、大きくなってると思うんだけどな」

美人教諭として名高いアネイルは、ふとその時の事を思い出しながらトマトとチーズを載せたクラッカーをサポートメカに口に入れて貰う。

当たり前だが、今の彼女の体型では肩は凝らない。胸は常に腹テーブルのような肉塊ボディに支えられ
しかも滅多に外出しないのだから。


食事量が過剰になり、たんぱく質の摂取が増えた。おかげで彼女の豊満な胸部は過去に比べメートル単位で大きくなっている。
…その何倍も、何十倍も横幅と前後幅の体の面積は増えてしまったが。



「……そういえば、最近ショッピングしてないなぁ」

それどころか、以前の外出は何日前だったろうか。毎日がおぼろげで、同じことの繰り返しな気がする。

昨日は…ご飯を食べて、新商品のデザートセットが美味しくて…ええと

「モグモグ…もぐもぐ…」

思い出しながらも、口は動き続ける。サポートメカは彼女の本質的な食欲を読み取りスイーツを与え続けた。

いちごと生クリームが溢れそうなほど巨大なパフェを特大スプーンでぐいぐい口の中へ。

10時のおやつ、3時のおやつ。…今は何時だったっけ。さっき授業をして、えぇと…


「ぱく、パク…もぐ・・・もご・・・」

朝食、昼食、夕食と言う概念は薄れゆく。
思い出そうとするも、それは新たに与えられるミルクレープの甘い香りによってかき消される。

「うん、この間に挟まってるチョコレートの層、パリパリしてて、美味しいなぁ…」

満腹で眠気が増してきた。眠い時は眠らなくっちゃ…


「ふわぁ〜……ぁ、ちょっと、お昼寝しようっと、あとは、おねがい、ね」

『了解しました、マスター・アネイル』

数台のサポートメカが了承し、彼女を快適な睡眠へ誘っていく。

アロマポットが起動し森林の優しい香りが部屋を包み、α波のリラックスBGMが部屋に響き渡る。

明日の授業は、何だっけ…うーん、明日の事は明日考えればいい、よね。

睡眠の欲求に逆らわず、彼女は深い眠りに落ちていく。取り込んだ栄養を逃がさず、しっかり吸収するように…








つづく




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