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超密集地帯

25、〜肉極竜

その星には、最大現と呼べるまで太った竜達。極肉竜が存在していた。


それも、多数……



始まりの原因は何だったのだろう。


気付いた時から、誰もが肥満体ではあったし、多くの竜が肉塊と呼べるほどの肉を携えていた。

それでも、ここまで悪化し続けると予想した者は誰一人いなかっただろう。






調査を開始し始めた頃の私だって、そうだ。


とある子竜を中心とした一部の住民を、ひとりずつ見ていく事にしよう。





【ファクト=インの場合】


推定体重4300t超え…1t未満の数値については、詳しく調べる必要はないだろう。

一般的な子竜である彼は、どちらかというと活発で行動的。

しかしハンバーガーといったジャンクフードが好物という点において、肥満傾向になりやすい食生活ではあった。

それにくわえ、メカニックの知識もある為自分でサポートメカを改良し、生活を更に”楽”

…言い換えれば怠惰なリズムに変えてしまった。

平均より低かった体重はあっという間に増えていき、大人に匹敵する超重量になってしまった…。


だが彼は『まだ極肉竜』にランク付けするほどでもないようだ。

一時期、体重の増加は著しかったが現状は緩やかな増大(それでも日々増加している)で済んでいるからだ。


もっとも、年齢を考えたら太り過ぎなのは否めない。…監察官としての私の間隔もどうやら麻痺しているのかもしれない。


それほどに、この惑星の……住民たちは、過剰に肉を溜めこんでしまっているのだから。






【リガウの夢】



「ぐ、ぐるじいぜ……うぷっ」

今日も今日とて食べ過ぎたリガウ。


胃袋は限界のはずだが腹はちっとも膨れていない。というのも肉の層があまりにも分厚い為、そうそうシルエットに変化が起きないのだ。


だが数十トンの食べ物が入った体は実に重く、(元からだが)一切の身動きが取れない。


今日こそは、と音声通話を開始する。通話先の相手は同級生でありライバルであるコープだ。


「おうコープ、ふぅ、はぁ、調子は、どうよ」

「あ〜リガウ、どうしたの〜〜? ボクはいつもどおりって感じかなぁあ」

間延びした返答がくる。

「それで、お前最近体重はどんなもんなんだよ?」

「んーー量ってないからわからないなぁ〜」

「体重測定アプリあんだろ? それでちゃちゃっと量ってくれよ」

「わかったよ〜……ちょっと待ってねぇ〜〜……えっとぉ、わぁ、5900tだってぇ。
大分増えちゃったなぁ〜」

「ま、マジか……! よ、よっしゃぁああついに、コープを抜いたぜぇええっ」


リガウの現体重は5960t。無理やり食べ物を詰め込んで重いとはいえ、太ってるには違いない。

あと数日もすれば、6000t以上の体重を維持し続けることが出来るかもしれない。


子供でここまで肥える竜は珍しい。 ライバルであるコープの体重を抜く……それは達成できたが油断はできない。

あいつ、気付くとすげーでぶったりするからな……

それに次の目標もある。憧れの、シュメルツ先輩に並ぶ事だ。 だが先は非常に遠い。


「先輩、まだ体重増えてるみてぇだしな……」


もっともっと体を大きくしねぇと。


リガウが体を大きくしたいのには、今より更に幼い頃の理由があった。 だが、その物語が語られることは特になかった。







【アネイルの悩み】


七教師のひとりであるアネイル=カンバーランドは、ある悩みを抱えていた。


「もぐもぐ もぐもぐもぐ  もぐもぐ」

ひたすら機械が与えてくれる、とびきりおいしいご馳走達を絶えず食べ続ける。

それはいい、いいのだが、なんだか食べたりない。




うーん、デザートをもっと増やすべきかしら。 それとも、授業中の追加をもう少し増やすべき?

寝る前の夜食も、ちょっと多くしようかな。圧縮食材やデーツといった存在のおかげで、1日に摂取可能な量はもうほとんど制限がない。

食べる時間が足りないなら、”圧縮率”を高めた食材の料理に変更すればいいだけなのだ。



ベクタへの移住で、味の良い美味しい料理はかなり増えた。流石は食の大陸とも呼べる場所だ。


でもそのおかげで随分と体と共に舌も肥えてきた気がする。



素材を生かした料理と言うのは本当に美味しい。

長時間出汁をとって煮込んだスープも、手間暇かけて(機械の作業だが)練り込まれた麺のパスタ。


巨大なチョコレートムースやストロベリーパイナップルグレープてんこ盛りパフェ(生クリームで20kgも使用している)といったデザートも、
採れたてのフルーツをふんだんに使ったみずみずしさがある。


しかし食後のデザートと違い、彼女の食事は終わらない。





アネイルはふと思い出す。 自分の体は、これほど大きかっただろうか。

四方に盛り上がる肉の壁は紛れもなく自分ものだ。



成長期はとっくの昔に終わっており、余分な肉の増加だけ。


どうしてここまで太ってしまったのだろう。

漠然とした思いを抱えながらも、真剣にどうこうしたいという気持ちは浮かばなかった。



今、自分はお腹が空いてるのか、満腹なのか、息苦しいのか、心地いいのか、それすらも判別できない。




極肉竜にまで陥った竜達に多く見られる精神病の一種ともいえる。



「はぁ…、はぁ……、はぁ……」


余計な事を考えると、疲れてしまう。甘いもの食べて、気分を紛らわせなくっちゃ……


数百キロにも及ぶ生クリームのプティングやモンブラン、ガトーショコラ達が口を開けばやってくる。


うん、おいしい……



ぶくぶく、ぶくぶくと肥え続ける。

夢心地の状態で授業をして、食べて、会話をして、また食べて、食べて、肥えて


全身が贅肉に覆われ押しつぶされそうなほどに肥大した彼女は現在6210t。


日々増量し、比例してサポートメカの台数も増えている。

食糧豊富で味に魅力のあるベクタ大陸という環境、そして様々な肥満者優遇の陣術と機械。


本来大食いでない彼女ですら、ここまで太ってしまう。

彼女のような超重度肉塊竜が増えれば環境は適応しようとする。周囲もますます太る。


バーチャル空間以外、現実で発散できるストレス解消法が食事しかないのも問題だった。


精神的には満足できても、肉体はサポートメカから受けるマッサージ以外の動作をほぼ行わず

運動しリフレッシュする……という機会が無い。



無自覚なストレスは更なる過食へ導く。 

リガウやシュメルツ、フラーと言った元から食べる事でストレス発散する竜以上にアネイルのような『一般的な竜』タイプほど事態は深刻化していた。


「もっど、おがわり、じないど……」


ヒュウヒュウと掠れた声で息を漏らしつつ、ぶよぶよと部屋を埋め尽くすピンクと乳白色の塊。

彼女の求めに呼応するように、サポートメカが与える。 十数リットルの白桃のフルーニュをどぷどぽとこぼれそうな勢いで呑み
1枚3kgもあるクッキーを圧縮したものをポイポイと口へ運び、練乳入りの甘い苺大福を30個平らげホワイト、ミルク、ブラックチョコレートが3色のマーブル状に絡み合ったものを100kg単位で繰り返し食べ日々の食事をしながら間食を繰り返す食べたりないと自動給与モードを解除せずそのままに食べてはまたぶくぶくぶよぶよと肥え続けそれでも心は飢えているとでもいうようにもっともっとと




「ハァ、ハァ、モグモグモグムグ、んぐっ…んぐうぅっ……!!」


ぶよっぶぐぅううっ! と、目に見える速さで彼女の肉体は肥え続ける。ミシミシと壁が軋み柔らかい箇所から倒壊していく。

でも構わない、この世界では、今の時代では、自分の家を自分の肉で破壊することは日常なのだから。


更に十数トン太り、また太り、一切体重の落ちる日も無く彼女の求める量だけが増えていくのだった。








【七竜教師】


クジンシーは、周囲への注意を怠らなかった。また自分自身にも厳しかった。

だから重度の肉塊竜が平均的な体型になっても[平均的]でいられた。 スマートであるとは言っていないが。


7教竜の中では、最も体重の軽い2700t前後であり、痩せている……? はずなのだが、当然ながら肉塊竜に変わりないので

その肉量は眼下を覆い尽くすほどだ。


しかし体型の平均値が異常になったこの世界で、彼は自分の太り具合を認識できなくなってしまっていた。



「ふぅむ、学校に誰も来れなくなって一時はどうなる事かと思ったが……成績は落ちていないようだし、安心だな」


今後の行事予定を確認しながら、ふと運動会や学園祭はどうしようかと思った……が、仮想空間でいいかという考えに落ち付いた。


「……いや、だが一度はしっかりと顔を合わせて会議をしておかねば……
まぁ今晩は晩酌でも楽しんでから寝るとするかな」


どうにも楽観的思考になっているなぁと思いながら、それすら別にどうでもいいかという気持ちになっている。

自分にも、周囲にも最も厳しかった教師がこれである。


他の面子はもちろん……
もっと堕落していた。


ロックブーケは好物が野菜料理だというのに、高脂肪高タンパク高炭水化物の食事を一緒に繰り返すようになっているし

豊満というには肉が付きすぎた彼女は現在5763tだ。


一方ほとんど同じスタイルだったはずのアネイルは様々なストレスや要因が重なり以前より更に増えて6311t。


甘いものに特に目が無いせいで、本当に、心底不要なカロリーが過剰に摂取する羽目になっている。

全員が肉の塊なおかげで昔のようなセクシーボディはどこへやらといった体型だが、(※とはいえこの世界では初期から肉塊竜)

それでも胸は大きく目につくし、肌も潤い(?)があってぷにぷに……否ブヨブヨである。





そんなアズライト竜学の教師たちだが、クジンシーの号令のもと久々に一カ所に集う事になった。

現在メガフロートは土台ごと改修中なのでベクタ大陸の首都でもあるセイズモバロ市が集合地点だ。


あそこは道路や施設の幅が尋常ではなく(肉塊竜が往来する為)現在の”極肉竜”になりつつある体でも大丈夫のはずという教頭の考えである。



しかし最初に立ちはだかるのは移動手段だ。

徒歩は距離がありすぎて論外、鉄道は一車両に入りきらないので利用不可能。

ベクタには肉塊竜専用車があるが、馬力がある代わりにとにかく速度が遅い。彼らを乗せて動くだけマシと言う事だろうか。



「うーん、約束の期日までにつくかしら」


ダンターグはモグモグとから揚げを頬張りつつ、更に体脂肪を増やしつつ専用車で運ばれていた。

巨大なキャタピラが何個もついた超重量対応型だ。道なき道も関係なく進むことが出来る。専用の食糧庫も搭載されており、何千tもの備蓄が備えられている。


「み、身動きが一切取れん……まずいぞ、消費カロリーが……」


そんな彼女と並走する車両には旦那のワグナスが乗っていた。
が、ギチギチに膨れた腹の影響かダンターグ以上にみっちりと内部に詰まり、方向転換さえままならない。

そのくせ律儀にサポートメカが空腹度を検知して大量の料理を与えて来るもんだから、ますます太ってしまう。



餌付けされ出荷されるかのごとくドンドン料理を与えられつつ、アバロン夫妻は数日後にようやく目的地に到着した。

ちなみにその間も仮想空間へオンライン状態で繋げた通信教育授業?はなんとか続いており、授業も(おそらく)滞りなく出来た。





セイズモバロ市の超巨大ドーム、通称セントラル・ドーム。

サッカーや野球の会場としても利用していたのだが、あまりにも竜達が太り過ぎて競技するのが困難になったため、
重度肉塊竜の集会所としてしか機能しなくなっている。


会場には、すでに他の教師たちが数名来ているようだった。
ぶよぶよとした肉が波打っており、どこからどこまでが誰の体なのかちょっと判別つかない。


「お、遅く、なりましたぁ、ひぃ、ひぃ」
「ま、まっで、わだじも、いぐがら、これ、だべおえでがら」

降りて匍匐移動すると、途端にサポートメカの負担が増え音声補助機能の割合が低くなり、声が肥満特有の状態になっていく。


ぐいぐいと腹を捻じ込み押し込み、前へ進むワグナス。

一方マイペースなままダンターグは追加のデザートもきっちり平らげて、その後を追う。

しかしその移動速度の遅いこと遅いこと。


それでも動けていること自体が奇跡なのだ。文明の利器様様だが、ここまで肥えきったのもまた優れた環境のせいいうのも困りものだろう。



床がえぐられないのが不思議なほどの重量で、ふたりは奥へと向かう……が
入り口付近ですでに誰かの”肉”と接触し、うまく進めない。


「ひぃ、ふうぅ、進め、なぃ」

音声通話に切り替えようと思ったが、それではこの場に合流した意味がない。

しっかりと面と向かって会議をするからこそ、今回の集会に意味があるのだから。


ブヨブヨとした白が視界いっぱいにあふれている。 おそらく、というか普通に考えてフラー先生のものだろう。

押しのける形で腹とも呼べぬ腹を突き出しワグナスはなんとか顔を見合わせれそうな位置を探した。


自分のことを棚に置き、いくらなんでも周囲の面子は太りすぎでは……と思ったが…


「……ワグナス先生まで、これほど太っているとは……まったく……」

やれやれと溜め息を吐くクジンシーの姿は自分の半分ほどしかなかった。(それでも超重度の肉塊だが)



ロックブーケ「とりあえず、これで、全員、そろったのかしら?」


クジンシー「うむ、どうだろうか……状況が、よくわからん、ふぅ、ふぅ」


互いの肉、どころか自分の肉だけでも視界が狭まるのだ。

それが何人も集えば隣に今いるのが誰かも満足に把握できない。

デバイスのウィンドウを展開し、施設内でのオンライン状況を確認することでやっとわかるぐらいだった。


フラー「むしゃむしゃむしゃ……ふぅむ、みなさん、集まってるようですが……」

ダンターグ「もぐもぐ、あら、そういえば、アネイル先生を、まだ、見てないわね、もぐもぐ……」



わずかな待機時間ですら惜しい、とばかりに待機モードのサポートメカから料理を貰い食し続ける教師たち。

圧縮食材を用いた料理の影響で、彼らはぶくぶく、ぶよぶよと、目には見えないが恐るべき消化と代謝でノンストップで肥え続けていた。



フラーやダンターグ等は、常に『過剰摂取』の警告アラームがデバイスの脇で光っているが、いつも鳴ってうるさいからと何週間も前から音は出ないようにしている。


とりあえずアネイルが来るまでの間、待つことになったのだが……待ち時間にすることといえばやはり食事だろう。

24時間体制で食事は供給されているが、彼らにとってそれは”呼吸”にも等しい自然な行為で食事はまた別となる。

その数十メートルという規格外の巨体が満たされる為に摂取する料理は、1品でも数万キロカロリー単位だ。

何十キロというステーキ肉と数十個の卵、そして十玉以上のレタスから作られた特別製サンドや、

1個3000キロカロリーほどするシュー生地のクリームドーナツをぺろりと平らげ続けていく。






談笑しながらも、する事といえば口を動かし摂食を続けるだけだった。

現実の世界では彼らは他に何もできない。 機械と術がなければ、生活することすらままならない。


強すぎる生命力と適応力のおかげで、無制限に太り続ける。




そうしているうちに、ようやくアネイルが到着した。その短時間ですら、教師たちの重量はわずかに増えるほどだから凄まじい。



しかし、全員が首を動かせないほどの肥満ゆえ、

遅れてきた彼女をアネイルだと認識する方法は目の前に表示するウィンドウのアイコンだけだ。


「はぁはぁ、みなさん、早い、到着でした、ね……」


フルマラソンを終えたような疲労感を出しながら、彼女がゆっくりとドームへ入場する。

巨大すぎる肉体を無理やり詰め込んでいき、何十メートルもある入り口がギチギチに詰まってひび割れていく。

「んっく、はぁ、はぁ、せ、まい……」


アネイルは、理由は定かではないが教師たちの中で誰よりも太ってしまっていた。


この時、彼女の体重は8920tもあったのだ。

何体ものサポートメカがフル稼働して彼女の僅かな移動すら大げさに手助けする。


あらゆる関節が見えない彼女は、一見するとどうやって動いているのか外からはわからない。重戦車のようにずず、ずずずっとセントラル・ドームの中央へ進んでいく。


だが、すでにぎゅうぎゅうの密集状態だったドームは異様な熱気と、肉と肉がせめぎ合う高密度の空間になってしまう。

「うぬぁっ、お、重いぃ、どなたの肉、ですかな?!」

「ふぅふぅふぅ、わ、わたしじゃあないですよっ」

「みなさん、おち、ついてぇ、ぜぇ、はぁっ」


もがけばもがくほど、隣にいる誰かの。向かいにいる誰かの肉がこちらに押し込まれ、圧し掛かる。

自重すら支えきれないのに、他者の何百トン何千トンという肉の一部がこちらに与える影響は計り知れなかった。




だというのに、そんな状況にもかかわらず

彼らは、彼女たちは……自動的に運ばれる特別製の超カロリー圧縮料理たちを、休む暇なく口に運び続けていたのだ。


「もしゃもしゃ、それでは、はぁはぁ、全員、そろったところで、会議を、はじめ、ぶふぅ、もぐもぐ……はじめましょうかぁ」


最も『小さな』身体のクジンシーがそれでも喋るのもやっとという具合で会議の進行を始める。





だが彼らが行っていたのは会議とは名ばかりの、会食に過ぎなかった。

仕事の話は次第にあの店の料理がおいしかった、今週発売された新作がどうだとか、そういった情報交換になっていった。


うまいものの話に、全員の食欲は刺激され、次第に追加の料理は数を増していった。


アネイル「ムシャムシャムシャムシャ……ぐぷぅ、んふぅうっ、ええっど、いま、なんの議題、でしたっけ」

フラー「んんーー……確か、来月の…なんっだっだがなぁ、ふへぇ、はぁ、ぜぇぜぇ……」



サポートメカと陣術の恩恵をフル活用しながらも、会話するだけで厳しい極限レベルの肉塊竜達。

ぶぐっ、ぶぐぅっ、と見た目からはわからないが教師陣は確実に『リアルタイム』で肉付いていく。


僅かな時間で、十数キロ太る。百キロ、2百キロ……


8509tのダンターグが、8等分した厚さ10cmものパンケーキを飲み込んでいく。

6821tのロックブーケが息を切らす。痩せていたころと違い、胸部ばかりかあらゆる箇所の肉がぶるぶると震えるように揺れる。



そして数時間後


増え続けるアネイルの体重がとうとう9000tを超え始めた頃……


アネイル「ふぅ ふぅう はぁ……  んんっ……っくぷ」


ごぶごぶとココナッツ入りのパインジュースを数ガロン飲み干すと、ようやく一段落といった感じで食事の手を休めた。

とはいえ手など一度も動かしていないが。



どうしたんだろう、いつもより体が重い。小さな違和感。

他の先生たちの体も乗っかったりしてるからかな……?


そんな風に思いながら、わずか数分の『休憩』をとるとアネイルは再びオーダーを始めた。

ワグナス先生が勧めた店のピラフとパエリアを特急で注文し、

待つ間にダンターグ先生がおススメしていたスイーツの盛り合わせ(ティラミスタワーと桃のコンポートと生チョコのモンブランケーキ)を食べ始める


アネイル「あむっ ん〜〜おいじい……」

うっとりとした表情で、甘味を堪能し、

浮遊タイプのメカ達は、親鳥の餌を待つ小鳥に与えるように、次々と、次々と、次々と……求め続ける”肉の塊”に栄養を、エネルギーを投下し続ける。


アネイル「はぁ……はぁ…………おいしい………」


いくら食べても、食べ飽きない。みんな舌が肥えているだけあって、どれもすっごくおいしい。(肥えているのはした以上に体だが)


アネイルは自覚していなかったが、その食事ペースは相撲部の部長にも匹敵する勢いだった。

だが作法?というわけではないが、某部長のようにガッついているようには見えないため、周囲は気づかない。


「も、もっど、おススメの料理、とか、でざぁと、食べ、なくぢゃ……」


舌の上を、喉の奥を、素晴らしい料理たちが流れ過ぎていき、多数の幸福の、快楽物質が全身を巡っていく。


あぁ、とても、おいしい。どうしてこんなにおいしいのかしら……



ぶくり。ぶくり、と、増量する肉体。



やめられない、ううん、やめるひつようなんて、ないのよね。

だって周りのみんなも、いっぱい食べてるんだし。 こうやって集まってわいわい食べるのは久しぶり。

楽しいし、おいしい。


アネイル「はぁっ……
はぁっ……はぁっ……///」


次々と与えられる料理。求めるだけ与えられる。 その勢いは、もはや”注がれる”という程に過剰だった。

並の竜ならはち切れんばかりの、何トンもの料理たち……


アスターゼドリンクが消化と吸収を促すおかげで、限界がいつまでも訪れない。


ぶくぶくぶくぶく、彼女は太り続けていく。


ワグナス「ぐっぷ、うふぅ、んふぅ、ぜぇぜぇ、ぐるじぃ、食べ過ぎ、て、お、お腹が……
おや………き、気のせいですかな? アネイル先生、来た時よりも……」


食い過ぎの膨腹感で、もうろうとしているせいだろう。そう勝手に解釈した。

実際、自身を含め周囲の誰もが肥大化しているとも気づかずに。




ぶくぅ!


フラー「んぉお、ご、ごの、レモンとハーブのウィンナーが入ったポトフは、さっぱりして、何杯でも、いけますなぁ、ぐっぷぅううう」


クジンシー「ぜぇ〜〜はぁ〜〜〜ぜぇえ〜〜、ふ、ふらぁ先生、さっきから、お代わりのペースが速く、なってませんか?ぐぷっ はひぃっ、ぐるじっ」


”最も小さな肉塊”に過ぎないクジンシーは流石に周囲のペースに突き合わせることはできず、全身ぶよぶよ、かつ胴体付近はパンパンだった。

だが蛇腹はボール状には膨れず、肉塊竜特有の”山脈”を形成し、自身の肉に呑み込まれる形で腕や脚は正常な位置になかった。





気づけば、もう時間は夜。


その間、食事をしていなかった時間はどれぐらいあっただろう。(途中でダウンしたクジンシーを除く)



それほどに、躍起になって食事を続けていた。 


もはや食べるという行為は栄養を蓄える”生きるための”手段とは逸脱した”何か”に変わり果てていた。



※以下音声補助機能をOFFにした場合の会話




クジンシー「ハヒィッ、ひぐ、ごぼっ、うぐぅううう〜〜〜ぐる、じぃ、ぃい〜……」

フラー「ぞれに じでもぉおっ べぐだの りょうりば ぐぶっ フヒュッ――――――
どれぼ ごれも ぜっび ん でず な ぁあ 〜〜」


ダンダーグ「モグモグ……モグモグ……ぞぅなの よ ねぇ〜〜
だがら ダイエッドずるのも だいへん なのよぉ」


ワグナス「ぐふぅっ、ふぐっ……だんたぁぐ せんせぇ だいえっと したこと ありまじ だがな……?」


ロックブーケ「あっ、わぐなず、ぜんぜ〜ひどい、でずよぉ、
そういう、ハァハァ、ぜんぜぇ、だって、いま、ずごい、おながじで、ますよぉ、ゴクッゴクッ……」

アネイル「 ふ ふ  、でも、ぎもぢ、わかりまず、よ、
ごの、ふらいどぽてどだっで、ホクホクじでで、もう、90kg分ぐらいだべぢゃいまじだもん」


※以下音声補助機能ON



フラー「はぁーはぁー…むしゃもぐがつがつ
なんだか、空調の様子、変じゃないですか? クーラー壊れてるのかなぁ。
あれ、アネイル先生、なんだか息苦しそうですけど……大丈夫ですか?ぐふぅーー、くふぅ〜〜…」

自分では汗も拭きとれない彼の頬を伝う水滴を、サポートメカが綺麗にふき取る。


アネイル「ふぅふぅ……え、そ、そう、ですかぁ……?(もりもりガツガツ)」


ダンターグ「んぐ、もぐ、むぐむぐ……
んー…もしかして、アネイル先生、私より太ったんじゃないのかしら?
駄目よ〜いくら美味しいからって、食べてばっかりじゃ」


ぶよぶよで、だぶだぶで、床が存在してるのが不思議なほどの豊満すぎるダンターグが注意喚起をする。

説得力は当然皆無だ。この会場で2番目に太っているのだから……


ワグナス「え、えぇーー……?(言える立場だろうか……)」



とはいえ、確かにそのダンターグ”よりも”アネイルは実際太ってしまっていた。


否、ここまでくるともう”太っている”という形容詞では追いつかない。

アネイル「ええっと、それじゃあ、低カロリーなお寿司とか、頼もうかな、ふぅふぅ」


とか言いながらしっかり大トロや、脂たっぷりの品を何百貫もバクバクバクバク食べ始めるアネイル。


その日は、貸し切りのドームで寝泊まりをし……



翌日、教師たちはすっかり会議を終わらせたものとし、互いがおいしいと思った各国の特産品を使った料理を楽しんだ。

そしてまた太った。


その日も、互いに太らせ合うようなある種の”同調肥育”で終わろうとしていた。


ドームは、いつしか教師たちの密集した”肉体”で埋め尽くされていき……




「ううっ ううう〜〜〜」「はぁはぁ はぁ、あっ、く、ぅっ」「くひゅっ、はあ、ひぃ、ふぅう、ぐる、じぃ、もう、きょうは、はぁはぁ」


誰もが、意識しないままとっくに限界を超えるエネルギーをため込んでしまった。

それは当然ながら脂肪細胞を巨大化させ自身の贅肉を更に溢れ返させた。



そして、ある教師の要因がきっかけで…… 均衡は崩れ去ることになる。


ワグナス「はぶっ、あぁっぶ、うおぉっぷぅう、ふぶっっ……!!!!(ぶるっ)
い、いがん、だべ、ずぎだっ、あっ、ぐぅう、我慢、ぜね、ばっ、だ、ダメ、だっ(ビクッ)」


脳裏に、かつての職員室での出来事が蘇る。だが、もう遅い。




とてつもなく巨大に膨れ上がったワグナスの腹。彼はメンバーの中でほぼ唯一と言い引き締まった箇所のある、いうなれば”スペースを取らない”デブだった。


とはいえ彼もとっくに肉塊竜であり、体育教師というプライドと、筋力と、メカと陣術の体型サポート機能のおかげで保たれていただけにすぎない。

そんな状態の彼が、普段の倍、それ以上調子に乗って食べてしまうとどうなるか……ダムの決壊のごとく、”本来の肉量”が溢れ返った。


《どぶぅうっ、ぶよっ、だぶんっ ぶよぉっ!!!》



ロックブーケ「わ、わぐなすせんせっ、きゃっ」

みしっ、ミシィ!ベキ、バキィッ!


すでにギチギチに詰まっていた彼らの間にあった数台のサポートメカがずたずたに”圧殺”というか”圧潰”させられる。

と、同時にすぐ近くにいたロックブーケ、クジンシー達の体型補正(肉が溢れすぎないようにするプログラム)を設定していたメカが破壊され、陣術の一部も機能を停止。


質量は変わらないが、その肉体はますます肥大化し、変貌する。


ぶくぅうう!!!ぶよぉおっ、だぶっ、ぶよっ、ぶくっ!!


2度、3度、山盛りの体の一部が隆起し、自身の肉を、自身の肉が、押し合い、圧し合い、膨れ上がる。


ロックブーケ「あっ、やっ、駄目っ、サポートプログラムのきんきゅう、……あっ!!」

だが、もう遅い。 自分たちの肉体はますますブヨブヨと増大し(というか本来あるべき量に)拡散していく。


ドームという密室の中に、隙間なく


フラー「ぜ、ぜまいっ、ふぐうぅ、ぐふっ、…あ、の、残り゛の゛、デバイス、も、壊゛れ゛」



ミ シ ィ 




肥満の子竜、1頭すらもはやドームには入りきらない。 それほどの、”極肉竜”達がその場に密集した。してしまった。



アネイル「み゛、みな ざ だいじょ で ず が ぁ 」


クジンシー「グプッ、ご、ごでばいっだい、な゛に゛が おごっぐっぷぅううううううう」



誰かの肉に思いきり胴体を押され、おくびを漏らすクジンシー教頭。アネイルの1/3程度にしか満たない彼にとって現状は命にかかわる非常事態ともいえた。



ワグナス「ヒュゥウウッ、グヒュウウウ……息゛が ぐる゛ じい゛……」


ロックブーケ「ぢょ、ぢょっどぉ、前゛が 見え゛な゛い゛、だ、誰の゛、体、な゛の゛ぉ゛〜〜」



呼吸すら満足にままならない。


あたり一面に広がる 


肉 


肉 


肉。


全てが誰かの”贅肉”余分な、本来は必要ない、不要な存在。


平和の、怠惰の、堕落の、象徴。



ビクともしない。腕一本、自力で動かせない。


超重量。覆いかぶさる肉体と肉体。


アネイル「ハァ、ハァハァ……ハァッ・・・ンンッ………」


熱を帯びた肉体が、酸素を求めて喘ぐように息をする。

ギチギチと詰まった体は、どこからどの部位までが自分自身か、もはやそれさえわからない。


そして、最後の1台……かろうじて残っていた誰かのサポートメカが警告音を出して壊れ、


その空間内の肉密度は遂に100%を超えた








初めは、一部の外壁がパラパラと崩れていった。

天井や壁が湾曲し、 誰かの肉体の一部が突き抜けた かと思った次の瞬間






《ずがぁあああああああああああああああああああああああん!!!!!!!!!!!!!》


爆破工事でも急きょ行われたかと思える衝撃と、ドームの倒壊。


そして中から現れる何体もの”極肉竜”


生徒たちに何かを教える立場にある、オトナの鑑として達振る舞うべく、尊敬に値すべき存在。

それが……そんな彼らが


ベクタ大陸の一般的な食いしん坊な肉塊竜すら超える存在になり果てた瞬間だった。







奇しくも、その日、大商竜ナイル=フィガロの体重が『1万t』を突破し、


二つの超絶肥満竜達のニュースは暫く大陸間の話題となるのだった……。









アネイル「ハァーーー……ハァーーー……ハァーーーーーー……」


どうして、ここまで太ってしまったのかしら。

”普通に”おいしいものを食べて、仕事して、日々を繰り返していた”だけ”なのに。


後を追うようにして1万トンに到達したアネイルは、ふと思う。


こうなっていくのは、時代の流れなのだろう。だから、仕方ないのだと。




それに、私だって一番体重が軽い生徒の倍程度しかないのだ。いわれているほど、きっと太ってないに違いない。


極肉竜は、改良型サポートメカのコントロールパネルを開くと、今日のスケジュールを実行し始めた。

まずは第一朝食。その後、授業開始しながら第二朝食も取り始めて……っと




一部の極肉竜達の、専用施設。食べ物であふれ返ったその空間で、彼女は教師としての仕事を今も続けている。











====












「むしゃぐぁつぐぁつもぐもぐばくばくばくげぇえええええっふうううううううばくばくばくもりもりぐびぐびぐびぐび、
あぐあぐガツガツガツばくばくもぐもぐムシャムシャぐぷうううううう」



『ナイル様の体重増加速度を計算中。消化率計算中。アスターゼドリンクの投与ペースを11%増加。
腹部膨張率を確認……現在71%。追加メニュー318種類は予定通り配給します』



巨大な。 あまりにも巨大な竜。


わずか1頭の竜が、


本来は広すぎる、そのままで無駄すぎる空間内を



自身の肉だけで支配していた。




言葉は発さず、咀嚼音だけが繰り返される。



食うことが仕事であり、彼の状態を確認・更新するデータが蓄積されるだけでも自動的にサポートメカの改良は行われていく。





際限なく、彼らはこれからも太り続けるだろう。天寿を全うするときまで。


最も太った彼が、様々な健康の弊害をアーティファクトと技術と陣術を用いて取り除いてくれるから。















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