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超密集地帯

29、〜せかいいちふとったりゅう

〜せかいいちふとったりゅう〜



現在の女性竜の中で、最も体重のある存在はアネイルだ。




一時期では、10万tとも、それ以上とも言われているが……。


詳しく調べようと思う者が、本人含めいないので わかっていないのが現状だ。



テオブロマデーツが食生活に組み込まれてから、贅肉と余剰なカロリーは溜め込まれ続けていた。




「きょうは、なに たべよっかな……」



顔にも肉が付きすぎて、視界が狭まる。 だが首をまわして周囲を見回す必要は無い。


様々なデバイスと、文明の利器が彼女の身の回りの全てを手助けしてくれる。


移動も(すでにほぼしないが)、他者との交流も、気晴らしにちょっと手足を動かす運動すら。



もはや自重を支えるだけで精いっぱい……どころの次元ではない。

もし全てのサポートをオフにすればたちまちやわな地盤ごと落ちるぐらいの質量。


それでも別段”困ってない”ので好きに食べ、飲み、太り続けている。……そう、未だにアネイルは体重が増え続けていた。









===



あぁ、そろそろ授業の準備もしなくっちゃ。


でもあとちょっとだけフルーツケーキの新作を堪能して、ガトーショコラも食べてから通信授業にしよう。


5分ぐらいなら、遅れても大丈夫……かな?





あれほどまじめだったアネイルすら、すっかりマイペースに自分の食欲を優先させている。


とはいうが、無理もない。それほどの体型、体躯、体重なのだ。

常に体はエネルギーを求め続けているのだし、

むしろ食べる事以外考えられない程の重度の段階になっていない事を賞賛すべきだ。




====









今日は何日で、どんな授業をするんだったっけ……



最近どうにも記憶が曖昧だ。



朝や昼、という概念が薄まってきている気がする。



「ハァ……ふぅ……ハァ……」



補助機械のサポートはちゃんとONになってるかしら? 陣術の効果が薄れてたり?



どうも調子が悪い。腕を伸ばそうと、肩をちょっと動かすのにも、かなりの労力を使う感じ。


授業の、準備……あぁ、そうだった。今日は休んでも大丈夫って言われてたんだっけ。



デーツピザおいしいなぁ。





18万tにも及ぶ重量。夜間でも騒々しく複数台の補助器や専用飛空艇が彼女の周囲を飛び交い食事を運び続ける。


アネイルの感情や思考は、ハッキリと定まらず、常に夢うつつの状態になっていた。




食べても、食べても、足りない。おいしいし、量も満足しているけど、もっと食べていたい。



「はぁ、あむ、んぐっ、もぐ、ん〜〜……
ムシャムシャ……くぴくぴ、ごきゅ……ごきゅ……」


アスターゼ草エキスが5%も入った、清涼飲料水を大量に飲んでいく。更なる食欲が溢れんばかりに内から沸き起こる。





====

あぁ、もっと食べたい・・・…食べて、いたい。

食欲はあとからあとからわいてくる。どれだけ食べても、もっと食べたい。 ぶくぶく太るからだ。 ぶよぶよ波打つからだ。

アネイルはとうとう20万tを超え、それでも 増え続けた。太り続けた。

「あ、れぇ、もう、たべきっちゃった、んだぁ」

テオブロマデーツのピザを、何十枚も頼んでたはずだけど。……あぁ、そういえば、食べてたっけ。


アスターゼ、テオブロマデーツ、メートルアグ。アスターゼのドリンク、もっと、いっぱい、欲しい…食べて、飲んで……授業の準備、しないと。でも、もう少し食べていたい……
「つぎの、じゅぎょう、なんじかんご、だったっけなぁ……」


ぼーっとしている時間が増えた。 21万t
無理せず、体調が良い時で構わないといわれた。22万t
ロックブーケ先生に、流石に量減らしたらっていわれた。23万t
「だいじょうぶ、けぷっ、これでも、すこし、がまんしてるもの」

ぶくぶく、ぶくぶく、ぶくぶくと。


周辺の肉塊とも、サイズ差が離れていく。食べて、太って、また食べて……


アネイルの肥大化は、本当に止まることなく悪化し続けるのだった。

===





〜長い長い休暇〜


アネイルの“肥満”以上の肥満。“肉塊”以上の肉体で講師を続けるには、流石に厳しいものがあった。


彼女以外のアズライト七教師は、勤務シフトや授業計画の見直しをして

アネイルが今の体型に慣れ落ち着くまでの『肥満休暇』を手配してくれたのだった。




「それにしても、気づいた時には凄いサイズになってたのねぇ」


「うぅむ、私とのダイエットが失敗したのもあるだろう……」


ワグナスとしては、先に肥満休業するのは妻だろうなと漠然と思っていた。



自分含め、妻も確実に前より太った。


それは他の教師陣も含めて……だ。

フラー先生は太り過ぎてこれなかったが、なんとかアネイルの場所に移動して仕事の引継ぎをしたロックブーケも呆れていた。



「はぁ、胸の大きさで張り合ってた頃が懐かしいわ……」


「ふぅ、はぁ、ふぅ、張り合ってた時なんて、あったっけ……」


「うぐっ、まぁいいわ。あんたが怠けてだらだらしてる間に、アタシはもっとスタイルに磨きをかけてるから」



とかなんとか、いかにもな台詞を言うロックブーケだが 彼女にも当然くびれはないし、肉の段差しかない。


胸とその周囲にある贅肉の区別も境界線もあいまいだし、 自力で振り向くことも出来ない体型で


スタイルやプロポーションうんぬんの発言をするのは、かなり滑稽ではあった。





あのクジンシー教頭ですら、以前の2割増しで太り続けている。




テオブロマデーツを含むうまい料理のレパートリーは増え、量も増え、最新式の“肉塊竜サポーター”が有能すぎるのもあるだろう。



自重の軽減、肉で詰まった声帯部分の発声補助だけに留まらず。

周囲の湿度調整により”自分の贅肉の厚さ”による暑さは大分快適になっている。



また摂取したカロリーの熱量の一部を無駄なく利用し、活動の補助……とはいえ、歩行もろくに出来ないので 食事の手助けだが。


―――現在のアネイルは、食事の最中、噛んで、飲み込む…という動作すら補助がいるのだ―――




本来なら摂食行動が不可能になり、自然に痩せて落ち着くはずだが……


あらゆる”補助”をし続ける文明の利器と術が、彼女を含めた住人が際限なく太り続ける要因の一つになっている。







〜屋根のない教室〜





『学校』が飾りになってから、随分と経つが



閉鎖的な空間に、巨漢竜達が集う、 という状態にならなくなった影響か


生徒たちの肥満も、更に深刻化……(否、この世界にとってはなんら問題になっていない)


とにかく、増加の一方だった。


肥満トリオと揶揄されていた、コープ・リガウ・オーエンも

それぞれ平均すると10万tに近くなっている。



小山のような大きさで、もぐもぐ、むしゃむしゃ、絶えず食事を続けている。 


1日8食とか、10食とかそういう次元ではない。



そうしないと空腹で他の事に集中できないせいだ。


食材は陣術と化学の併用により生み出された”圧縮素材”だから見た目以上の摂取量だし、


それに相まって運動不足という表現では物足りない、動かなさが 肥満を、体重増加を、歯止め効かなくしている。




アネイル先生にぜんぜん追いつけね〜な〜、なんて愚痴りながらもリガウは好物のデーツピザと、メートルアグとアロエの果肉入りドリンクをゴブゴブと何リットル…何ガロン… 何バレルと飲み干していく。



ぶよぶよとした肉体が波打つが、その程度の摂取量では肉体に直接的な変化はないから気のせいだ。

元から身についた贅肉が、振動でだぶついているだけ。


どれだけ満腹で、食い過ぎたとのたまっても、そのシルエットが変動することはない。それほどの、巨大さ。



映像通信での授業、ヴァーチャル内だけの運動、部活、交流。


現実世界では、ただひたすらに 貪り 食べ、 喰らいつづけるデブ竜



ぶくぶく ぶくぶく ぶくぶくと 


教室があれば、どれだけ大きくても何度も破壊されただろう。

生徒たちは、食事摂取量の違いによる一時の増減こそあれ  体重も、体脂肪率も、溢れんばかりの贅肉量も完全な右上がりだった……





===







あんな食生活をしていればきっと誰よりも太ってしまうだろう……


と思われていた食い意地の張っていた巨漢竜たちよりも



本人にとっては変わらない日常を繰り返していたはずのアネイルの方が、周囲より太ってしまった。




一番は、ダイエットを”何度も成功”したことによるリバウンド体質への変化もあるだろう。




彼女の食事が、たまたま太りやすいメニューが多かったのもあるだろう。




食べ過ぎちゃったけど、今日はもうちょっとだけ……と、自分を甘やかした事もあるだろう。




そんな積み重ねが、彼女を誰よりも 重く、太く、巨大で、贅肉溢れる、”山”にした。







61万8千トン



竜としてのシルエットはおろか、”並の肉塊竜のシルエット”からも逸脱した姿になっていたが。


彼女は気づかない。周囲も気づかない。


基本的には会話も、交流も ホログラフィーによる画面の表情だけ。基本的には互いの顔しか認識しない。



互いの全身を確認し合う事がないのだ。




だから、止まらない。本気で痩せようとしない。 痩せる必要性すらない。


だから……太り続ける。どこまでも。








何台ものサポートメカが、彼女を助ける。


まるで巨大要塞の周辺を飛び交う、警備ドローンのよう。





64万1200t



現在の彼女には、”2つの食事”があった。



一つは従来通り、 飯時や 間食時に自ら進んで行う食事。


その量は”山盛り”という表記が生ぬるい程の多さだが この世界では決して珍しくない。







そしてもう一つは、その巨大な肉体を維持する為の栄養補充。

完全な自動化で常に口に運ばれる料理の山がそうだ。



24時間体制……というわけではないが、ほぼ丸一日と言っていい。

「あむ、んむ、むぐ、もぐ」


授業の合間。 そして授業の最中も。 

会話のちょっとした休憩時にも。  すれ違う為の”移動時”にも。


「もぐもぐ……」


疲れる事のないサポートメカたちは、休まず、プログラム通り運ぶ。


莫大なカロリーを。

その摂取量は、当然ながら体型の維持にとどまらない。 おさまりきらない。 だから太る







以前、 太り続ける大商人ナイル=フィガロに対する皮肉で あのままぶくぶく太り続けたらいずれ100万tにでもなるんじゃないか?


なんて笑い話が飲み屋であった。 言った本人も、周囲で聴いていた肉塊竜達も 違いない、と笑っていた。

だが誰も本気でそこまで太る竜がいるなど考えていなかった。


妄想だと。絵空事だと。




にもかかわらず


今、ただの一般竜であった彼女(アネイル)が 『その領域(フィクション)』に 現実に足を踏み入れようとしている……



80万tを超えた時も、彼女は自覚が無かった。

ちょっとした移動時にも負荷が凄いかかっている気がしたが、 生活できないわけじゃないし、たまに息苦しい時もあるけど



陣術や機械の設定を変えればすぐに快適になった。 だから何も心配いらない。




「 くふぅ……  ひゅう…  ふぅ……」




寝ぼけているような、どこか虚ろな瞳で運ばれる料理を貪り続ける肉の山


相撲部でもギブアップするような タワーのように折り重なったデーツピザを、ぺろりと平らげる


いくらでも、食べられる……




「はぁ、 ふぅ  はぁ」




デザートの、特大ティラミスと、苺パフェも おいしい



特殊な調理法と術によって 数百万キロカロリーも瞬時に食べられる世界




ぶくっ  ぶくっ



肉の山が 重なり合い 層を増していく



旅行中の肉塊竜が彼女を見た時に放った言葉は ただ純粋に 「でっかい……」 という感嘆の声だった。



その言葉は、遠く離れた位置にある彼女の耳には届かないのだが。




===
=====













〜100万tという重み〜






体重増加の止まらないアネイルが、100万tに至るまでそれほどの時間はかからなかった。



それは並の重度肉塊竜でも、数竜分に匹敵する重さ。


当然、 職場でも、周辺地域でも そんな重さになった者はいない。



「ハァ……フゥ……ハァ………」


サポーターの出力をもっとあげないと。

供給速度も、少し増やさないと なんだか食べたり無い気がする。


誰かと通信会話をする最中も、”食欲”とは別に 惰性で何かを口にしていないと落ち着かない。


太ってしまうと、わかっていても


もう後戻りできないぐらい アネイルの肉体は育ちすぎてしまっていた。



周囲も、すでにお手上げ状態。

彼女はもう太り続けるしかないだろう、ということを 口には出さないが誰もが暗黙のうちに感じ取っていた。



太りやすい種族だったわけでも、特別大食いだったわけでもない。

様々な要因が重なり、リバウンドの繰り返しや、肥れてしまう環境


その全てが今の彼女を作り上げてしまったのだ。




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