• sub menu
  • fiction title
  • page
  1. Home>
  2. その他>
  3. 小説>
  4. カーザ・ミーア

カーザ・ミーア

7、史上最も軽かった竜

その夜、私は夢を見た。

「あれ…私…痩せてる…?」
あれだけ重々しかった1000t以上もの肉が消え、すっかりと軽くなった身体で、私は席から立ち上がる。

「あぁ…夢か…」
席から立ち上がった私は、これが夢だって直ぐに気が付いた。
だって、立ち上がって見えた景色が、私の記憶の中にある竜学バルハラント本部の校舎の中だったのだから。

今、私は肉饅頭のような身体の力を抜ききって寝ているはず。
こんな所にいる筈がないのだから。

「それにしても…」
立ち上がった自分の身体を見れば、括れた身体のラインと、関節の骨が浮き上がった細い手足、残念なまでに貧相な胸と…それらを包み込む、だぼだぼの黒いトレンチコート。

「昔はこんなに痩せてたのよねぇ…」
細長い尻尾は、自由に振れるし、自分の薄紫色の髪を自身の手で触れたのなんて何年ぶりなのかしら…

でも、どうしてこんなにはっきりとした夢を見ているのだろう。
改めて、椅子に座り直した私は、校舎の窓から見えるメガフロート・ドレイクを眺めながら思いに耽る。

バルハラントに帰ってきたからかしら…
それとも、今日、シャイア博士と会って話をしたからか…

あぁ…シャイア博士にちゃんと謝らないと…

そんな事を考えていた時だった。
轟音と共にドレイクの上空が…割れた。

「い…いやよ…そんな…お願いだから…見せないで…」
その割れた上空…複雑な翠の輪が幾つも円を描きながら光が立ち上っている場所は、私の良く知るシャイア第一研究所だろう。

その時点で、この夢が悪夢だと察した私は、必死に目を閉じ、耳を塞ごうと手を当てようとしたのだが、身体は金縛りにあったかのように動かない。

「うぅ…うぅ…」
見たくない…聞きたくない…そう願っては目からは涙が溢れる。

光の円は強さを増していく。
幾つかの爆発音と共にシャイア研究所の屋根が爆ぜる。

「お願いだからぁ…見せないでっ…」
私の願いは虚しく、翠の光と鳴り響く轟音は私の視覚と聴覚を揺さぶり続ける。

ドレイクからもそれなりに距離がある筈のイェルムンガルド海上に建てられた竜学にまで届く爆発の衝撃波が、校舎の窓を強く打ち鳴らしては振るわせる。

もうすぐ窓が割れ、その破片が私に突き刺さるだろう。
だが、私が恐れていたのはそんな事ではない…

「あぁっ…」
私が恐れていたのは…

翠の光の中、研究所の上空に現れたのは巨大なキューブ状の術式回路。
幾多もの術式を並列に起動させ光り輝くのは、私の両親が研究をしていた…

多元世界変更術式…
それは、理術と言われるアーティファクトの一つ。

私も、両親から聞いた話だから詳しくは分からないが、ハーメリアの塔周囲の海域深くで発見され、シャイア第一研究所でシャイア博士先導のもと、研究されていたらしい。

上空で輝く理術の光がより強くなる。
その光は、バルハラント諸島だけでなく、ドラゴルーナ全てを包み込む程の強烈な光だった。

「だめ…あぁ…いや…」
そして…頂点にまで達した光が私の視界を埋め尽くす。

光が収まった時、シャイア第一研究所の一部は切り取られたかのように無くなっていた。
私の大好きだった両親と共に…

その光景を最後に私は夢から醒める。
いや、醒めてしまった。

なんで、今この夢を見てしまったのだろう。
よりにもよって、大好きな故郷へ帰ってきた当日に…

「ぜぇ…ぜぇ…げほっ…」
悪夢のせいか、目覚めた私の呼吸は激しく乱れ、思わず咳き込んでしまう。
そんな私の頬には、寝ている間に流したのであろう大量の涙が、膨れ上がった頬の肉の隙間に溜まっていた。

「何か…食べなきゃ…食べないと…」
胸がきつく締め付けられる感覚から、私は反射的に食に逃げようとする。

辛いことがあったら美味しい物を食べるのが一番よ。
そう、今は亡き母が言っていたの思い出す。

一時期、ベクタで生活していたからか、少しぽっちゃり気味だった母。
そんな母がベクタでの暮らしの間で、自分が美味しかったからと時折、私にも作ってくれたベクタのハンバーガー…

そんな事を思い出したら、余計に目からは涙が、口からは涎が溢れ出る。
その思い出に身を委ねるように私は、収納術式を起動させ、ナイルさんから買い占めておいたベクタバーガーを一つ取り出したその時…

ズシッ…

「きゃっ…!?」
気が滅入ってたからか、ハンバーガー以外の物を取り出してしまったのだろうか?
圧倒的な質量と、体積の巨大な何かが私の巨体の上に覆いかぶさってきたのだ。

反射的に防御壁を起動させていたから、怪我は無いが、一体これは何なのだろう…?
ベクタ随一であろう私が、圧迫感を感じてしまう物なんて、巨大飛行艇や、大型の建物が頭上に圧し掛かった時ぐらいだろう。
収納術式には色々な物を押し込んでいたつもりだが、これ程に巨大な物を仕舞っていた記憶は無かった。

私は、取り敢えず、陣術を使って自身の全身を覆い隠していた物の正体を解析する事にした。

「えっ…何よこれ…」
その解析結果を見て、私は思わず声を出す。
その解析画面に表示されていたのは、ハンバーガーだった…

確か、ベクタの方で見かける平均的な大きさの物を仕舞っていた筈なのに…
私の身体を覆い隠していたそれは、見た事もない…それこそ、何かの催しでデモとして出されるかのような巨大なサイズだったのだ。

「取り敢えず、食べようかしら…」
見たことないサイズではあるが、解析でも出たようにこれはハンバーガー。
蕩けたチーズや、たっぷりの肉汁は、その下敷きになっていた私の全身の肉の段へと彼方此方零れ落ち、食欲をそそる匂いを醸している。

「まぁ…っ!?美味しい!?」
早速、ハンバーガーの一欠けらを陣術で切り取って口に運んだ私の口から自然と声と涎が漏れる。

こんな美味しいの…食べたことがない…
一欠けらを味わった私の口いっぱいに勝手に広がる涎を呑み込むと、もう一欠けらを切り抜いて口に運ぶ。

そして、一欠けらだけで、私の知っているベクタバーガー程あるサイズを何度も、口に運び続け、その味に感激しては、また口に運ぶ。

何度口に運んでも、ハンバーガーは無くなる気配がない。
次第に私のお腹は満腹を訴え始めていた。

ベクタでも…フィードロットの竜にだって負けない自信のある大食漢の私が、たった一つのハンバーガーも食べきれないだなんて…

「けふっ…うっぷ…」
それでも、美味しさから食べ続けていたのだが、そろそろ限界みたいだ。

「うっぷぅ…ぐえっふ…もう…食べられないわ…」
張り詰められたお腹が苦しくて息をするのも辛い。

一体、どれくらい食べたのかしら?
数十トン…いや、数百トンは食べたのではないかしら。
だって、あまりにもお腹が苦しくて、破裂するんじゃ無いかって程なのだ。

なんせ、陣術を使うまでもなく、目線を上に向ければ、そこには、巨大な…丸々としたお腹が、今にも張り裂けそうに自身の体高よりも高く聳え立っていたのだから。
私のお腹がこんなに張り詰めらているなんて、ベクタで住み始めて以来じゃないかしら…

だけど、こんなに食べたのに、まだハンバーガーは半分も残っている。

取り敢えず、残りは術式の中にしまっておいて、後で食べよう。
陣術の中へと入れておけば、食べ物も悪くならないから。
私は、半分残ってしまったハンバーガーを陣術の中へと仕舞いこむ。

「それにしても…」
さっきは食べる事に夢中だったから、気が付かなかったけれど…
一体、何故あんな物が入っていたのだろう。
それに…幾ら収納術式とは言え、私の知っている術式ならば、あれ程大きな…大型の飛空艇サイズの物を収納する事は出来ないはず。

試しに、収納されている物の質量を眼鏡に写っているステータスで確認してみれば、そこに表示されているのは、3200万t/5000万tと言う見た事もない表示。

「一体、何がどうなっているの…?」
そんなに大質量を収める為には、既存の陣術回路を何重にも接続し同時起動しなければならなかったはず…
だが、私の持っているる回路は、一般的な物、それが一つだけ。

明らかにおかしい…
寝てる間に、シャイア博士が何か細工をしたのだろうか…?
いや、あの博士でも流石に陣術の進歩を何十段も飛ばした発明を直ぐに考えるのは不可能だろうし…
そもそも、そんな発明が出来たのなら、とっくに世界中に発表して大騒ぎになっているはず…

可能性を模索しては、どれも不自然な答えばかりしか思いつかない。
でも、この状況は、明らかにおかしい。

その時、ふと眼鏡に表示された自身の体重に…見たくはなかったが…目が行ってしまった…
なにせ、普段なら反重力術式を使っていなければ、エラーとしか表示されず、もうそれが何年も続いていたのだから、それが私の中では当たり前…
寧ろ、嬉しくも無い数字の上昇を見なくて済むと嬉しく思っていた程だったのだから。

しかし、目に一度入ってしまった数字は…1878t…
何と言うか…冗談にしては悪すぎる数字が表示されていた…

「正直…まだ1500t以下だと思っていたのだけど…」
旅行中、思っていたよりも食べ過ぎちゃってた気がしたし…
太ってる自覚はあったのだけど…

いや…実際、旅行中は大して増えては無いのだろう…
きっと…精々、10t、20t程度しか増えていない…

だとしたら…私って元から…
世界で一番体重の重い竜…それもダントツで…

「あ、あれ…でも、何で私の体重を測れるのかしら…?」
頭の中でぐるぐると回る自身の体重の数値を掻き消そうとしていた時、ふとそんな疑問が浮かび上がった。

だって…収納術式もそうだけど、眼鏡まで…
私は、慌てて他の術式も確認してみる。

「何なの…これ…」
どの術式も、私が昨日まで使っていた物とは、比べ物に出来ない程に強力になっていたのだ。

それこそ、周囲を確認するための術式は千里眼。
反重力術式に至っては、この私の質量でさえゼロになるまで抑える事が出来る。

一体、寝ている間に何が起こってしまったのだろうか…?
その時、陣術の確認の為、首すら満足に回せない私の代わりに周囲を見る為の術式である、観測術式を起動していた私の目に信じられないものが映っていたのだ。

それは、恐らく木々で出来ているのだろう高級そうな部屋の一室…
ベクタでもないのに…いや、ベクタでも私の入り切れる建物何て無い筈なのに…

だけれど…この景色には見覚えがあった…
もう、おぼろげな記憶でしかないのだけど…

「ここは…私の部屋…?」
そう、ここは、昔バルハラントで暮らしていた時に家族で住んでいた私の家。

だが、見た目だけは私の記憶にある実家と変わらないのだが、大きく違うところがあった。
それは、2000t近い私が優々と寝転がる事が出来るベッドを始めとして、部屋を含めた全ての物が大きいということ。

本当に…ここは何処なのだろうか…
知っているけど、知らない場所。
だが、何はともあれ、このままじっとしている訳にも行かない。
私が、陣術を起動し、手始めにこの建物を含めた外部の状況を探ろうとした、その時だった。

建物の外から激しい地響きが聞こえてきたのだ。
その衝撃は凄まじく、私の身体が浮き上がってベッドから転げ落ちてしまう程の振動。

「もう…今度は何なのよ…!」
ベッドから転げ落ちる際に起動した防御壁に守られ、痛みは無いが、驚きのあまり声が出てしまう。

ベクタでも随一の体重を持った私を揺れだけで動かすだなんてただ事ではない…

私は慌てて、強化されていた反重力術式を使用して、体重を500kg程度まで落とすと、移動術式で姿勢制御を行い転げ落ちて寝転がっていた身体を持ち上げる。

信じられない程に身体が軽くなり、溢れだし垂れ下がっている肉にさえ気を付ければ、自力で歩くことが出来る事に喜びと驚きを感じたのも束の間、唐突に部屋の片隅にある巨大な窓に黒い大きな影が掛かり、部屋が暗黒に包まれる。

「おはようございますぅ…ねーじゅさぁん」
部屋が暗闇に包まれたその瞬間、聞いたこともない野太く間延びした声が、私の陣術越しに聞こえてきたのだ。

「え…誰…?」
思わず私は聞き返してしまう。
だって、こんなに野太くて聞き取りづらい声の知人を私は知らない。

「やだなぁ…長旅でぇ…つかれちゃったんですかぁ?ぼくですよぉ…アドレ=アヴニールですぅ」

え…?アドレ君…
いや…彼はもっと良く通る、変声期前の仔竜独特の高めの声だった気がしたのだけど…

「あ…アドレ君なの…?昨日は長い間、寒い所に居させちゃったから…風邪でも引いたのかしら…その…大丈夫?」

あぁ…昨日、バルハラントの料理を食べる時、寒い所に長い事居させちゃったから、風邪引いちゃったのかしら…そう…きっとそうよ。

「くちゃ…もぐ…僕は元気ですよぉ…それにしてもぉ寒い所ですかぁ?ぶふぅ…そんなばしょ…このルーナには存在しないはずですがぁ…あぁ…このバルハラントはぁ…少しだけ涼しくて良いですよねぇ…げふっ……」

そんな…バルハラントは流氷漂う極寒の地…昼間はそうでもないが、夜は厚い脂肪を纏った私だって寒気を感じる場所。
そんな場所が、涼しい…?

「あぁ…ごめんなさぁい…ちょっと移動術式の微動が出来なくてぇ…間違って…ぶひゅぅ…ひゅぅ…ネージュさんのぉ…いえ…圧し潰しちゃいそうなのでぇ…急いで出てきてもらってもぉ…げふっ…くちゃ…いいですかぁ…いやぁ…ほんとぉうに…もうしわけないですぅ…ぶひゅう」
疑問に疑問が重なり、もう頭がめちゃくちゃになりそうだった私に止めを刺すかの如く、衝撃的な言葉が聞こえてきたのだ。
ミシッ…ミシリッ…バキンッ!

その言葉を聞いた直後、天井から木々や金属が軋む音が鳴り響いてくる。
どうやら、急いで出ないと不味いらしい。

私は、重力制御で軽くした身体をそのままに、移動術式を重ね掛けし、昨日の自分なら驚くような速度で走り出すと、入口に扉が無い事を幸いに思いながら、部屋から飛び出す。

「ふぅ…ふぅ…はぁ…ぐえぇぇぇっぷ…けふっ…」
走るのなんて、何年ぶりだろう。

軽くしているとは言え、全身の肉が打ち合って、走りにくいし、全く使っていなかった筋肉では、幾ら体重を軽くしたところで脚を振る動作すら辛い。
その辛さに加えて、先程満腹になるまで食べたハンバーガーの影響で、はち切れそうなお腹はスーパーボールのように弾むし、走った衝撃で盛大におくびが漏れるし…もう最悪。

とは言え、移動術式の補助もあり、この見た目からしたら驚くほどの速さで移動出来ていた私は、何とか家の入口へと辿り着く。

辿り着いたのだが…
薄いオレンジ色をした何かが垂れ下がっており、入口の殆どを塞いでいた。

「う…どうすればいいの…」
その何かは、私が戸惑っている間にも、スライムが零れ落ちるように垂れており、本当ならば、私が何十列に横へ並んでも通れるであろう巨大な入口を塞ぎかけている。

迷っている時間は無い…
私は、上がる息と疲れて震えている脚をそのままに、入口へと突撃したのだった。

「はぁ…あぁっ…!もう…げふっ…だめぇ…」
私は、息絶え絶えに家を出て直ぐに俯せに倒れこんだ。
満腹で走ったせいか、脇腹がとても痛んで苦しい。

だけれど、家が缶を圧し潰すかのように潰れたのは、私が建物の外へと出れた直後。
もし、頑張って走らなければ、私もあの薄いオレンジ色のスライムに潰されてしまっていただろう。

「あぁ…!ネージュさぁん…よかっだぁ…一時はどうなることがどぉ…ぶひゅぅ…おもいまじだよぉ…」
倒れた私の陣術越しに、野太い声が響いてくる。

「はぁ…ふぅ…もう…一体…次から次へと…ぐふぅ…何なのよ…」
胃に残っていた僅かな空気を吐き出すと、私はこの状況を嘆いて言葉を漏らしていた。
だが、寝転がったままでも見えた、あまりにも巨大な物体に嘆きたい気持ちすら、驚愕の前に吹き飛ばされてしまう。

私がそれを見るまで、何かの手違いで巨大な飛空艇か何かが、私のいる建物に突っ込んだのだろう…そう思っていた。
それで、偶然私の知っているアドレ君と同姓同名のそこに居た誰かが、建物に居る私に危険を知らせてくれたのだろうと。

いや…薄いオレンジ色のスライムが入口を塞ぎかけていた時点で、その考えは違うとは感じていたのだけど…正直、非現実すぎて事実を事実だと受け止められなかった。

だけれど、私の目の前に写る景色を見ては、受け止められなかった現実を受け止めるしかないようだ。

その大きさは、私の何百倍…いや…何千…もしかしたら何万倍もありそうだった。
それが生き物だと唐牛で分かったのは、黄土色の体色と、何重にも分厚い段になり垂れ下がった蛇腹のような肉の塊を見たからだった。

まるで、私を極限まで大きくしたらこうなっていたであろうシルエットだった。
だけれど、それは…紛れもなく、太り果てたスカラブ黄土竜の姿…

それが竜だとは、正直認めたくはなかった…
だって…分厚く膨れ、垂れた蛇腹の一段だけで、私の何百倍と重そうなのだから…
そんな肉の塊が竜だなんて…

私も人の事は言えないけれど…
こんな肥満体、ベクタだろうが…いや…もし生き物が居たとしたら、恒星コロニアの外にある宇宙全てを探したって絶対にこんな太り切った竜…見つけられないと自信をもって言える。

「ぶひゅう…ねーじゅさぁん…大丈夫ですかぁ…?ひゅぅ…ごめんなさぁい…陣術でも、あまり小さすぎるどぉ…見えないのでぇ…ひゅぅ…」
私の陣術に声が響く。
きっと声の主は目の前に聳え立っている巨竜…
信じたくないけれど、陣術の画面に表示された着信の相手は、アドレ=アヴニールと書かれていた。

「あの…アドレ君…一体どうしちゃったのかしら…その身体?」
正直、あの聞き取りづらい声ともう一度話すと思うと、非常に億劫だが仕方ない。

「えぇ…?くっちゃ…ごくっ…ほんとどうじたんですかぁ…?じゅる…くっちゃ…なんだかぁ…ネージュさん、げふっ…!朝からおかしいですよぉ…初めて会った時からぁ…ぐぇっぷ…僕の身体ってぇ、ごんなもんじゃないですかぁ…寧ろぉ…ネージュさんがぁ…痩せすぎなんですよぉ…げふっ…げほっ…ぐぇぇっぷぅ!」
そこで、激しい呼吸音と轟音のようなおくびの音で声が途切れる。

恐らく、何か食べながら話をしているのだろうか…?
あの礼儀正しいアドレ君なら絶対にしない行為に…私は顔を顰める。

それにしても…私が痩せすぎ…?
それは…目の前のスカラブ黄土竜の肉塊に比べたら…痩せてるでしょうけど…
ベクタ随一の肥満竜が、痩せすぎと言うのは…ちょっと理解が出来ない。

「ぶひゅっ…ひゅー…ずびばぜぇん…ぐひゅぅ…げほっ」
目の前の肉塊が息を整えるのには、十分近く掛かった。

「げふっ…ぐぇーっぷ…!僕なんでぇ…たったの4200万tじがぁ…ないんですがらぁ…たいじだごどぉ…無いですっでぇ…ネージュさんがぁ…うらやまじいなぁ…」

たったの…4200万t…?
思わず耳を疑いたくなる。
だって…私の…二万倍以上重いってこと…よね…?

確かに、目の前の肉塊竜は…竜と言って良いのかも分からないけれど…私と比べると普通の竜とミジンコ程の体格差があるようには見えるけど…
それでも、常軌を逸し過ぎている…

「その…アドレ君。もし良ければ、陣術を使って声を整えて貰っても良いかしら?流石にこのままじゃ、話しにくくて…」
間延びして聞き取りにくいし、息も絶え絶えで辛そうなので、私は試しに提案してみる。

「あぁ…あー。これで聞き取れますか?」
そして、陣術によって数々のノイズが除去された後、私の耳に聞こえてきたのは、私の知る聞きなれたアドレ君の声だった。

正直、聞こえてきて欲しくなかった。
だって…これで、違う声が聞こえてきたのならば…同姓同名の…別竜だって…
そう思う事が出来たかもしれない…
それなのに…耳に響く声は、どこまでも懐かしい、アドレ君の声。
もう、彼をアドレ君だと信じるしかない。

「え…えぇ…聞こえてるわ…起動してくれてありがとね…」

「すみません。こうして、他の竜と話すことも珍しいので、ついつい使い忘れちゃうんですよね。僕も、ネージュさんみたいに社交的で、活動的な竜だったらなぁ…」
アドレ君の声は、本当に羨ましがっているように聞こえた。

「え…私が…?」
私が…社交的…活動的…?
万年、研究所に籠りがちで、研究と食べる事以外、殆ど頭に無い私の…何処が…?

「そうですよ…だって…ネージュさんは、もう小さすぎて使えなくなった故郷の家が取り壊される前に最後に泊まりたいって、遥々ベクタからここまで来たのですから…そんな事が出来るのネージュさんくらいですよ。僕には、とてもそんな大移動出来ないです…憧れちゃうなぁ」

私の頭がおかしくなったのだろうか…?
私が、バルハラントに来た理由は、重過ぎて船に乗れなくなる前に最後に一度だけで良いから故郷を見たかったからだ。
家なんて、もう何年も前に売り払ってしまっていたから無くなっていたはず。

それにしても、やはり、先程圧し潰されてしまったのは、私の家だったのだろうか…
そう思うと、潰される前に最後に一目見ておきたかったけど…

私もそうだけど、肉塊竜という生き物は、移動の微調整が難しい。
それも、あれだけの巨体となれば、数メートルの調整だって難しい筈。
アドレ君にも悪気は無いのだし…
それでも、ちょっと寂しいけど…

「そ、そうね…最後に一目見れて良かったわ…」
本当に頭がおかしくなりそうだった。

だけれど、ここで私の思っている疑問を全部ぶつけては、アドレ君に頭がおかしくなったと思われてしまうだろう。
それでは、この異常事態の状況を確認する事も出来ない。
だから、私は、取り敢えず曖昧に返事をすることにした。

「それにしても、ベクタで長い間暮らしていたにも関わらずネージュさんは凄いですね。僕だったら、あんなに美味しい食べ物が沢山ある場所で暮らしたら、食べるのを我慢できなくて一年も掛からずに倍くらいになって動けなくなってしまいそうです…」

「え、そうね…まぁ…あまり我慢は良くないと思うけど…」
このアドレ君の知っている私は、一体何者なのだろう…

ベクタで料理を目の前にして…我慢…?
そんなの出来る自信が微塵もない…
だとしたら、彼の知る私って…

「あ、そう言えば、本日のご予定は、以前ネージュさんが勤めていたシャイア第一研究所へ向かい、シャイア博士に挨拶をしに行くのでしたよね!」

「え…?えぇ…そうね…そうだったかしら…」
それは、昨日したはず…そう思わず声に出そうした私は口を紡ぐ。

先程彼から伝えられた、知らない私、予定にない行動、ある筈のない家…
その情報から、私はある可能性を察してしまう。

その可能性とは、理術…多次元変更術式…それが何かしら影響を与えて、私が違う世界線に来てしまったという物。
いや…昨日、あんな夢を見なければ、こんな馬鹿げた推測もしなかっただろう。

「では、早速向かいましょうか?早くしないと研究所もお昼になってしまいますし、僕たちもお腹が空いちゃいますから…そうですね、僕の上に乗ってください」
アドレ君がそう言うと同時に、私の身体が柔らかいシャボン玉のような膜で包まれ始める。

「ひゃっ…!?何よこれ!?」
それは、あまりにもいきなりの事で、私は思わず声をあげてしまう。

膜は柔らかく、膜の中に居ても息が出来た。
恐らく、何かの陣術の一種なのだろうけど…
こんな陣術を私は知らなかった。

そんな、驚いている私の全身が膜で包まれる。
その次の瞬間、ふわりと風船が浮くかのように私の巨体が浮き上がったのだ。

シャボン玉のようにふわふわと宙を漂いながら、私の身体はゆっくりとアドレ君の方へと向かっていく。

そして、丁度アドレ君の非常に肉々しい身体の中程より少し上まで来たあたりだろうか。
地上から170m辺りの位置で、上空へ向かって漂っていた私の動きが止まる。

その後、私の身体は、アドレ君の見るからに柔らかそうで、もう何処が何処かも分からない何十、何百も重なった蛇腹の方へと向かっていく。
そして、次の瞬間。

どぷぅうん。
そんな擬音と共に私の身体は、アドレ君の肉の段の上に着地していた。

だけど…この位置って…もしかして…

「きゃっ!?ちょっと…アドレ君!?何処に乗せてるの!?は、早く降ろしなさいよ!!私、歩けるから…!自分で歩いて研究所まで向かうから…!」
恐らくだけど、私が降ろされた場所は、アドレ君の胸の隙間だろう。
幾ら、肉の塊とは言っても…雄竜の胸の間に挟まれていると言う意識はどうしても拭えなくって…恥ずかしい…

いや…柔らかい二つの肉の塊が重なり合って出来た隙間が、良い感じに私を包み込んでくれて暖かい。
それに、脂肪の塊だからか、私の重さで沈み込むため、安定感も良い…
それは、まるで、超高級ソファーの様な座り心地…なのだが…
それでも…こんな姿を他の竜に見られたら…なんと言われるのかしら…

あぁ…昨日のアドレ君もこんな事を思っていたのかしら…
う…これじゃ…あの時の私って…アドレ君にとっては痴女みたいじゃない…

「え?ベクタからゴディヴァに乗っている間も、こうして僕の上にずっと居たじゃないですか?今更、恥ずかしがることなんて無いですよ…それに…こうしないと、周囲の竜たちにネージュさんが潰されてしまうかもしれないですから…」

「確かに…そうね…」
上空に漂っていた時、私は地上でひしめき合っている沢山の竜の姿が目にしていた。

その多くは、バルハラント白竜であり、しかし、私の知っているやせ細った姿ではなく、一人一人が、島のような大きさだった。

そんな竜たちが丸々と膨れ、何重にも重なった脂肪の島となって、周囲一面にある三つの島々を埋め尽くし、それどころか、陸地にも入りきらない程に太り過ぎた竜たちは、海面にまでその巨体を広げていたのだ。

いや…竜達が溢れ出る脂肪を広げていた場所は、海面ではない…
何処までも、マクロ術式によって自動的に広がり続ける人工島らしい…

「アドレ君…あれは…何かしら…?」
海を全て押し隠す勢いで広がっている人工島を見た私は、アドレ君に問いかけた。

「あぁ…あれですか?あれは、ニュー・メガフロート・ドレイクですよ。僕たちが、海中へと落ちないように、日々増築されているんです」

あぁ…成程…
確かに…目の前に広がる無数の大陸みたいな肉塊竜が、海面に落ちてしまったら、海水が溢れて、大変なことになるだろう…
私ですら、過去に海へ入った時は、数メートルにもなる大波を発生させて、近場の港を海水で沈めかけたのだ。
彼らが、海になど入ったら、この星の陸地何て無くなってしまうだろう。

それ程までの脂肪の塊がひしめき合い、乱れた呼吸のまま、熱い吐息を吐いているためか、周囲の温度は南国の様に暖かく、雪国だった筈のバルハラントの海には流氷一つなく、刺すような冷たい風が吹きすさんでいる筈の雪山には、聳え立っていた高い山と雪模様の代わりに、恐らく、山すらその巨体で圧し潰し、平らにしてしまったのだろう、白い巨体を何処までも重々しく横たえたバルハラント白竜を始めとした、様々な竜達の姿が並んでいた。

これでは、アドレ君の言う通り、歩いていったら、巨竜の間に挟まれて、私なんて簡単に潰されてしまうだろう。
仮に、挟まれなかったとして、標高何百メートルにもなる肉の山々を乗り越えて、何処にあるのかも見えない研究所へ行ける自信はない。
恥ずかしい事この上ないのだけれど…アドレ君の胸に挟まれて運んで貰うしかないようだ。

それにしても…
私は、あまりにも巨大すぎる竜以外にも違和感を覚えていた。

「ねぇ…アドレ君?」
私は、移動術式を起動させて移動を開始したアドレ君の胸の間で温もりながら問いかける。

アドレ君の胸の間に居るのは…まだ恥ずかしいけれど…地上から200m近い位置に居るので、流石に寒さを感じていた私にとっては丁度良い暖房器具のようだった。
彼がその巨体を這うようにして動くたびに激しく揺らされると思っていたが、彼が陣術で守ってくれているらしく、その揺れも感じない。

「どうかしました?」
陣術越しにアドレ君の声が聞こえる。
その間も、彼が数メートル這う度に、地面が抉れ、海面が波立ち盛大に水しぶきを巻き起こす。

「ちょっと気になったのだけど、バルハラントってこんなに広かったかしら…?」
私の思っていた違和感、それは、私の知っているバルハラントと違って、今いる場所は不自然なまでに広いというものだった。

なにせ、アドレ君の進む速さは、牛歩よりも更に遅いとはいえ、彼の身体は、私がここに来るために乗ったゴディヴァの何百倍も巨大な面積を誇っているのだ。
幾ら遅くとも、数分も移動すれば、ヤロングット島からヨーレタ島まで往復しておつりが出るだろう。
それが、移動から数分経った今も目的地である研究所には到着していない。

それだけではない、一人一人が島程の巨体故、私の知っているバルハラント諸島の島々ならば、たった一人で島は埋め尽くされている筈。
それが、数人の島並みの竜が乗っていても、所々僅かに陸地が見えていた場所もあるのだ。

つまり、数人も集まれば大陸並みの体積になるであろう肉塊竜を乗せるだけの土地があると言う事…
私の知っているバルハラントは、そんなに広い場所では無かった筈。

「え…まぁ…最近はちょっと土地が無くなってきているとは思いますが…それなりには広かった筈ですよ。詳しい地形図を見てはどうでしょう?」
そう言って、不思議そうにアドレ君は返してくれた。

あぁ、そうか…陣術で調べれば良かったのよね…
私は、陣術を起動させ、バルハラント諸島の地形を検索する。

そこに表示されていたのは、一つ一つの島々の大きさだった。
それも、私の知るサイズは、大きく掛け離れている…
その一つ一つが、ルーナでも有数の大きさを誇る大陸であるエルオーネ大陸と、ベクタ大陸を足して余りある程の大きさだったのだ。

確かに、これだけの大きさがあれば、あれ程までに肥え太った肉塊竜でも入ることが出来るだろう…
だが、それ程広い土地で無かった筈のこの島国がこれだけの大きさとなると…
他の大陸…いや…この衛星ドラゴルーナの大きさはどうなっているのかしら…?

そんな疑問から、私は陣術の操作を続ける。
そうして、掛けている眼鏡に表示されたのは、衛星ドラゴルーナの全体像だった。

「え…こんなに…大きいの…」
その大きさを見た私は、何度も瞬きを繰り返す。
だが、そこに写されていた表示は変わらない。

陣術に写されていたのは、私の知っているドラゴルーナの数百倍もの大きさの…星と陸地が大きくなって居る事を除けば…全く同じドラゴルーナの姿だった。

それならと、周囲の衛星、惑星、恒星と見てみるが、そのどれもが私の知っている物よりも数百倍は大きい…
まるで、宇宙と星…そして、そこに暮らす者たちが全て等しく大きくなったかの如し世界だった。
ただ、違うのは…竜の元々のサイズは変わらず、積み重ねてきた脂肪の多さで大きくなっていると言う事なのだが…

「そろそろ到着です」
陣術を見るのに夢中になっていた私は、アドレ君の声に眼鏡のレンズに表示されていた惑星の見取り図を消して、視線を移す。

しかし、そこにあったのは、白い巨大な…海に浮かぶ柔らかそうな肉饅頭と…それに比べたら半分ほどの大きさの肉饅頭…
研究所何て何処にも見当たらない。

「え…?」
そして、もう一つ重大な事が私の目に入ったのだった。

私の視線の先にあったのは、私が昨日見た夢にも出てきた理術回路こと、翠の光を放ち続ける四角形の巨大なアーティファクトだった。

本当ならば、こんなに輝いているのだから、直ぐにでも気が付いたはずだが、陣術によって表示された画面を見ていた私は気が付かなかったようだ。

だが、おかしい…あんなに光っていたら、目立つだろうし…何より見ていると目が疲れてしまうだろう…それなのに、誰もあのアーティファクトの事を気にしたり、光を遮る陣術を使用していない。
まるで、そこには何もなく…いや、気が付いていないのだろうか…?

私は、そんな事を思いながら、陣術で自身の目の周りに透明のベールを張って光を遮る。

「どうかしました…?目に何か入りました…移動が荒かったからですかね…ちょっとお腹が減ってきたから急いでしまって…すみません…」
どうやら、アドレ君は私と会ってから、ずっと何かしらを食べていた様だが、数千万トンもの巨体故の食欲から、いつの間にか無くなってしまっていたらしい。

「あぁ…私は大丈夫だから。その気にしないで…こちらこそごめんね。お腹減っているのに長い事付き合わせちゃって」
どうやら、本当に理術に気が付いていないらしい…
となると、あれは私にしか見えていないのだろうか…?

私は、推測した通り、多次元変更術式によって本当に別の世界線に来てしまったのだろうか…

疑問は尽きないけれど…
そうだ…シャイア博士ならば、何か知っているかもしれない…
説明は大変だろうし、信じて貰えるかは分からないけれど…博士なら…

「そう言えば、研究所ってどこかしら…何と言うか…白い肉饅頭しか見えないのだけど…」
アドレ君が着いたと言ったのだから、近くに研究所らしい建物が見えると思ったのだけど…
やはり、見渡しても白い肉饅頭みたいな大きな塊が、二つ、互いの柔らかそうな肉を押し付け合いながら人工島を埋め尽くしているのしか見えなかった。

「ようこそシャイア第一研究所へ。いや、おかえりと言ったほうが良いかな?久し振りだねネージュ君。また少し痩せたんじゃないかい…?世界一痩せた竜ってだけあって…痩せた体も綺麗だとは思うけれど…あまり無理なダイエットばかりしていると、いつか身体を壊してしまうよ?」
そんな声が、唐突に陣術越しに聞こえてきたのだ。
そして、声と共に、目の前にでかでかと鎮座していた白い肉饅頭がもぞもぞと微動している。

「何をしてるのかな…?ネージュ君。久し振りの再会だし、ご馳走を用意したんだ。早くこっちに来て貰っても良いかな?遅いと先に全部食べてしまいそうだからね…あぁ、そこの君。ネージュ君の付き竜をしてくれていたみたいだね、僕からも礼を言うよ。勿論、君の分も用意してるあるから、ゆっくりと食べていってね」
よく見ると、その白饅頭の中心には小さなドーム状の建物がある。
そこに行けばいいのだろうか?

「アドレ君…」

「大丈夫です。分かっています」
そう言うと、アドレ君は、私を持ち上げた時と同様に防御壁の膜で包み込んだ私を、ドームの方までゆっくりと、慎重に運んでくれた。

アドレ君に優しく降ろして貰った白饅頭…いや…シャイア博士の身体の上は、マシュマロのように柔らかくて、そして、少しだけ暖かかった。

「じゃぁ、アドレ君。いってきます」

「はい。いってらっしゃい。僕はここで待っているので、帰る時は言ってくださいね…はむっ…くちゃっ…」
博士が用意してくれたのだろうか、見た事もない大きさの食べ物が、アドレ君の周囲をふわふわと浮いている。
そんな食べ物を嬉しそうに口へ運び始めたアドレ君にそう言うと、移動術式を使い、柔らかな脂肪に脚を取られ苦戦しながらも、建物の方へと歩き始めた。

同じ肉塊竜でも、太り方によって体型が違うのかしら…?
柔らかく、立ち止まったら沈み込んでしまいそうだけれど、私の身体の下に居る博士の…どの部位だろうか…は、張りがあって比較的歩きやすい。
もし、アドレ君の身体の上や、博士の隣に見えた一回り小さな肉饅頭の上を歩けと言われたら、あまりの柔らかさと、肉のヒダの多さに今以上に苦戦することになっていただろう。

「長い距離を歩かせてすまないね。それに、君は痩せているから、ここまでの移動中は寒かっただろう。ドームの中は暖房を掛けておいたから、積もる話はゆっくりと中でしようか」
ドームの目の前まで辿り着いた私へ、シャイア博士は相変わらず優し気な声色で話しかけてくれる。
凄まじい肉量を持っているのだから、博士は熱いだろうに…私の為を思って、熱いのを我慢して暖房を付けてくれたのだろうと思うと、博士には感謝の感情しか思い浮かべられない。

アドレ君の身体の上に乗せて貰って移動してきたと言う事は、実質上空200m付近を移動していたと言う訳で、アドレ君の分厚い脂肪と、防御壁越しでも少し寒いと思っていた私には、本当に有難かった。

「おじゃ…まします?」
建物なのだから、お邪魔しますなのだろうけど、外のシャイア博士と比べたら、私が今入ったドームは、まるでアクセサリーか何かにしか思えず、口ごもってしまう。

そして、ドームの中は、密室な上に暖房も掛かっており、先程まで地上から200メートルの高さを移動していたからか、少しばかり寒気を感じていた私にとって凄く有難かった。
しかし、それ以外は特に何か物が置いてあると言う訳でもなく、本当に何もない空間だった。

だが、その広さは、私が縦横無尽に走り回ったとしても余裕がありそうな程、広く、それでも、博士にとってこの程度の広さ、全身の一割にも満たないのだから、改めて、私の知っている竜と、この世界線の竜の体格差には驚かされる。

「あぁ、よく来たね。取り敢えず、ワインでも飲むかい?ベクタの良い奴を仕入れといたんだ」
そんな声がドームの下…ドームの中心に不自然に空いている深い深い穴の中から聞こえてきた。

どれくらい深いのだろう…十メートル…いや、もっとあるかしら…?
そんな深い穴の底から、陣術によって、拡声、調整された声が聞こえてくる。

もしかして、この深い穴の下に博士の顔が…ある…とか?
いや、恐らくそうなのだろう。
私だって、太っていくにつれて、首や頬だけでなく、首や肩の肉ですら盛り上がって、顔の中程まで肉が覆い隠してしまって自力では、周囲を見る事が出来ないのだから。
私の万倍…極限まで太ったこの世界の竜が、顔を埋め尽くしも尚、積み重なった脂肪が、顔の周辺に深い大穴を形成していても不思議ではないだろう。

「わぁ…ワイン…良いですね…!頂いても良いかしら?」
思えば、ルーク諸島を出てから、何故か周囲に止められて満足にお酒を飲めていなかった。
ご馳走して貰う立場で、少し食い気味かもしれないけれど、折角だし…

「ごく…ごくっ…けふっ…」
私は、差し出されたワインを味わって飲み終えると、その美味しさに喉を鳴らしながらお代わりを頂く。

「程々にしておきなさい…君は酒乱なんだから」
何杯目のワインだっただろうか…
ベクタ産のワインと言っていたが、その味はやっぱり私の知っている味とは違くて…
芳醇な香りと、適度に甘味と酸味が口に広がる…のど越しも爽やか…
少しばかりアルコールの度数が高い様に思えるけれど…この世界線の竜は…皆大きいから…度数が高くないと飲んだ気になれないのかしら…?

兎に角、飲んだ事の無い…こんなに美味しいの初めて…
そんなワインと一緒に出された肴…燻製されたハムやチーズ、そのどれもがほっぺが落ちそうな程に美味しいのに、その一つ一つが私の身体よりも大きいのだから…まるで、食べ物の天国に来たかのみたい…

あぁ…美味しい…ずっと食べてたいなぁ…
身体が火照って気持ち良くなってきたところで、お代わりを頼んだら、博士に止められてしまった。

「けふっ…え…そうだったかしら…?」
ぽかぽかとした頭で、博士の言葉を反芻する。

私が…酒乱?
そんなわけないじゃない…
だって…酔ったらぽかぽかとして…気持ち良くなって…まるで緩籠の中で微睡んでいるような感じになって…その内、意識が朦朧としてきて…

「ひっく…」
素敵な夢の中にいるかの様な気分になってるだけで、乱れてるつもりは無いのだから。

「まさか…気が付いてなかったのかい?まぁ、いいか。旅の疲れもあるのだろう…今は少し休みなさい。話はそれからにしよう」
その言葉を最後に、瞼が段々重くなってきて…

「うぅ…ふあぁ…」
どうやら、酔ったまま眠ってしまっていたらしい。
口から自然に漏れる欠伸を私は噛みしめながら、意識を徐々に覚醒させていく。

「はぁ…まったく。寝相の悪さは、幼い頃から相変わらずか…僕の頬肉は君の抱き枕じゃないのだけどね…」
反重力術式のおかげで、身体が軽くなっていたからか、眠っている間に博士の柔らかい肉の上で何度か寝返りをしていたのだろうか…

「私は…どのくらい寝てしまったのかしら…」
外で、アドレ君を待たせているので、あまり長居するわけにもいかない。

「一時間くらいかな?まぁ、外にいるアドレ君だったか…あの子なら今、イムルとご飯を食べているだろうから、後五時間くらいは待たせても大丈夫だと思うよ」

「え…イムルちゃん…!?イムルちゃんがいるんですか…だって…ジャコール帝国が…」
イムルちゃんの名前を聞いた時、私は思わず、口に出してしまった…

「え?ジャコールがどうしたのかい?あそこがイムルと何か関係があるのかい?幾らイムルが可愛いからってまだ、あそこへ嫁に出す予定はないのだけれど!?」
私の立っている、ぶよぶよの白い床が僅かに振動していた。
そんな事を言ったつもりはないのだが、親バカな博士は、早とちりして珍しく怒っているのかしら?
それでも、重過ぎる身体では、指先すらも動かせないといったところ…
寧ろ、アドレ君と比べたら一回り小さいとはいえ、3000万tはあるだろう巨体が揺れ動いてるってだけ、充分に凄いことだと思うけど…

「その…博士…少し変な事を話すのですが、落ち着いて聞いてもらっても良いでしょうか…?」
そう…私は博士に自分が違う世界線からここに来てしまった事を相談しに来たのだ。
普通の竜相手にこんな話をしたら、頭がおかしくなったと思われるだろうけれど…
陣術、理術共に詳しい彼ならば…

私は意を決すると、昨晩から今までの経緯と、私が考えていた推測を博士に伝えたのだった。

「ほぉほぉ…中々面白い話だね…うーん…そんな事が…」
私の伝えた事柄を頭の中で整理したり、自身の知識と照らし合わせているのだろうか。
シャイア博士は、何度も言葉にならない呟きを漏らしている。

こうなってしまった時の博士は、自分の中で納得できる答えが出るまで梃子でも動かない。
そんな、別な世界線でも変わらない博士の様子を懐かしみながら、私は待つことにした。

ワインは取り上げられちゃったけど、幸いなことに酒の肴は、食べきれない程残っている。
折角だから、食べられるだけ楽しみたい…!
そう思った私は、手始めに見上げるほど巨大なチーズへ飛び込み、本来なら2000t近い巨体で抱きしめながら、口いっぱいにチーズを噛みしめ始めたのだった。

「くっちゃ…げふっ…うぅーん!」
あまりの美味しさに、頬っぺたが落ちてしまいそう。
いや、もう膨れ上がって何倍にもなった私の頬は、その重さで垂れ下がっているのだけど…

その素材の良さを極限まで高めたハムにチーズ…
幾らでも食べられそうだけれど、やはり、この世界線の食べ物は大きすぎて半分も食べれらない。

でも…食べたい…
朝と同様に張り裂けそうに膨れ上がったお腹を少しでも楽にするために、私は術式からアスターゼ草を一房取り出すと、それを噛みしめ喉へと流す。

すると、自分の体高程に張っていたお腹が空気が抜けるみたいに萎んでいき、元の分厚い肉の段へと戻っていった。

凄い…
その効果は、私の知っている同じ物より、遥かに強烈で、まるで何か月…ずっと飢餓でいたかのような空腹感が私の胃を締め付ける。

お酒で少し酔いが回っていたのか、私は本能を丸出しにした獣の様に腹ペコを満たそうと、もう一度、目の前の半分ほど減っていたチーズへと齧り付き始めたのだった。
あっと言う間にチーズを食べ終えてしまった私は、切り返すようにハムへと齧りつき始める。

うぅ…美味しすぎる…じゅる…
チーズを食べ終わった時、既に私のお腹は、またはち切れそうなまでに膨れ上がっていたのだが、それでも、食欲は収まらない。
それどころか、食欲は増すばかりで一向に満たされなかった。

更に、私が胃へと食べ物を落とす傍から、消化が始まっているのか、張り詰めていたお腹が、徐々に萎んでいるようにも感じる。
口の中に溢れる涎は止まらないし、風船のように張っているお腹からは、空腹の音が止まらない。

それだけ、この世界線のアスターゼ草の効果が強いのだろう…
だとしたら、一房丸々食べたのは不味かったのではないかしら…

そんな不安に駆られるも、もう食欲は止められない。
私は、それから過ぎ去る時間も気にせずに博士が用意してくれた食べ物を貪り続けた。

「ぶひゅぅ…ぐぇっぷ…けふっ…もう…食べられないわ…うぅ…」
そうして、草の効果が切れた私は、もう一口も食べられないと随分と重くなった身体を俯せに倒して荒い息を吐いていた。

きっと、今の私の体重は凄いことになっているのだろう。
だって、自分の体積よりも大きく、そして重いだろう食べ物をたっぷりと胃に押し込んだのだから。

今だって、限界まで重力制御をしているのに、眼鏡の端に写る私の体重は、502tと表示されている。
今朝、初めて反重力術式を使った時は、殆どゼロだった数値がこんなにも増えているのだ。
もし、重力制御を解除したら、ステータスに恐ろしい数値が出ているに違いない。

「まぁ…いいかぁ…」
満腹の心地良さで微睡みながら、私は呟く。
だって、多少太っても、この世界線の竜に比べたら、私の身体なんてまだまだ痩せてて美竜なわけだし…

最初にここに来た時、堅物の博士が少しだけ恥ずかしそうに、私に向けて言っていた痩せてて美竜って言葉を思い出すと…元居た世界線では絶対に言われる事が無いだろうその言葉に、嬉しくて、ついにやけてしまう。

「まだ、博士は考え中なのかしら」
あれから、陣術にも声は入ってこないし、恐らくまだ色々と自分の中で答えを探しているのだろう。

時間が掛かるのなら、またアスターゼ草を使って、もう一度食事を楽しもうと思ったけれど…
もし、食べてる最中に博士が話しかけてきたら、あの空腹感の中で真面な会話は出来ないだろうと、私は我慢することにして、柔らかな博士の顔の何処かの肉の上で微睡みながら待つことにした。

「くっちゃっ…あぁ…ネージュさぁん…ぐぇぇっぷ…おひさじぶりですぅ…うっぷ…あ…もぐ…ずみません…もぐ…調整…じまずねぇ…けふ…」
微睡んでいた私の陣術に声が届く。

誰かしら…?
聞いたことの無い声。
雌竜特有の高い声を極限まで太くしたらこうなるであろう…そんな声。
私の声帯も、脂肪で狭められ、陣術の補助が無いと聴き取りにくいとは言われるが、今聞いた声は、そんな私の声よりも更に太く、間延びし、正直殆ど聞き取れない。

「あ、これでどうでしょうか…?ネージュさんお久し振りです」
暫く間を置いた後、聞こえてきたのは、驚くことにイムルちゃんの声だった。
更に驚くことに、声が聞こえたのと同時にドームの壁一面に彼女の顔が映し出されている。

この壁…ディスプレイの役割もあるのね…
あの、シャイア博士が用意した建物なのだから、ただの建物ではないだろうとは思っていたけれど…

「あ…イムルちゃん…お久しぶりね。元気そうで嬉しいわ…それより、この画面に映ってるイムルちゃんの顔って…本当に貴女の顔…なのかしら…?」
そんな事より、目の前の壁一面に表示されたイムルちゃんの顔のあまりの大きさ…
それを見た私は、こんな聞き方、正直失礼だろうとは思うのだけれど…驚きと好奇心のあまり口に出してしまった…

「え…?そうですけど…あ!このディスプレイって凄いんです!恥ずかしい話なのですが…お父さんが本当に私と会っているみたいに話せるようにって開発してくれて…」
どうやら、子煩悩なシャイア博士が、可愛い娘の顔をいつでも間近で見られるようにと作った物らしい。
尤も、肝心のシャイア博士の顔だって埋もれているし、陣術を使えば顔も見られるでしょうに…
やっぱり愛しい一人娘を大画面で見られるというのは…親として嬉しい事なのだろうか…?

そにしても、このドームの壁一面に写り切らない顔が全部イムルちゃんのものだなんて、信じられない。

だって、私の知るイムルちゃんは…もっと小さくて…小動物みたいな可愛さがあって…
決して、頬や顎なのかも分からない肉だけで、私の全身よりも大きな肉塊竜では無かったのだから。

いや、だが、ここは全ての竜が、私の居た世界線の数千万倍肥え太っている世界線。
成竜顔負けなくらい聡明なイムルちゃんだって例外ではないのだろう。

それにしても…盛り上がった顔中の肉が、画面を埋め尽くさんばかりで…
画面越しでは、距離感が掴みにくいけど、盛り上がった肉は、5m以上の深い穴になってイムルちゃんの顔を埋めてしまっている。

その埋もれた顔は、私の知るイムルちゃんの面影が残されていて、雌の仔竜らしさのある愛嬌のある可愛い顔だと思う。
だが、ぱっちりとして丸い灰色の瞳は頬の肉に持ち上げられ、視界の大半を塞いでしまっているし、元の小さいな可愛らしい口は、盛り上がった頬や顎だけでなく、首の肉までもが覆い隠し、陣術の補助なしでは、満足に開閉も出来ないのではないか…
そんな、顔を塞いでいる肉で最も大きな頬肉は、片頬の肉量だけで、間違いなく今の私の何倍も重いだろう…

顔だけでこんなに巨大ならば…全身はどれほどまでに大きいのだろうか…
私がシャイア博士の元に到着した時、博士の隣に見えた二回りほど小さな白饅頭は…間違いなく、イムルちゃんの身体だろう…

その見た目から考えられるイムルちゃんの重さは…恐らく…1000万t以上の大質量。
それだけ巨大なのだから、親と子のスキンシップだって、膨れ上がった脇腹を擦り合わせたりだとか、陣術越しでの会話ぐらいしか取れないのだろうか…

それでも…この世界線の平均から考えれば、きっとイムルちゃんは痩せている方なのだろう。
しかし、元の華奢なイムルちゃんを知るだけに、私は驚きを隠せなかった。

「そう言えば…ネージュさん。ご両親は、お元気にしてますか?」
驚いている私に、イムルちゃんは更に驚愕の言葉を投げかけてきたのだ。

「え…?」
両親は…私が学生だった時に…
それは、イムルちゃんも知っているだろうに、何でこんなことを聞くのだろうか…?

「確か…ご両親が、もうベクタ大陸からの移動もままならないから、代わりにネージュさんがバルハラントまで遥々やってくるのだと…お父さんから聞いたのですけど…」
両親が…生きてる…?
呆然としたまま、声が出ない私へ、イムルちゃんは話を続ける。

「そう言えば、ネージュさんがバルハラントを離れる事になったのも、確かご両親が大きくなりすぎて、ニュー・メガフロート・ドレイクに入りきらなくなってしまったからですものね…」

「そ…そうだったかしら…」
いや…ここは、別の世界線…
そうなると、もしかしたら…過去にあった事故もなく、両親が生きている可能性だって…!

「待たせちゃって悪いね…それと、イムル。少しだけ席を外して貰ってもいいかい…?ネージュ君と二人で話をしないといけないからね」
私が、その可能性に思い至った時、陣術にシャイア博士の声が響く。

「ごめんね…イムルちゃん。後で、ゆっくりと食事でもしながらお話ししましょう?」
久し振りに会えたイムルちゃんとは、私もゆっくり話がしたかったのだけれど、今は、目の前の起きている事象の手掛かりが少しでも欲しかった。

「はーい…」
残念そうな声と共にイムルちゃんの接続が途絶える。

「さて、早速本題に入ろうか…まったく、ネージュ君は凄い状況の中にいるみたいだね。それでだけど…結論から言うと、残念だが君は、もう、元の世界線には帰れない…だろうね…」

「やっぱり…」
驚きはするが…そんな可能性は…私も予測していたので、比較的に少ない衝撃で済んだ。

「まず、帰るためには…恐らく暴走しているのであろう理術を止めなければならない。そして、それは…悔しいけれど…今の文明レベルでは不可能な事…」

万物の理を統べる術式相手に、今の竜の技術力でどうこう出来るわけがない…
半ば諦めには近かったが、研究者としての自分の思考だけでなく、シャイア博士までもが、不可能と言っているのだから…無理なのだろう…

「何故、君の世界線のレテとプランタンの行った、多次元変更術式の起動実験の結果が、今更、ネージュ君に影響を及ぼしたのかは、不明だけれど…」
私の母と父の名前を出したシャイア博士は、言葉を選んでいるのだろうか、一度言葉を区切る。

「どちらにせよ、帰れる可能性が殆ど無いのなら、この世界線に順応するのが一番だと思うよ。それで、君はこれからどうするつもりなんだい?まぁ…君が良ければだけれど、全て変わってしまった外の世界が怖いと言うののなら、この研究所で暮らしてくれても構わないのだけど…」
見知らぬ世界が怖いのならば、ここで暮らしても良い…博士はそう言ってくれる。
でも、強制ではなく、あくまで私の意思を尊重してくれるようだ。

だけど、元の世界に帰れないと薄々勘付いてしまった時から、私の意思は決まっていた。

「父と母の所へ帰ります…やっぱり…生きている両親に会いたいので…」
私は、元々住んでいたベクタへと帰る事を伝えた。

「そうかい…それなら、少し、お互いの常識を擦り合わせておくべきだね」
シャイア博士と互いの世界線の相違を照らし合わせた結果、多少の過去の改変はあれ、それも殆ど些細な事柄である事が分かった。

もう知っている事も中にはあったけど、この世界の全ての物は大きく、栄養価も高い、更に陣術回路も、元居た世界に比べると、天と地の差程に発展していると言う事。

この世界線では、過去に多次元変更術式の実験など行われておらず、両親が生きていると言う事。

そして、周囲の私の扱いが、世界一太っている竜から、世界一痩せている竜へと置き換わっているという事だった。

悪い話ばかりではない。
シャイア博士と話している内にそう思えてきた。

ふと、過去が変わっているのならばと、私は陣術の通信画面を見てみると、そこには両親の名前が表示されていた…

「あの…博士…少しだけお時間宜しいですか…?」

「ああ、いいとも。僕の事は気にしなくていいから、ゆっくりと話してきなさい」
博士に了承を得た私は、早速両親へ通信を入れてみる。
しかし、二人とも応じてはくれなかった。

「あぁ…恐らく、食事中で出れないのだろうね。この世界線のベクタで暮らしている竜とは、そういう生き物だから」
幾ら食事に夢中だからって、一人娘の通信ぐらいは出て欲しい。
そんなの、食事の片手間にだって出来るでしょうに…

「博士…今すぐベクタへ帰るための方法って何かありませんか…」
高速飛行艇、陣機関鉄道…この世界の竜に合わせて大きくなっているであろう、それらならば、私の身体だって優々と乗せて飛ぶことも出来るのでは…?

帰ってきて、早々に帰るなんて…とも思うだろうけれど、私が帰郷した理由だって、両親との思い出を感じられる故郷を一目見ておきたかったから。

両親が生きているのならば、今すぐにだって会いたい…
そんな気持ちが、物凄い勢いで強くなっていく。

「気持ちはわかるけれど、この世界で、まだ使われている乗り物は、もうゴディヴァくらいしか残っていないんだよ…早くても、ゴディヴァがバルハラントへ来航するのは、どれ程だろうか…下手をしたら、ずっと長い間来れない可能性も…」

「え…それなら、陣機関鉄道や、高速飛行艇は…?陣術と同様、この世界の巨大な竜に耐えられる様に発展していた筈では…?そんなに長い間…我慢しろなんて…私には出来ません…」

「あぁ…君の居た世界線と比べたら発展していたのは…その通りなんだが…もう随分と昔の話になるけど…あまりにも竜が重くなりすぎて…そんな小さな乗り物は…もう廃れてしまったんだよ…」


6、メガフロート・ドレイク << BACK / >◆7、史上最も軽かった竜  / NEXT >> 8、ニュー・メガフロート・ドレイク