カーザ・ミーア
8、ニュー・メガフロート・ドレイク
あれから、博士に色々と聞いては見たものの、他に方法はなく、私は仕方なく、ゴディヴァが来るのを待つ事になったのだった。
しかし、ゴディヴァがもう一度、ここに来るのはまだまだ時間が掛かるらしく、下手したらもう来れない可能性もあると、シャイア博士は言っていた。
何故なら、オーナーを含めた乗員全員が太りすぎ、重過ぎで、元の世界線よりも強力になり、それこそ出力だけならば、理術と大差がない程に性能の上がった陣術でも、彼らを纏めて乗せて運ぶのは困難だから…
日々体重を増やす乗員の重さで飛行できなくなる度に停泊し、改築を繰り返した結果、ゴディヴァは既に幾つもの大陸を集めたよりも面積が広くなっているらしい。
飛ぶための出力は理術回路が何とかしてくれても、それを支える機体がいつまで耐えられるか分からない…
それ故に、またいつドレイクへと帰ってくるのかは、不明…
それどころか、重過ぎて飛行が困難になり、来れない可能性すらあるらしい…
やっと生きている両親にまた会えるのに、ベクタまでの移動の術がないだなんて…
そう、私は、落ち込みながらシャイア博士のドームから外へと出ていく。
「おかえりなさい。ネージュさん。少し…落ち込んでいるように見えますが、大丈夫ですか?」
「うん…心配させちゃってごめんね…」
そんな心配してくれている、アドレ君の声も頭に入ってこない。
私は、うわの空で、返事を返す。
「うーん…何か食べに行きますか?落ち込んでいる時は美味しい物を食べるのが一番だって言いますしね。僕が、お腹減っちゃって何か食べたいってのもありますけど…」
私を待っている間、ずっと何かを食べていたのだろう、アドレ君の分厚い肉の段には大量の包みや、空になった大鍋が転がっている。
その空になった容器の一つで、私よりもずっと大きいのに、彼はまだ食べ足りないのだろうか…
「そうね…何か食べに行きましょうか…!待ってくれたお礼にアドレ君にご馳走しちゃおうかしら?」
「え…そんな…悪いですよ…!僕が食べる分は自分で出しますから…ネージュさんに比べると…僕って大食いですし…」
この世界線にやってきた当初こそ、彼の見た目に驚いてしまったけど…
こうして、私の事を気にかけ、どこまでも優し気に微笑んでくれる彼の心は、この世界線でも変わっていなかった。
「遠慮しないで。私だけ沢山食べるのも悪いから…」
私は彼の大きな体に抱き寄せて貰うと、大海原を埋め尽くす巨大人工島を移動していく。
こうして、私達はこの世界のレストランに辿り着く。
「これに食べたい料理を頼めばいいのかしら…?」
「そうですよ。あぁ、ネージュさんには一番小さなサイズをおすすめしておきます」
当然のことだけど、この世界の肉塊竜が建物に入れるわけがなく、レストランと言っても、広々とした人工島に漂っている丸い機械…サポーターと言う物らしいが、それに注文を伝えて料理を運んで貰うらしい。
とは言っても、そもそも広場に入れる小ささの肉塊竜自体が少なく、そんな竜でさえ、動くのは面倒だからと、レストランを利用せず、巨体を鎮座させ、広がり続ける人工島に寝転がりながら、数十基ものサポーターを用いて料理を宅配して貰うらしい。
その為か、このレストランに居るのも、私とアドレ君の二人だけだった。
「うーん…!良い匂いね…じゃあ…早速…」
とても楽な事に、サポーターは料理を運んできてくれるだけでなく、料理を食べやすい感覚で運んでもくれるみたいだ。
勿論、料理の味も、とても美味しかった。
例えるならば、元の世界線のベクタ一と言われたレストランの最高店で最高の品を食べているかのよう。
「はむっ…くちゃ…ねぇ、アドレ君。このお店って…けふっ…凄い高級店だったりするのかしら?」
「げふっ…いえ…何処にでもある普通のお店ですが…そんなに美味しかったですか?」
「え…そうなの…この味が…何処でも…」
この世界の料理のレベルの高さに思わず、息をのんでしまう。
「うぷっ…思ったよりも食べられないものね…」
アドレ君のアドバイス通りに一番小さいサイズ…
恥ずかしながら、この世界線で仔竜向けと表示されていた物を頼んでおいたのだけれど、それを七割程食べた辺りで、私の胃袋は限界を迎えてしまった。
残すのは勿体無いけれど…
アスターゼ草を何度か使っても、食べきれない量に私の手が止まっていた時。
「あぁ、ネージュさんは小食ですからね。無理そうなら僕が頂いても?」
アドレ君が、私の様子を見て助け舟を出してくれた。
「じゃぁ…悪いけど…いいかな?」
そう言うと、私は陣術を使って、料理を自身の頭上にあるアドレ君の顔へ向かって飛ばす。
「いえいえ、もっと食べたいと思っていたところなので」
受け取った料理を…私だったら何十口も掛かるだろうその量を、アドレ君は一口で食べきってしまっていたのだった。
その後、まだ食べ足りなさそうにしていたアドレ君が満腹になるまで、彼に食事を奢った後、パツパツに蛇腹の境が弾けそうになっているアドレ君の暖かなお腹に揺られながら、彼が用意してくれた人工島に二人で滞在することになった。
その次の日も、更に次の週も、もしかしたら二度と両親の元へ帰れないかもと落ち込んでいた私だったけれど、美味しすぎる料理の連続と、アドレ君が、私の心を十分すぎるくらい支えてくれたのだった。
それから長い間、ドレイクでの生活が続いていた、ある日の事。
「げふっ…うーん…あど…ずごじなんだげどぉ…」
私は大きなおくびを漏らしながら、食事を片手に陣術回路を弄っていた。
最近、陣術の助けを借りても声がくぐもってしまう。
毎日、朝起きたら声帯を自動的に調整するように回路を組んだつもりなのになぁ…
術式の符号や回路を見直すべきかしら…
まぁ…いいか…面倒くさいし。
そんな事よりも、私は、この世界の陣術回路を理解するので忙しいのだから…
この世界線に来てから、今まで私が使っていた陣術よりも、この世界線の陣術の方が大きく発展しているというのには、直ぐに気が付いたのだが、その術式を調べている内、この世界の術式も完璧でないことが分かったのだ。
「少し…ぶごうや…げふっ…ぐえっぷ!ふぅ…がいろの繋ぎが…あまいのよねぇ…けふっ」
この世界の陣術は、出力や範囲を、回路自体の大きさで補っているのだが、回路に組み込まれた符号の繋ぎ方までは、私の居た世界線と比べて随分と未発達だったのだ。
これでは…例えるのなら、大量かつ大型の推進剤を同時に噴射してロケットを飛ばしているようなものだろう。
だけれど、もしこれが、幾つもの間隔に分けて推進剤を噴出したのであれば、その発射距離は長く、より長時間の使用が可能になる…かもしれない。
幸い、肝心の推進剤の役割をしている、陣術回路は無尽蔵と言えるほどに巨大化出来るらしいから、その燃費さえ改善すれば…とは思うのだけれど…
その回路の接続を正すためには、まずは回路全体の把握が必要…
そんな、自分の知らない陣術の組み方に心を躍らせながらも、私は、難解なこの世界の術式に頭を悩ませながら、ゴディヴァの再来航を待っていたのだった。
「ふぅ…それにしても…なるべく早く来てくれると嬉しいのだけれど…」
陣術を解析する片手間で、声帯術式の調整をした私は、声の確認がてら誰に向けるでもなく思っていた事を声を出した。
ナイルさんには、ここに来た初日にアドレ君が連絡を入れてはくれたのだけれど…
この世界線の竜は、何事も…よく言えばマイペース、悪く言えば行動が遅い。
元の世界線で、ベクタにて長い月日を過ごし、充分にそんな怠け切った竜達の中、染まり切った私から見ても…本当にこの世界線の竜は、ゆっくりとしていた。
そう言う訳で、暇つぶしも兼て陣術回路を調べまくっているのだが、それも、随分と長い月日が経っている。
その間、毎日美味しい料理と、存分に私の生活を補助してくれるサポーターのお陰で、私は体重は…28527tにもなっていた…
元の体重の十倍以上…
それも、元の世界世界線なら一番に太っていた竜が、それなりに長い間とは言え、更に体重を十倍に増えてしまっていたのだ。
長いと言っても、仔竜が成竜になるような長い月日でもない期間で、これ程の増量は…と元の世界線なら驚いていただろうが、この世界では、その程度の増量など、増量の内にも入らないらしい。
実際、最近教えて貰った、アドレ君の体重は4500万t…
この期間で、300万tも増えているのだから、私の増量など誤差みたいなものだろう。
「ネージュさん。そろそろ食事にいきませんか?久し振りにバルハラントの郷土料理が食べたくって…」
何と言うか、この世界の竜は、食事の合間に食事をするという…
流石の私でも、少し理解できない行動原理をしていた。
食べに行きましょうとアドレ君は、言っているけど、その口には、サポーターが運んでくれた料理が溢れんばかりに詰め込まれている。
だけれど、今食事しているのに食事に行くのと聞くのは、この世界では野暮と言うもの。
だって、これは、仕事の合間に休憩をするみたいな、気分転換なのだから。
「えぇ…!私も丁度、海の幸が食べたいって思っていたところだから、行きましょうか」
私が賛成すると、アドレ君はいつもそうしてくれる様に、少しだけ大きくなった私の身体を防御壁の膜で包むと、自身の柔らかな胸の間に私を包み込んでくれた。
「私…ちょっと重くなってないかしら…?」
気持ち、最初よりも、深く胸に沈み込んでいるように感じた私は、アドレ君に問いかける。
アドレ君の胸の間に挟まれて運ばれるのには、もう慣れたけど…
私の身体が、アドレ君に重いって思われていたら、嫌だな…
「たった、2万tしか無いのに気にしないでください。寧ろ、前のネージュさんは…失礼かもしれませんが、痩せすぎで…風が吹けば飛んで行ってしまいそうでしたので…今の方がずっと健康的ですし、ちゃんと食事をしてくれているみたいで良かったです」
「そうかしら…それなら良いのだけど…」
風が吹けば飛びそう何て…生まれて初めて言われた。
そんな彼の言葉に、嬉しさでつい顔が赤くなってしまう。
「それにしても…」
私の身体が安定していることを確認したアドレ君は、移動術式を起動させ、轟音を響かせながら移動を始めると、ぼそりと呟く。
「毎回、ネージュさんを持ち上げるのは、少々手間で…いっそ、僕の身体の上で過ごしてはどうです?」
「え…まぁ…確かにそっちの方が楽だし…アドレ君の身体の上は暖かいから…」
「ふふっ…冗談ですよ。流石にネージュさんの様な綺麗な竜にこんな事を言うのは失礼でしたね」
「え…そう…全然失礼じゃないから大丈夫…よ…」
私としては、本気で彼の提案に乗ろうとしていたのだけれど…
それは…雄竜の身体の上で、雌である私が過ごすなんて…とは思うけど…
アドレ君の上で、生活をしている自分の姿を想像していたら、思わず顔が火照ってしまう。
体高200mを越えた彼の身体の上は、冷たい風が吹いていて寒い筈なのに…身体中が熱くて仕方がなかった。
「お待たせしました。到着です」
私が、色々と熱くなっている間に行きつけのレストランに到着していたようだ。
相変わらず、レストランと言っても、無数のサポーターが飛んでいるだけで、店員の姿なんて一人も居ない場所ではあるけど。
「いただきます」
私は、目の前に浮いている料理を口に運んで貰い始める。
相変わらず、美味しい…
来る客が、飽きない様に毎日味を変えているのかしら…
それに、美味しさの秘訣はもう一つあった。
それは、ここはベクタでも無いのに、料理にはメートルアグの実や、テオブロマデーツの実がふんだんに使われているようだ。
この世界線の竜は、あまりにも大きすぎる分、身体を維持するために必要な栄養も沢山必要になるから、栄養価の高いそれらの食材が使われているのかしら…?
「ふぅ…」
もう、5000トン分の料理を食べただろうか?
元の自分の体重の二倍程の量を食べた辺りで、少しだけ腹回りが苦しくなってきた。
そんな私の身体を乗せているアドレ君は、何万、何十万トンもの料理を次から次へと食べている。
それだけの量を食べ続ければ、体重4500万tにもなる彼のお腹もゆっくりと膨れ、驚くことに彼の身体の上に乗っている私の身体が、ゆっくりと持ち上げられる感覚すら伝わってくるのだ。
そんな彼の膨れる蛇腹を感じていると、ついつい私も食べ過ぎてしまう。
今だって、アスターゼ草を数束取り出して口に詰め込んでは、新たに運んで貰った料理を頬張っているのだから。
「げふっ…アドレ君は…お肉が好きなのかしら…?」
二万トン程の料理を食べ終えた私は、アスターゼ草を一つ口に運びながらアドレ君に問いかける。
先程から、アドレ君の頼んでいる料理は、肉料理ばっかりだ。
そう言えば、元の世界線のアドレ君も肉料理が好きだったような気がする。
もう戻れないのだから、元の世界線の事はあまり考えない事だよ。
思い出すだけ辛くなるだろうからね。
今の事を大事に考えなさい…とは言っても、辛いときは、いつでも言って良いのだからね。
そう、少し前にシャイア博士が私に言ってくれた言葉を思い出す。
確かに…元の世界線にはもう戻れないのだから…考えても寂しくなるけれど…
それでも、元の世界線と同じだった場所を思い出すと、つい懐かしんでしまう。
「はい…くちゃ…もぐっ…大好きです…!航空中は中々食べられませんしね…げふっ…失礼…」
元の世界線の彼も同様の事を言っていた。
やっぱり、体型は違くとも…アドレ君は、アドレ君なんだと…私は思う。
「そう言う、ネージュさんもデザートがお好きなんですか?」
陣術を使って、私の周囲を飛んでいたサポーターが運んでいる沢山のデザートを見たのだろうか。
アドレ君の問いかけに、当然よ、と反射的に頷こうとしてしてしまったが、当初の十倍以上に膨れ上がった私の顔中の肉は、頷くどころか、微動だにも出来ず、それどころか、首だか、胸だかの肉が盛り上がって、私の視界を全て埋め尽くしてしまっている。
昔ならば、目上に向ければ、まだ空が見えただろうに、今の私が目線をあげても、垂れ下がった後頭部の肉や、積み上がった頬の肉しか見る事が出来なくなっていた。
「うん!大好き…お酒に漬け込んだメートルアグの実が…口の中で蕩けるが…とても好きで…幾らでも食べられちゃいそう…」
体重こそ、まだまだ軽いけれど、シルエットだけならば着実に、この世界の竜と変わらなくなっているだろうけれど、そんな事は、もう気にならなかった。
だって…こんなに美味しい物を、好きなだけ食べられるのだから…
それだけじゃない…
体型だって、周りが太り過ぎているのもあるけれど…気にしなくていい。
仮に太っていても、皆、そんな体型を気にしていないのだから…
もう…元の世界に帰る必要なんて無いのかしらね…
だって…この世界は陣術を始めとした技術が発展しているし…
だから、どんなに太ったとしても、誰の迷惑にもならない…
国同士のいざこざもなければ、そのおかげで、イムルちゃんも博士と幸せそうに暮らしている。
まだ会えていないけれど、両親だって生きている…
そう思うと、この世界は…とても素敵なのかもしれないなって…
私は、そんな事を考えながら、アスターゼ草の効果ですっきりとしてきた胃に甘くて美味しいデザートを詰め込むのを再会したのだった。
それから、気が付けば、更に月日が経過していたようだ。
なんだか、周囲の竜たちがマイペース過ぎるのか、私まで時間の間隔が曖昧になっしまったのかしら。
以前、アドレ君と食事を楽しんでいる中で、元の世界へと帰る事を諦めてから、随分と軽くなっていた私の心とは裏腹に、身体の方は、みるみると重くなっていた。
「げふっ…おがわりぃ…ふぅ…ぐぇっふ…」
すっかり声帯を補正することも忘れていた私は、今日、500万トン目になる料理を口に運ぶ。
でも、時間は、まだ昼前、まだまだ時間は沢山あるので、今日も沢山食べるつもり。
だって、こんなに美味しいんだもの。
そんな私に、アドレ君は、ネージュさんは痩せているのに、よく食べますねと嬉しそうに笑いかけてくれる。
「はむっ…ぐっちゃ…ごくっ…」
全然…足りない…
お腹が空いてしまってどうしようもないのだ。
満腹になる度に、アスターゼ草を口に含んでは、空腹感を満たそうと新たな料理を口へ運ぶ。
満たされた時の快感は…言葉では表せない。
そんな事を繰り返していたからか、空腹が止まらなくなっている気がするけれど、空腹は最大のスパイスと言うだけあって、口の中に溢れた涎と一緒に料理を呑み込むと、言いようのない幸福感が私を包んでくれる。
そんな毎日に、気が付けば、私の体重は900万tにもなっていた。
それだけ、急に体重が増えれば、アドレ君にも心配されるだろうなって思ったけれど…
そんな事は無かった。
だって、私が太っている間も、周囲の竜たちも成長しているのだから…
私は、この世界線で最も痩せている竜なのだから…
それこそ、一般的な仔竜の中でも痩せているイムルちゃんよりも、私の身体は軽いのだから…
高々、900万t少しなんて、この世界の竜に心配されるほどの増量では無かった。
今も、私の身体を乗せているアドレ君が少しだけ、私の事を重そうに感じていだろう時はあるけれど、私の重さなんて、彼の五分の一以下…
降りようかと私が問いかけるも、まだまだ余裕ですからとアドレ君は笑って、その柔らかく暖かなお腹の上に、私を乗せてくれている。
少し前に、アドレ君に冗談っぽく言われた、僕の身体の上で生活してはと言われたのを、ここまで重くなっては、陣術で浮き上がらせるも困難だろうからと、私は尤もらしい理由を付けて、本当に彼の身体の上で生活させて貰っている。
アドレ君のお腹の上は…とても暖かくて…柔らかくて…
そして、彼が食事をする度、料理の匂いが漂ってきて、私までお腹が空いてきてしまう。
そんな食事をする彼のお腹が膨れる度に、私の身体が彼のお腹に押し上げられて、その時の揺れが心地良い。
ゆっくりと眠った後に、自分がまだ彼のお腹の上で寝ているって実感できるのも…とても安心する。
そんなアドレ君の上で、むくむくと膨れ上がっていく私の身体は、胃に入れた直後に消化が始まってしまう為、近くの自分の肉に埋もれていたサポーターへ、またお代わりを頼もうとしたその時だった。
大きな…とても大きな黒い影…
そんな影が、空を覆い隠していく。
それは、毎日巨大に成長している竜に合わせて、増築され続けているニュー・メガフロート・ドレイクを埋め尽くすほど大きくて…
「あ…ネージュさん!ゴディヴァですよ…!思っていたよりも早く来てくれたのでしょうか…」
アドレ君が、陣術越しに私に話しかける。
そう、この大陸を幾つも繋げた面積よりも広大な人工島を埋め尽くす巨大な影は、予定よりも早く来てくれた、空飛ぶ巨大商業都市ゴディヴァだったのである。
「これから、ゴディヴァに乗船するのですが、準備は大丈夫ですか?」
「えぇ。大丈夫よ」
準備と言っても、食べ物は充分にあるし、特にないから大丈夫。
そう、彼に私が了承した時だった。
ふわり…
「えっ!?何よこれ!?」
まるで、身体の重さが無くなったかのような感覚と共に、私の身体が中へとゆっくりと浮き上がり始めたのだ。
「あぁ、安心してください。そのまま、身体を楽にしていれば、直ぐに着きますから」
驚く私を安心させようと、アドレ君は優し気に声を掛けてくれる。
だけど、あれだけ重かった身体が、まるで風船が中に昇っていくかのように浮いていくのだから、落ち着けという方が無理である。
でも、ゆっくりと浮かび上がっていく私の身体は、まもなく、ゴディヴァ甲板らしき…いや…あれは、恐らくナイルさんの身体だろうか…薄オレンジ色の柔らかい場所に着地する。
「おかえりなさいませ!エトワールさん!」
そう私の陣術に会話をしてきたのは、ナイルさんの声だった。
「お久し振りですナイルさん。予定より早めに来てくれたそうで…急いで来て下さりありがとうございます」
陣術によって表示された画面越しに見える、ナイルさんの顔を見ながら私は、お礼を告げる。
もう、その顔は…本当に顔なのかしら…
そう思ってしまう程に、どこもかしこも膨れ垂れた柔らかそうな肉が覆っていて、そんな肉に顔が覆い潰されない様に、ナイルさんは、顔に幾つもの首輪だろうか…頑丈そうなフレームで垂れ下がる肉を押し留めていた。
「ではでは…エトワールさんが宜しければ、食事にしましょうか?ま、私が食べたいというのが一番ですがね」
そう、ナイルさんが笑いながら料理の手配をサポーターに頼み始めていた。
私は、彼の用意してくれた食べきれない程の料理を、少しずつ口へと運んで貰いながら、陣術を使って、ゴディヴァ全体を見渡している。
船に乗っているのは…ナイルさんと…私に付いてきてくれているアドレ君、そして私だけ。
他の乗組員はどうしたのだろうか…?
「あの…けふぅ…ナイルさん。他の船員さん達って、どうしたのですか?」
「あぁ、他の船員なら、降ろしてきたのですよ。なんせ、エトワールさんの頼みですからね。少しでも船を軽くして、早く飛ばそうと思いましてね」
「色々と、お手数をおかけしてしまって…ありがとうございます」
船を軽くする為、降ろしてきたのね…
私は、納得しながらも、船全体をもう一度見渡す。
そこに写るのは、どこまでも…船の端まで広がったナイルさんの肉の山…
最早、船全体が、彼の身体と言った感じだった。
そんな、ナイルさんの上で一緒に食事をしているアドレ君の4500万tの巨体が、ナイルさんの身体の前では…蟻んこにしか見えない…それなら、私はミジンコか…
もう、蛇腹の節目すら見えない程に垂れ下がって積み重なる、ナイルさんのお腹…
その大きさだけで、この世界線のバルハラント諸島全てを包み込めそうな程…
失礼だろうけれど…ナイルさんの体重ってどれ程なのかしら…
そんな、信じられない巨体を目にしながらも、随分と肉塊竜への耐性が付いていた私は、陣術を起動して、こっそりとナイルさんの体重を調べてみる。
その画面に表示されていたのは…見た事もない桁…
425兆tと言う、莫大なまでの数値だった。
もう肉が多すぎて…四肢を始めとした、身体の出っ張りが全て失われている。
その姿は…失礼だけど…竜と言うよりも、小さい頃に両親と一緒に見たSF
映画に出てくる、星を覆い隠し侵略する巨大なスライムのようだった…
「いやはや、船が軽いだけあって、飛行速度が早くていいですな。この調子ならば、予定よりもずっと早くベクタまで到着しそうですよ」
そう、広域回線で繋いだ陣術でナイルさんは、私とアドレ君に語りかける。
「降りて貰った船員さんには…悪いですけど…早く着けそうで嬉しいです…」
嬉しそうに言うナイルさんとは、裏腹に、船の飛行速度は、亀が歩く速度の如く遅かった。
でも、帰れるかどうかという時に比べたら、無事にベクタへ向かい始めたのだから、どんなにゆっくりとでも、進んでいるだけ良いだろう。
私は、自分に言い聞かせると、ナイルさんが提供してくれた料理をお代わりしながら、その食べたことない美味しさに舌鼓を打つのだった。
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