• sub menu
  • fiction title
  • page
  1. Home>
  2. その他>
  3. 小説>
  4. カーザ・ミーア

カーザ・ミーア

9、ゴディヴァ再び

出される料理は、どれも食べた事無い程に美味しい。
船に搭載された理術によって、甲板の上は暑さ寒さもなく、ついでにナイルさんの柔らかなお腹が、巨大なウォーターベッドのように暖かく包み込んでくれる。

これ以上無いくらい、順調で快適な船旅だった。

「はっはっは。喜んで頂けて光栄です。つい最近、また商売で一山当てた物でしてね、今出している料理も、ベクタの素材を惜しげも無く使っていましてね…」
美味しい食事のお礼を伝えると、ナイルさんは嬉しそうに笑いながら、今まで行ってきた商売の内容を楽しそうに語ってくれた。

その商売のお話に出てくる金額と言ったら、それなりに研究で稼いでいた私が聞いてもビックリとする程で、この世の全ての富を?き集めたかのような金額であった。

そんな莫大な富を使って、ナイルさんは、陣術回路や理術回路を買いあさり、船を自分たちだけの楽園と言っても良い程までに過ごしやすく作り変えていたようだ。

その陣術や理術によって、ゴディヴァは、売買の場だけでなく、自ら新たな品を作るためのプラント…その多くが食品関係を作る施設だそうだが…自身のどこまでも広がり続ける蛇腹の段毎に農場や牧場と言った場所を作ってしまったそうだ。

「これは…凄いですね…」
そんな彼の食料プラントを見せて貰っていると、私の口からは驚きの言葉が自然と漏れてしまう。

何故なら、私の知る農業技術よりも数段先を行く技術力…
彼の蛇腹に広がるメートルアグの木々は、元居た世界線のメートルアグ大森林を思い出させるほどに広大で、木々と一緒に育てられている家畜達も、肥満に極限までの耐性のある竜ならば兎も角、普通の生き物を肥やす事が出来るだなんて…

丸々とした家畜は、鶏の類でさえ、この世界線に来たばかりの私の体重と大差ない程の体重をしているのだから…
この世界線の技術力には、心底恐れ入る。

「私の船も中々でしょう?でも、ベクタはこれよりも凄いのですよ…おっと…ベクタで暮らしているエトワールさんには過ぎた話でしたかな」

これ以上に凄いだなんて…
一体、ベクタの農作業の規模は、どれほどまでに凄まじい事だろう…
元々、ベクタで農作業用の陣術回路の研究をしていた身としては、実際の光景を見てみたくて仕方がなかった。

だが、それだけ広大な規模のナイルさん農場でも、ナイルさんの胃を満たし続ける事は不可能で、時折、島々…ではなく、竜達の上空に船を停泊させては、ありったけの食料を買い占めていた。
その、量と言ったら、元の世界線ならばベクタ大陸の年間消費量と変わらない程なのだが、その買い占めた食料の九割以上は、ナイルさんの胃へと収まっていった。

そんな会話や停泊を交えながら、ゴディヴァでの生活は続いていく。
生活…と言っても、食べる事以外は、ゴディヴァにも搭載されているサポーターが補助してくれる上、唯一の行為である食事をする為の口を動かす行為ですら、サポーターの反重力、移動操作によって、自分の力は殆ど必要としなかった。

「おや、エトワールさん。もうお食べにならないのですか?」
ある日、今日も食事を楽しみ終えた私へ、ナイルさんが声を掛ける。
ただ、その声は、少し心配そうな声色だった。

「けふっ…えぇ…今日も美味しい料理、ご馳走様でした」
アスターゼ草だって、もう数十房も使ってしまっているし、流石に今日も食べ過ぎかしら?
まぁ、たったの2500万tしかないのだから、まだまだ細めの体型だし、大丈夫よね。

そんな事を思いながら、私はサポーターに食後の口直しに甘いデザートを運んで貰う。

「そんな…たったそれだけしか食べないだなんて…エトワールさん…失礼ですが、貴女は食べなさすぎです…そのようでは、いつか身体を壊しかねませんよ?」
運ばれてきたケーキを頬張っていた私へ、ナイルさんはそんな事を言ってきたのだ。

「え…そうかしら…?自分では前よりは食べてる方だと思っていたのですが…」
「それは…以前のガリガリに痩せておられたエトワールさんに比べれば、そうですが…」
ガリガリに痩せていた頃…それは2000tも無かったころの私の事だろうか…?

「ですが…どうしても私としては、今の貴女もまだまだ心配でして。その…昔の自分を見ている様なんですよ…まだ商売を始める前の飢えていた頃の私をね…」
そう言う、ナイルさんの声は、とても深刻そうな声色だった。

「そうですか…そこまで心配されていたとは…なら、もう少しだけ頂こうかしら?」
確か、商売を始める前のナイルさんって…食うにも困るような困窮した生活で、随分とやせ細っていたと聞いていたけど…
今の私も、そんなに心配されるほど痩せすぎなのかしら…?

「はむっ…ごくっ…パリッ…けふっ…」
私は、ナイルさんがサポーター越しに差し出してくれた料理を口へと運んで貰う。

「げふっ…ぐぇぇっふ…うぷっ…はむっ…くちゃ、くちゃ…ごくっ…」
たった、一口だけで10トン近くある料理を、私の口に合わせて圧縮して貰いながら、食べ続ける。
食べた物の圧縮は、喉を通っている間に元のサイズに戻る為、充分に満足感を得られながらも早い速度で食べられるという、圧縮術式に感謝しながら、また一口。

だけれど、そろそろまた苦しくなってきた。
それもその筈。
もう、自分の本来の体重と同じ量を食べているのだから。
ピキピキと擬音が聞こえてきそうな破裂しそうなお腹が、私の食べた料理の量を物語っている。

「うっぷ…うぐっ…もうぅ…だべられないわぁ…げふっ…」
陣術越しに整えられた声でさえ、くぐもり、正直話すだけで胃の中の物が逆流しそうだった。

「おっと、それなら…」
そう言うと、ナイルさんは何やら、カプセルを取り出して、私に差し出してくれた。

「うっ…ごれは…?」

「これは、アスターゼ草を圧縮して詰め込んだ…胃薬みたいな物ですね。私も、商売を始めたころは小食な方でして…職業柄、飲み食いの席も多いのでよく使っていたのですよ。エトワールさんもどうでしょう?苦しいのが楽になりますよ?」

「ぞうなのね…では…いただきます」
私はお礼を言うと、カプセルを口に放り込む。

「ふぅ…ふしゅぅ…」
その瞬間、訪れたのは、圧倒的な空腹感。
それだけではない、一瞬の内に胃の中の物が消化され、即座に脂肪へと変換されている。

一体、どれだけの量のアスターゼ草を濃縮すれば、これだけの効果が得られるのだろうか…

「ふしゅ…ふすぃ…」
こんな空腹感、生まれてこの方、感じたことない…

溢れる涎が…口の端から滴り…
胃がきつく締め付けられる様な感覚から、私は苦し気な細い息を吐いている。

「うぅ…ナイルさん…」

「分かってます。食事ですね…直ぐに用意させますので…」
そう言うと、ナイルさんは自分も食事をしながら、私の身体の周囲に沢山の料理を並べてくれた。

何万…いや…何億トン…
もう信じられない様な料理の数々に私は心を躍らせる。

「んあぁっ!がぶっ…むしゃ…けふっ…ごくっ…はむっ…」
それを見た私は、理性や体裁など全てを捨て去る勢いで貪り始めた。

あぁ…美味しい。
ふふっ…この世界線に来てから、私は満足の最大値を更新し続けっぱなしだ。

どんどん…満たされていく。
私の身体の下、一緒に料理を食べているナイルさんの膨らんで行くお腹を、詰め込んだ料理の質量で押し返しながら、胃にありったけの料理を詰め込み続けた。

なんて…幸せなのかしら…
濃縮されたアスターゼ草の効果は凄まじく、いつまでも…私は満足感と空腹感を短いスパンで繰り返す。
その度に…感じた事もない幸福感が溢れ続ける。

「良い食べっぷりですね…けふっ…失礼。いやはや、エトワール様を見ていると、ベクタの巨竜たちに囲まれて、無事に生活が出来るのかと心配になりますが…この様子ならば大丈夫そうだ」
陣術で表示された画面越しに、安心したように微笑んでくれるナイルさんのそんな呟きを殆ど聞き流してしまう程に、私は食事に夢中だった。

それからの、ゴディヴァでの生活は、食べてるか寝ているかの記憶しか残っていなかった。

私の身体は…元々は世界一太った竜だっただけあって、太りやすかったのだろう…
いつの間にか、私達と一緒に食事をしていたアドレ君よりも、私の身体は…いつしか巨大に…重くなっていった。

そんな生活が、随分と長い間続いていた。
本来であれば、数か月で着く予定だった筈の飛行は、日々重量を増している私達の重さによって、随分と遅れてしまっていたのだ。

「げふぅ…おがわり…」
何度、声帯補助術式を調整したのか分からない。
幾ら調整を繰り返しても、私の体重の増加量に陣術が追い付けていたなかった。

追いつけていなかったのは、陣術だけではない…
常軌を逸した、大半がナイルさんの質量だと…思いたいけれど…私達の質量によって、万物の理すら歪める術…そんな理術ですら、悲鳴を上げ始めているように不安に思ってしまう。

「あのぉ…ナイルざぁん…ぐえぇぇっぷ…ぶね…げふぅぅ…だいじょぶでじょうかぁ…?」
すっかり狭まった呼吸器系の影響で、呼吸器系の補助を得ていても、おくびを抑えるが難しくなってきてしまった。
そんな、雌竜としての恥ずかしさに顔を赤らめながら、私はナイルさんに問いかける。

「ぐふぅ…だいじょうぶ…でずよぉ…ぶふぅ…ごんなの…じょっちゅうのごど…くちゃ…でずがらぁ…」
そう言うナイルさんは、説明をするの為に陣術で話すのも面倒なのか、それとも食事で忙しいのか、船にまだ余裕がある事を、陣術に表示された予想図で説明してくれたのだった。

早速、私は、ナイルさんから送られてきた予想図を食事の合間に眺めてみる。
そこに書かれていたのは、流石、理術と言ったところか…

理論上は、永久的にエネルギーを生み出せる理術に取って、私達の重量など、取るに足らないものらしい。

それよりも、問題は、ゴディヴァの機体の方で、何度も増築された機体の端からは、この航空中に更に増えていたナイルさんのお腹が、溢れ足り下がり…
まるで、巨大な円形の大陸から、脂肪の滝が流れているかのような…
そんな光景が広がっていた。

勿論、船に乗っているのはナイルさんだけでなく、私やアドレ君も乗っているので、その重さに船が耐え続けれられるのか不安に思えたが…予想図に表記された計算上では、ベクタに到着するまでは機体の耐久力にも余裕があるとの事。
流石に、ベクタに到着したら、改築しないと、今後の航空は不可能なようだが…

航空中に機体が墜ちてしまうのではと言う、不安も取り除かれ、私達は着実に…だけれど、日々飛行速度が落ちていくゴディヴァの上で生活を続け…ついにベクタへと到着したのだった。


8、ニュー・メガフロート・ドレイク << BACK / >◆9、ゴディヴァ再び  / NEXT >> 10、決心