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フラー教授のゆううつ

4、フラー教授のゆううつ

いつも通りの朝がやってきて、私は目を覚ました。軽く身をよじらせると、ベッドからずり落ちるようにして床に足をつける。
あの、思い出すだけでうれしい、いやさ恐ろしい一週間が過ぎ、私の体はなかなか膨らむのをやめようとはしなかった。
そのため、今ではお腹を先に動かすように行動しなければ、一人で起きるのもままならないほどになってしまったのだ。
洗面所に向かい、何とか腹を引っ込ませて顔を洗うと、私はまっすぐ食堂に向かった。
「おはよう。ハリアさん」
「フラー先生、ご飯の用意できてますよ」
頷くと、私は自分の席に着いた。目の前にはすでに私用の朝食が並べられている。
大きなボールいっぱいのシリアルと四枚切りのパン、皿に載ったベーコンエッグは九つの卵と一キロのほどのベーコンが使ってある。
シリアルの隣にあるボールの中には、ポテトとツナの二色サラダ。最近の私の好物だ。
四枚切りのトーストが二斤分と、果物が一杯に入ったヨーグルト、飲み物は牛乳とフレッシュジュースだ。
ハリアさんにいただきますを言うと、私はその朝食を腹に詰め込み始めた。
「今日はずいぶん早いんですね?」
「ああ、少しばかり用事があってね。学校に行く前によるところがあるのだ……ハリアさん、お代わり」
シリアルのボールとパン籠を差し出すと、私は残りのサラダをフレッシュジュースで飲み下した。
その間に、私の前には新しいベーコンエッグと蜂蜜とバターのたっぷり掛かったハニートーストが置かれている。
そのすべての朝食を詰め込み終わると、私は学校に向かうべく席を立った。
「はい先生、お弁当」
ハリアさんから手渡されたの籠を受け取る。彼女の傍らにあるコープ君の籠と、ほとんど変わらないそれを受け取って、私は外へ出た。
「また、食べてしまった……」
習慣と言うのは恐ろしいもので、私はすっかりマージ家のペースにはまってしまっていた。
はじめは今の十分の一すら食べられなかったものが、今ではさっき食べた分量でも八分目だと感じている。これでも少しは食べる量を制限しているのだ。アスターゼ草の影響があるときはもっとひどかった。
おかげで、今の私は昔に比べると十倍、いや二十倍は膨れ上がってしまっている。腕を回しても腹の先で手が組めない、むしろ突き出た腹の上に手を置いた方がはるかに楽なのだ。
歩く時も慎重にしなければならない、下手につまづいてしまうと地面をころころ転がってしまい、とても恥ずかしい思いをすることになる。
どうして、こんなことになってしまったんだろう。いや、自分の人の言葉に嫌といえない性格が災いしているのだ。
そんなことを考えつつ、私は学校の裏手にある林を目指して歩いていった。先延ばしにしていた仕事を片付けるために。
辺りに人気が無いことを確認して『フラグメント』を起動させる。
『フラー教授、連絡ご苦労様です』
「局長を頼む」
『はい……あら、風邪ですか? 声の調子がおかしいみたいですけど』
「い、いや、なんでもない」
太りすぎのために声がくぐもってしまったのを何とかごまかし、私は局長の声を待った。
『フラー調査員。調子はどうかね?』
「え、ええ、良好です。早速ですが、今回の収穫を」
私は手に入れたデータキューブを取り出し、フラグメントに繋いだ。
「物質転送を行います。物品はデータキューブ一個」
『データキューブ!? そいつは凄い! 早速送ってくれたまえ!』
局長の興奮した声にうながされて、私はフラグメントに備わった、備品転送装置を作動させた。
あっという間に虹色の箱が目の前から消えうせる。
『良くやった、フラー調査員。内容はこれから調べなければ分からないが、確実に我々の調査は前進しているのは間違いない』
「はい。ありがとうございます」
『ところで、今回の成果を含めて、一時帰国と有給休暇を取る気は無いかね?』
あまりに優しげな局長の声に、私は凍りついた。
「い、いえっ! 私はまだ、ここでやりのこしたことがありますっ!
 それが終わるまでは休暇や一時帰国などっ、とっ、とても考えられませんっ!」
『そうか……。しかし、そのように任務遂行に対して熱心な君のことを、私は誇りに思う。これからも君の働きに期待している。では』
通信が切れ、私は汗びっしょりになったままその場に座り込んだ。私の目の前には、丸く大きく突き出した腹が、ずっしりとした姿を見せつけている。
その大きな白い塊を叩いてやると、小気味の良い音とともに風船かボールのように弾んだ。
少なくとも、こんな体ではとても本国になど帰れない。もし、こんな姿を局長に見られたりしたら……。
「偉大なる方、グランアークよ……私を守りたまえ……」
私はぎゅっと目を閉じて、祈りを捧げた。
こうなったらダイエットしよう。私は固く心に誓った。同時に、鞄と一緒に持ってきたバスケットに目が留まる。
その中から漂ってくる香りに、私の口の中で生唾がじわりとわいた。
ダイエットは、明日からにしよう。
私はそう呟きつつ、生徒たちの待つ教室に向かっていった。

<了>


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