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フラー教授のもしも −ベクタへ移住編−

番外章 ブルラッシュ

  *ブルラッシュ(Bulrush)
    太藺(ふとい)と呼ばれる花。
    花言葉は、肥大。 <雑学花言葉より>


やはり周りの視線が恥ずかしい……いくら普段この肥満体型を見せてても、このような状況で衆目を浴びるのは何とも恥ずかしいものだ。
「貴方! もう、一言電話してくれればいいのに!」
「だ、だって……何だか恥ずかしくて――」
「だからって、こんなにもなるまで我慢しなくても……」
ズゴゥーン、と背後から壁が崩れる轟音が聞こえて来た。ようやく、私の脱出口が開いたようだ。

一週間前、私は校長室にいた。翌日がGWだったので、私は一週間会えなくなる校長室を掃除していた。
だがその最中も、私の腹は常に空腹を促し、仕方無く何かを食べながら掃除をしていた。
そして掃除が終わって部屋を出ようとした時だった。
「ん……んぐぐぐぅーーー!」
体を部屋から押し出そうとするが、どうも上手くいかない。
確かに最近、部屋を出るのに苦労するようにはなっていたが、それでもまだ出るには出れた。だが今は――外に出れない!?
私は体を何とか捻ったりしたが、どう足掻いても扉を抜けることが出来なかった。
そこで私はエルにこのことを報告しようとした――が、太り過ぎて部屋から出られない、ということに羞恥心を感じ始めて、
私は妻であるエルにすら、この事実を伝えるのを躊躇ってしまった。だから私は仕方無く、校長室でGWを過ごすことにした。
エルには後々電話で、ダロンさんの所へGW中は泊まると報告しておいた。
実はダロンさんは、私が結婚した数ヵ月後に結婚をして、今じゃ夫婦円満の生活を送っているのだ。
そして休みの日などは、ダロンさんが私達を自宅へとパーティーに招待してくれるのだ。
だが今回のGWは、たまたまエルがベクタ大陸周辺を回って学校の宣伝活動をしなくてはならず、パーティーには行けなかったのだ。
そこで私はこの状況を巧く使って、エルに今の状態を隠すことにし、そして見事成功した。エルは、一切の懐疑心を抱かなかった。
そしてGW中、私は陣術と電話を駆使して一日中校長室で過ごすことにしたのだ。
――が、それがそもそもの過ちだった。
ただでさえ大食感の私が、一日中校長室、それも一切動くことなく生活していれば、明らかにいつも以上に太ることは目に見えている。
おかげで校長室から出られないどころか、とうとう私は校長室を埋め尽くすほどにまで肥え太ってしまったのだ。
そしてGWが明け、エルが校長室に入ろうと扉を開けた時、そこから一気に私の体肉が溢れだして事実がばれ、そして今に至るのだ。

「はい、皆下がって! 今から校長先生を救出するぞ!」
消防員が総出で、私を校長室から引っ張り出した。そして私の体をリフトに乗せた後、私を大地にゆっくりと降ろした。
ようやく自由の身になった私は、体を起こし、とりあえず消防員達にお礼と謝罪の言葉をかけた。
「全く、別に恥ずかしいことじゃないでしょ? ベクタにはあなた以上に太った竜が何人いると思ってるのよ?」
「いや、その……何だか、こういう状況になった途端、とても恥ずかしくなっちゃって――」
チャーチャチャチャーチャチャーチャチャー……
突如私の携帯が鳴り出した。私は校長室から持って来てもらった鞄から携帯を取り出し、急いで通話ボタンを押した。
「はい、もしもし?」
「あ、フラーさん? あたいはラドブロック、ダロンの妻です」
「あー! これはどうも、ラドブロックさん。何か御用ですか?」
「それがね……あたいのダロンがね……」
「……ダロンさんが……?」
「……ついに、肉塊竜になっちゃったのよ!」
「――えぇ!?」
「あたいは仕事があったから、数ヶ月間家にダロン一人残していたのよ。そして今日、家に帰ってみたら……」
「……帰ったら?」
「ダロンが、その……自室にいっぱいになってて……それでさっき、消防員に救助してもらったのよ」
「あ、は、そ、そうですか……」
ダロンさんに起きた出来事が、たった今同じ形で私の身に起こっていたので、私はただ頷くしかなかった。
「……? そういえばフラーさん、外が騒がしいようですけど、何かあったんですか?」
「ま、まあ、色々と……」
「あら、何かの事件?」
「い、いや……実はな……」
私は、ダロンさんと同じ出来事が自分の身に降りかかったことを述べた。
「……男って、みんなそうなのかしら?」
「いや、これはたまたまだと思います……」
「まあ仕方無いわね。とりあえず、ダロンがそういう状態なの。だけどもうはっちゃけた見たいで、またパーティーをするそうよ?」
「だ、大丈夫なんですか?」
「なんかね、ダロンはもう肉塊竜に対して隔たりを無くしたらしいの。だから今回のパーティーは、相当なものにするそうよ」
「うーん、そうですか……分かりました。それで、いつそのパーティーを行うんですか?」
「来週の日曜日にでもと考えてはいるんだけれど」
「あー、その日は大丈夫ですね。分かりました、エルももう今こちらにいるので、そのことを伝えておきますね」
「お願いね」
そう言って向こうは電話を切った。私は携帯を鞄にしまい、パーティーのことをエルに伝えた。
「あら……ダロンさんも、とうとう肉塊竜になっちゃったのね……だけど大丈夫なの、貴方? そんな体でパーティーだなんて……」
「いやいや、問題は無いさ。今回は部屋から出られなくなっただけで、別に体に問題は無いからな」
「そう……」
エルに不安を抱えさせたまま、私は来週のパーティーを楽しみに待った。

そしてパーティーの時がやって来た。私とエルはダロンさん宅へと向かった。するとそこには、既に招待されたダロンさんの友人、そして
「――! ブラッブ!?」
「もぐもぐ――んぐ? おぉー、エルぅ、久々だねぇ!」
「全く……相変わらずだね」
「ごくん……げふ……そりゃあここのベクタの料理は――もぐもぐ――ぜんっぜん飽きないからねぇ」
「はぁ……あんたのその貪婪な食欲はどうにかならないのかしらねぇ? それじゃあベクタ竜以上よ?」
「もぐもぐ……ベクタ竜以上じゃないとは思うけどぉ? もぐもぐ……ごくん……そういえば、横にいるのは?」
「あたしの夫、フラーよ」
「むしゃむしゃ……フラーさんか! 初めまして、エルの幼馴染のブラッブです」
「初めまして……エルから、あなたのことを兼々聞いてます」
「もぐもぐ……噂ぁ? ……ごくん……あー、そういうことね! いやぁ、ここに――もぐもぐ――来たのは正解だったよ」
「……ま、もうあたしも何も言わないわ。ベクタって、そういう所なんですものね」
「もぐもぐ……そうそう! ベクタは――ごくん――こうでないとね」
「……さてと、それじゃあ私達はそろそろ行くとしようか、エル?」
「そうね。じゃあブラッブ、またね」
「もうもぐ……じゃあねぇー!」
腕と一緒に巨体を揺らしながら、ブラッブさんが手を振って私達を見送った。
だがそんな状況でも、決してブラッブさんは手から食べ物を離さず、口の中も頬張り状態だった。

暫く広いパーティー会場を先へと進むと、向こうの方に一際目立つ巨躯の図体が見えた。
それは、私の体を優に十倍は超えていそうな体付きだった。
確か過去に、私が始めてこのベクタへ来た時も同じような台詞を肉塊竜に向かって言った気がするが、今の私はその時以上に太っていて、
それはつまり、十倍という数字の結果は昔のとは大きく異なるのだ。故に、私の十倍というのはとんでもない大きさなのである。
「よぉ! フラーさん、久しぶりだな!」
野太く響く声が、上から聞こえてきた。
あまりにも付き過ぎた脂肪が体を押し上げ、ダロンさんの顔は私の身長よりも三倍高い位置に擡げていた。
だが決して身長が高い訳ではなく、頭から脚までの長さは不変なのだ。これはきっと、太る限界を超えた結果成し得るものなのだろう。
「久しぶりです、ダロンさん」
既にこの時、エルはダロンさんの妻、ラドブロックさんと会話をしていた。
「聞いたよフラーさん、校長室から出られなくなったんだって?」
「ま、まあ、お恥ずかしいながら……」
「そんなことないって! 俺なんて校長室どころか、自分の部屋から出られなくなったんだからな!
そして気付いて見ればもう肉塊竜。正直最初は嫌っていたんだが、以外に成って見ると面白いものだよ」
「そうなんですか?」
「ああ。何せ動けないから、もろに陣術を活用出来るし、この体のおかげで妻の料理を止むことなく食べられるし、最高さ!」
「あー、その気持ち分かります。妻の料理は、陣術を活用しようとも味に個性が出るし、食べてても飽きませんからね」
「そうそう! だからもうそれを考えるだけで――」
ぐごぅーー……!
大地を轟かさんばかりの、地を揺るがす様な腹の虫が辺りに鳴り響いた。そのあまりの勢力に、虫の音は辺りを谺するにまで至った。
「腹が空いてしまうんですね」
私は笑いながら言った。過去のダロンさんとは偉く違った食の追及度を、彼自身の体が身を持って呈したのが可笑しかったのだ。
「は、はは……こりゃ参ったなぁ。何だか食べ物のことを考えると、すぐに腹の虫が反応するんだよ」
「はは。だけど失礼ながら、外観はいつでも鳴ってそうに見えますけどね」
まだくすくす笑いしながら私は言った。
「そりゃ無いぜ、フラーさんよぉ……。……さぁて、そいじゃいっちょ行きますか、フラーさん?」
「……ですね、ダロンさん」
ダロンさんの巨体が動き始め、彼はパーティー会場を後にした。それと同時に私も、彼に付いて会場を後にした。
実は私達だけは、いつもここではなくティファールさんが経営する宿で食事を取るのだ。
そしてその場所は、宿の裏に設置された肉塊竜用専用の特殊なテラスで、私達はいつも肉塊竜を眺めながら食事を取っていた。
……だが今日からは、私はその肉塊竜と共に毎回向かい合って料理を食べることになるだろう。
私とダロンさんは、テーブルを挟んで互いが向き合う位置に座った。
「あら、久しぶりフラーさん! 最近奥さんはどう?」
「いつも通りですよ。最近ちょっと迷惑かけちゃいましたけど」
「聞いた聞いた。校長室から出られなくなったんですって? 夫婦何だから、言いたいことがあったら言わないと!」
「そ、そうですよねぇ……」
「それとダロン。まさかあんたが肉塊竜になろうとはねぇ」
「まあ誰しも竜は変わるってことさ」
「ま、ベクタじゃあそうなのかも知れないね――じゃあ、注文は?」
「私はスパゲティの25Lで」
「俺はハンバーガーの50Lで!」
「はい、じゃあちょっと待っててね」
やがて到着したスパゲティとハンバーガー。スパゲティは一般的に見て山のような量でも、私にとっては普通……
しかしながら、ダロンさんが頼んだ50Lサイズのハンバーガーは、そんな私から見ても山のまた山、もう一つの空間にも見えた。
とその時、突如あの地を揺るがす様な、ぐごぅー、という轟々とした腹の虫が聞こえて来た。
「へへ、昔は考えられなかったが、今じゃこうじゃないと考えられないな!」
「す、すごい量だなぁ……やはり肉塊竜ともなると、サイズの比率が格段に違うな……」
「ま、そのうちフラーさんも肉塊竜になって、こんなんじゃあ腹の足しにもならなくなるさ」
そういってダロンさんは、一つの巨大な空間を支配するハンバーガーを食べ始めた。そのかぶり付きは様は、まるで伝説の超巨竜の様だ。
私もいつかこのようになってしまうのだろうか、という疑問を残しつつ、目の前にあるスパゲティに目を取られ、その欺瞞は消えた。
私はいつも食べてる”普通”の量のスパゲティを食べ始め、ダロンさんと今までの出来事を話し哄笑しながら、互いの料理を平らげた。

私はダロンさんと共に、満腹になった腹を撥ねさせながらパーティー会場へと戻った。
すると既にパーティーは終わりを向かえており、そこにいたのは互いの妻、そしてブラッブさんだけだった。
「あら、珍しく遅くなったわね」エルが言った。
「今回は色々と、しかも互いに似た騒動を起こしたからな。ついつい話が盛り上がったんだよ」
「あたい達も、互いの夫が起こした騒動について盛り上がったねー」
「はは。俺らが話題になったことは、案外良かったんだな」
「あんたねぇ……あたいの気持ちにもなってくれよ」
「仕方が無いだろ? お前の料理が美味過ぎるからついつい食べ過ぎちまうんだよ」
「もう、こんな時にお世辞を言わなくても良いだろう?」
「良いじゃないか、本当のことなんだからさ」
「ふふ……あなたったら、もう!」
ラドブロックさんがダロンさんのことを小突いた。だが肉塊竜の巨体は、その大量の脂肪によって刺激を神経まで届かせなかった。
その代わりラドブロックさんには、ダロンさんの軟らかでぶよぶよとした肉感触の刺激が送られた。
「それじゃあ、あたし達はそろそろ行こうかしら、貴方?」
「そうだな……じゃあダロンさん、ラドブロックさん、また今度」
「ああ、また今度な、フラーさん」
「またね、フラーさん、エルさん」
「ええ、ラドブロックさん。じゃあまた」
そう言って、私達はダロンさん宅を後にした。その途中……
「ブラッブ、まだあんた食べてるの?」
「ごくん……そりゃあね、せっかくのパーティーなんだし全部――もぐもぐ――食べておきたいからねぇ」
「ふふ……本当、あんたも変わったね」
「もぐもぐ……君もだよ、エル。結婚もそうだけど――もぐもぐ――僕のこと、前は嫉視してたのに、今じゃ普通の目だもん」
「そりゃそうよ。あたしだって、変わるときは変わるのよ」
「むしゃむしゃ……なるほどねぇ……ごくん……」
「……それじゃあブラッブ、またね」
「もぐもぐ……またねぇ!」
こうして私達は家路へと着いた。



その後も、ベクタに住む色んな方々は、私を含めてみんな変わった。性格も体型も、全部変わった。
どうやらベクタは、料理が一番美味い国だけじゃなく、竜々の竜生を明るいものへと変える一番の国でもあるのかも知れない。
ここにいれば、誰しもが笑顔を見せる明るい竜に生まれ変わる。その代償に、体は極度に肥大化してしまうが……
だがそれを気にしない、人柄重視の人生は素晴らしい。そしてそれは、体型のことなんて関係無いのだ。だから私は――肉塊竜になった。

「貴方? そろそろパーティーに行く時間よ?」
「おおそうか、もうそんな時間か」
三回目の増築を行った校長室から出て、私はエルと共にダロンさん宅へと向かうことにした。そしてその途中、
「あ、フラー校長先生! 先生みたいに大きくなるにはどうすればいいの!?」
と、カルボナール校で一番低級クラスに属している子竜が、廊下のすれ違い様にそう言って来た。
私はカルボナール校随一の肉塊竜ということだけでなく、ベクタ全体で見てもかなりの肉体の持ち主なのだ。
そんな私は良くこういった質問を受ける。そしてその時はいつも、こう答える。
「一度ベクタ大陸を出て過ごし、そこで環境に順応した後このベクタの地に戻って過ごせば、誰にでもなれるよ」と。
どうやらベクタに生涯在住するよりも、私のように環境のリバウンドを行った方が、肉体のリバウンド同様勢い付いて良いらしい。
何故なら私は、あのダロンさんをも超えるほど太り、今も尚差を広げているからだ。
考えて見ればあのブラッブさんも、私が初めてあった当初既に一般的な肉塊竜をも超過していた。
やはりダロンさんのような永住タイプより、私やブラッブさんのような環境変化のリバウンドが、一番肉塊竜の頂点に近いらしい。

ダロンさん宅に着くと、既にパーティーは開催されており、奥にはダロンさんとラドブロックさん、そしてブラッブさんがいた。
相変わらずのパターンで、私とダロンさんはティファールさんの宿へと赴き、互いの妻は会話に専念し、ブラッブさんは食に専念した。
私とダロンさんがティファールさんの宿に着くと、ティファールさんがこう問いかけて来た。
「また随分とお互い太ったわねぇ。特にフラーさんなんか……ダロンを超えるなんて驚きだわ。……それで、注文は?」
「俺はハンバーガー75Lで」
「私は――」
少々悩んだ。ここは肉塊竜の維持として、無謀にも最高記録に挑戦したくなった。
「……私は、スパゲティを100Lで」
「あら、ついに王台に挑戦のようね、フラーさん。それじゃあちょっと待っててね」
暫くして、ティファールさんが超特大のハンバーガーとスパゲティを持って来た。
私にとってこのハンバーガーのサイズは、軽食やおやつにすらならなさそうだったが、この王台のスパゲティにはさすがに驚いた。
「がんばってね、フラーさん。これを食べ切れれば、私の宿で一番の大食いになれるわよ!」
「分かりました、ティファールさん。がんばって食べ切って見せますよ!」
「フラーさん、がんばれよな! 俺はのんびりハンバーガーでも食いながら応援してるぜ!」
そして私は、ティファールさんの宿での最高記録に挑んだ。見た感じこの量に負けそうな気がしたが、肉塊竜の頂点に近い私は、
驚くほどそのスパゲティが”軽い”と感じられた。おかげで食も徐々に進み、徐々にその量を減らしていった。

――そして

「ごちそうさまです!」
「おぉ、フラーさん、やるじゃないか! もうフラーさんはベクタ随一の肉塊竜かも知れんな!」
「いやぁ、まだまだでしょう。本場のベクタ竜には勝てませんよ」
とは言いつつも、内心微妙に勝ち誇っている部分はあった。
「あら、とうとう100Lサイズを食べちゃったのね」
「えぇ、意外にも簡単でした」
「そうなの? どうやらフラーさんは、ダロンが言うように本当の――」
ぐごうぅーーきゅるるるぅーー……!
強大な腹の音が辺りに谺した。それは長らく続き、さらには地響きが起きたかのような錯覚を起こさせた。
「す、すまない……」
私は思い切り顔を赤らめてしまった。あんだけ食べた後に、まさかこれだけの空腹音を鳴らすとは思いにもよらなかった。
「ぷっ――はぁーははは! 最初は俺が腹を鳴らしていたのに、今じゃフラーさんが鳴らす番と来たか!」
「もう、フラーさんったら……それじゃあ、お代わりでもいります?」
「え、えぇ……それじゃあ、お願いしようかな?」
「じゃあ、何にします?」
「そうだなぁ……」



  「ハンバーガーの100Lを!」






「私のこと、最近どう思う、エル?」
「え? まあ、別にいいんじゃないかしら、貴方?」
「ま、まあそうだけど……何だか最近疑問に思うんだよ。本当にこれでいいのかって……」
「何よ今さら。あのね、言っときますけど――」
「だって、確かにそこらにあるトロフィーや賞状に関しては誇れる、けど――」
「だーかーら、貴方はあたしのことが好きじゃないの?」
「な、何を言ってるんだ! 私はエルのことが大好きに決まってるじゃないか! ……けど、こんな私は――」
「言っとくけど、あたしはね……」
一時の沈黙が流れた。
「あたしはね、貴方のようなその姿が好き……」
「――ぇ?」
「何故かしらねぇ? このベクタに来た時から、徐々にこの悪趣味が身に付いちゃったようね」
「い、いや、そんなことはない! だって、そういう竜達がいるから、こうやって私が存在出来るんだし……」
「そう? じゃあそれでいいじゃない」
「? ど、どういうこと?」
「全く……何でこうも肝心な時に頭が冴えないの? 貴方は、今の自分に疑問を持ってるんでしょ?」
「ああ……これでいいのかって……」
「ならあたしの為に貴方が存在してよ。貴方の存在が、あたしの生き甲斐何だから」
「そ、そうか?」
「そうよ。今のような貴方じゃないと、あたし好きにならないわよ?」
「……ありがとう、エル」
「もうすっきりした?」
「ああ。エルのおかげで、気持ちが楽になったよ」
「なら外を見て」
「外?」
私は窓の方を見遣った。すると外には山盛りの料理が仰山並べられており、背景を全て料理が埋め尽くしていた。
「こ、これは……?」
「今日は結婚記念日よ、忘れたの?」
「あ――そ、そういえばそうだった……すまない……」
「いいのよ。さあ、気分が晴れたんなら、いつもの通り食べてよ!」
「あ、ああ! そう言われると徐々にお腹が――」
そして毎度のこと、私は隣家に余裕で届くほどの轟音を腹の中から轟かせた。だが私はもう顔を赤らめたりはしなかった。
「さあ、いってらっしゃい!」
「ありがとうな、エル、行って来ます!」
私は部屋を出て庭へと向かった。そしてそこにあった半無限の料理をガツガツと平らげていった。



そう、そうなんだ、これが、私の”生き方”なんだ。
私はもう止まらない。今や肉塊竜の頂点に君臨しても、私の目指す先はそのまた奥の奥、永久に繰り返される点を目指すのみなのだ!



     THE END


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